海原摩魚2
1
移動中。
ダークシルバーの普通車。榊雷蔵の班。
雷蔵を運転席に、助手席は響子、後部座席に虹子と摩魚。
この配置は固定していた。
青信号に変わったのを確認した雷蔵は、ハンドルを切りながら思案橋繁華街を左折して出ていく。虹子の隣で、摩魚は財布の中身を確認していく。一万円札が五枚と、千円札が八枚。これは、長崎大学の女子トイレで片倉祐美から突き飛ばされて洗面台の鏡に後ろ頭を打って出血多量の大怪我をした当時の摩魚が所持していた金額そのままであった。手元に置いている金額としては、一般的な大学生よりは少し多目な感じだった。二つ折りの深海青色の合成革製の財布をパチンと開いて、紙幣入れとファスナーを引いて小銭入れの中身も確認した摩魚は、口もとに微妙な笑みを浮かべた。太さ一ミリ径八〇ミリのゴールドメッキのリングピアスを日昼の太陽光をキラキラと反射させていた、虹子のやや吊り上がった切れ長な目に、実姉の手持ち財産が“たまたま”入ってきたため、ちょっと気まずそうに目線を横顔にやったとき、彼女と目が合ってしまった。
摩魚は、実妹へと薄ら笑いを向けた。
「あなたたちのおかげで、財布は中身も無事よ。ありがとう」
「え、その……。こちらこそ…………」照れ臭い。
「虹子は、輸血してくれたんでしょ?」
「ええ。妹として当然のことだと思って」
「ふふ」
同じ血の妹に愛らしさを感じて小さく笑ったのちに、運転席の兄弟子にへと声をかけていく。
「ねえ、雷蔵くん」
「どうした?」
「ごめんだけど、浜ノ町の化粧品屋さんに寄って買い物しても良いかしら?」
「まあ、それは良いですけど」
「良かった。ーーー私の行きつけがあるから、そこにお願い。戦化粧をしたいの」
「そりゃあまた、ずいぶん気合いが入っているな……」
ということで。
響子と虹子を引き連れて“姫様”は行きつけの化粧品店に立ち寄りま、愛用しているメーカーのを一式買い揃えて満足気に雷蔵の車へと戻ってきた。下地もファンデーションもアイシャドウもマット系レッドのリップまで全て化粧し終えてきて、摩魚は準備万端であった。“姫様”のその輝きを増した美しさと強さに、雷蔵は響子という最高の相棒がおりながら摩魚に見とれてしまっていた。助手席に着いた彼女から肘で軽く小突かれて我に帰った好青年が、笑顔を隣に見せたあとエンジンを点火した。有料駐車場を出て交差点まで上り左折して、正覚寺前を通過して下り、交差点の信号がちょうど青に変わったのでそのまま突き抜けていき、賑橋の交差点で信号待ちに入った。
雷蔵は、摩魚に対する疑問が多かった。
「摩魚さんはさ」
「うん」
「アルバイトは少林遊園地だけだったのか?」
「いいえ。芸能…………というか写真やDVDのモデルもして学費や趣味の“足し”にしていたわ」
「え!?」驚愕する雷蔵に。
「な! なんだってーーー!」
オカルト探究漫画の如く驚きを上げていく響子と虹子。
衝撃を隠せないでいる三人に“ニコッ”と笑いかけたのちに。
摩魚は語りを続けていく。
「東京の芸能事務所から来るスカウトは全て断っていたわ。この地元長崎で“間に合っていた”から」
「所属していた所はどこなんだ?」雷蔵の質問に。
「招き猫広告。ヒメさんと社長の“紫さん”には本当に良くしてもらっているよ。あと、社員の人たちや、同じ所属のタレントたちも。それと、ミドリちゃんもこの会社に籍を置いているんだ」
「なんだって? それも初めて聞いたぞ?」
「うふふ。そうでしょ? 秘密だったんだもの」
「げ、芸名って使っていたの?」虹子からの問いに。
「ええ、もちろん」と、明るく答えて。
「なんて名前だったの?」好奇心を顔に出してきた虹子。
「『ありま まな』って言って、平仮名にしていたよ」
「えええぇぇーーー!!」仲良く声を上げる虹子と響子。
2
時を数年前に遡り。
海原摩魚、十六歳のとき。
八月の九州地区チアリーディング大会の観戦で知り合った潮干ミドリと、他六名の友達、潮干タヱと黄肌有子(出場選手)と黄肌玲子と海淵真海と摩周ホタルと浜辺亜沙里。そのうちの潮干ミドリが芸能界入りを希望していた話しを思い出して、大会の二ヶ月後くらいに潮干家へと遊びに行った際に、摩魚は彼女の部屋で決意を切り出した。摩魚の話しを聞いたときに、ミドリは緑色の瞳を潤ませてキラキラとさせて笑みを浮かべて彼女の手を優しく取って“うんうん”と無言で喜んだ。
そして。
腰まである長い黄金色の髪を三つ編みお下げにしたミドリと、天然シャギーの入った艶やかな長い黒髪を襟足で結んでいた摩魚と、二人仲良く手を繋いで『招き猫広告株式会社』の扉をノックして入っていった。
客間を兼ねた小会議室へ入室。
「お疲れ様です。ヒメさーん、この前話していた女の子です。イイ娘でしょ? 私が保証します」
瞬間、ブフォオッ!と吹き出した副社長の摩周ヒメ。
ピースを片手にタバコの煙に“むせて”咳き込んでいく。
冷えた緑茶を勢いよく流し込んで、落ち着かせた。
そして、娘二人に振り向き。
「摩魚ちゃんじゃない! なに考えてんの!?」
「大丈夫です。もう芸名は考えています」
真顔で答える摩魚。
「いや。そーじゃなくって」
とりあえず、二人をパイプ椅子に座らせたあと自身も腰を下ろして。困った顔をして、アルミ灰皿にこね繰り回してタバコの火を消していった。ヒメは少々沈んだ表情で静かに溜め息を吐いたのち、気を持ち直して目の前の二人に再び向き合った。
「ねえ、ミドリちゃん」
「はい」
「友達を引きずり込むようなこと止めてよ」
「縁故採用しているみたいだからですか?」
「そう」
「え? でも、摩魚さんはヒメさんの血縁者じゃないですよね?」
「そうだけど。そうだけども、友達を紹介してその子を採用って形も似たようなモノでしょ」
と、そこへ。
「私、摩周家の血縁者ですけど」
唐突な摩魚の告白。
目を見開き沈黙するヒメとミドリ。
「正確には、安兵衛さんの弟の刃之介さんの孫娘の曾孫娘、摩周鱗子の子供が私です」
「な! なんだってーーー!!」
オカルト探究漫画の如く驚きを上げていくヒメとミドリ。
「だったらますます駄目じゃない!」
両手の平で机をバン!と叩き。
真正面を見て、必死な顔つきで訴えていくヒメ。
これにあまり驚きも堪えてもいなかった摩魚。
気持ちは揺らいでいなかったから、当然といえば当然である。
左右の虚空へと瞳を流したあと、ヒメは再び摩魚を見た。
「で。そういう事情、いつ知ったの? 私、初めて聞いて驚いているんだけど」
「十六を迎えた日に母さんから教えてもらいました。ーーーあなたには生みの親がいます。ーーーって」
ーーーーーー
海原摩魚が十六歳を迎えたとき。
晩御飯後。
母の海原慶子が、誕生ケーキを八等分に切り分けて、長女の摩魚から順に次女の“みなも”と夫の徹哉ときて最後に彼女自身の分といった、時計回りに配膳し終えたところで、慶子は切り出した。
「摩魚。誕生日おめでとう」
「ありがとう」愛らしく微笑む長女。
軽く深呼吸したのちに、慶子はその美しい顔に決意を表した。
隣の徹哉とアイコンタクトして、再び摩魚を見る。
「あなたはもう、考える力も身体も大人を迎えた年齢になったから、大事なことを話します」
「え? 私まだ、思春期の半ばだけど?」
「そう。思春期なんだけど、思考と身体は大人という若年者では成長の過渡期なの。矛盾しているだろうけれど、どう転ぶかを選ぶのは“その年齢”を迎えた以上は、あなた自身のことは“摩魚”が決めて進みなさい。だから矛盾しているようで矛盾していないし、思春期だけど大人でもあるの。なんにも変じゃないの。ーーー分かった?」
「はい。なんとなく」
「なんとなくでも良いのよ」
「へえ。ありがとう」
「どういたしまして。ーーー話し進めて良いかな?」
「どうぞ、どうぞ」
摩魚と“みなも”。姉妹仲良く手のひらを差し出した。
娘二人の愛らしさに目じりを下げたのちに、慶子は改めて話しを切り出した。
「結論から言うと。摩魚、あなたは、私たちの娘ではありません」
「え?」目を見開き驚愕する姉妹。
「あなたの生まれは、螺鈿島の陰洲鱒町。そして産みの親は、摩周鱗子という人が本当の母親で、有馬哲司という人が本当の父親です。よって、私とお父さんと妹の“みなも”とは血の繋がりは全くありません」
「ううう嘘でしょ?」噴き上げる小粒の脂汗。
「本当よ」
「な、な、な、な、な……!」
「摩魚と私たちの関係は、養子」
「…………」
「でもね。私と鱗子は、お互いが信頼できる友達なのよ」
「へ? 本当?」
「本当本当。だから彼女は私たちに直接預けたし、私たちは彼女たちの思いを受け取って摩魚を守って育てることを決めたんだよ」
「す……、凄い」
「私と鱗子は高校は違っていたけれど、市内の武術交流体育大会で知り合ったのが“きっかけ”で仲良くなって、今もその関係が続いているのよ」
「素敵……!」黒い瞳をキラキラ輝かせた。
「うふふ。ーーー鱗子はね、島の儀式から脱出する前に白無垢を着て、手短ながらも結婚式を上げたのよ。哲司さんと」
「白無垢!? はわー。良すぎ」
熱くなった頰を両手で持ってトキメいた摩魚だったが、直後、間に母の発した不穏な単語に気がついた。
「ーーーん? 儀式から脱出? その島、ヤバくない?」
「ヤバいのは島ではなくて、町にある新興宗教団体ね」
「ちち、ちょっとその辺詳しく……」
「話しが逸れてしまうから、ソレはあとからね」
「……うん……」
慶子の軌道修正が入り。
タブレットを持ってきて、お膳の真ん中に置いて開いた。
「私の友達。そして、あなたの母親の摩周鱗子よ」
慶子から見せてもらったその液晶画面には、摩魚を成長させたような感じの美しい女性が微笑みを浮かべて写っていた。この人物を見た摩魚は、思わず溜め息とひと言を洩らした。
「美人……」
「でしょう?」自慢気に笑みを浮かべる慶子。
「うわあ! お姉ちゃん“そっくり”! 綺麗」
と。みなもは瞳を輝かせて声をあげた。
娘二人の反応に良好さを見た慶子が。
「この人が、摩周鱗子。今は有馬鱗子ね。ーーーそして、その隣にいる女の子が、あなたの実の妹の有馬虹子。可愛いでしょ」
画面上の鱗子の横に並ぶ少女を指差して、こう述べた。
この更なる事実を受けて、摩魚は驚愕していく。
「私に、母さんと妹が二人ずつ、いた、なんて…………!」
「産みの親と育ての親がいて、さらに血の繋がった妹もいる。だから摩魚、あなたは極めて特殊な環境にいるのよ。そしてこれからこの先、摩魚が生まれた町、つまり陰洲鱒町の人たちと関わることが出てくると思う。けれども、私は受け入れろとは一方的には言わない。だけど、あなたたちの知っての通り私は過保護でもないから、その辺の判断は摩魚自身が下して進む道を決めなさい」
「分かったよ。母さん」
と、以上のようなことが起きて。
ーーーーーー
「ーーーということです」言い終えて、晴々とした顔の摩魚。
「ということです、って……。ーーーてかさ。あなたのお母さん、なかなか思い切った人ね」
事情を聞いたのは良いが、どうしたものかとヒメは困った。
「んー。あなたのご先祖というか、まだ生きているんだけどさ。その摩周刃之介って、私の叔父なんだけど。ーーーさっきの話しの内容じゃ血筋までは出ていないよね?」
「はい。でも、その誕生日のあとに母さん…………というか産みの親の鱗子さんとリモートで会う機会ができまして、そのときから私の血筋をいろいろと聞きました」
「なるほどねえ」
そう言ったヒメは、腕を組んで数秒間考え込んだ。
そして、決まったのか。
彼女は腕を解いて机に両手を置いて、摩魚を真っ直ぐ見た。
「厳しいようだけど、やっぱり駄目。私としては、あなたがますます近しい身内と分かった以上なおさら採用するわけにはいかないのよ」
「え…………。そんなに…………?」
涙を目に溜めて、摩魚は声を掠れさせていった。
そんな友達の反応を見たミドリが、悲し気な顔を浮かべた。
机から両手を引いて、ゆっくりと背もたれに掛けていくヒメ。
二秒の沈黙をしたのちに、再び摩魚へと語りかける。
「話しを聞く限り、あなたは私の姪っ子ね」
「…………え?」と驚いた顔が、なんだか嬉しげだった。
ガチャリ。と。
ここで小会議室の扉が開き、新たな女性が入ってきた。
「お疲れさま」魅力的なハスキーヴォイスの美女。
「お疲れ様です」姿勢を正して会釈するヒメ。
扉を静かに閉めて入室したきた長身美女が歩いていくのに合わせて、摩魚とミドリは首と目で追っていく。この二人の様子をヒメは愛らしく感じたのか、思わず“うふふ”と目じりを下げた。そのハスキーヴォイスの美女が、パイプ椅子を引いてヒメの隣に着席した。
尾澤菜・アメテュスト・プルート。
㈱招き猫広告の代表取締役。社長。
ドイツ生まれのドイツ育ちで、日本に嫁いできた。
茶色い瞳で目の前に座る女子高生二人を見たのちに、ヒメに顔を向けて。微笑んだ。
「いいんじゃない。採用しちゃえば?」
「…………え?」鶴の一声に驚きを隠せないヒメ。
「海原摩魚さん。て言ったかしら?」
プルートの問いに「はい」と答えた摩魚。
社長が机に乗せた両手を組んで、少し身を乗り出した。
「じぶんからこの業界に飛び込んできたなんて、偉いわね。ーーーということで採用。綺麗どころが増えるのは良いことよね。彼女を採用しなさい」
そう、ヒメを見て意を決めた美人社長であったが。
「そう仰いますがね。摩魚さんは私の姪っ子なんですよ。縁故どころか、バリバリの身内です」
部下である彼女の引かない発言に、社長は微笑ましく見て。
「姪っ子でも良いじゃない。ーーーあのね、ヒメちゃん。あなたの主張も分かるけれど、縁遠い人たちばかりを選んで採用するっていうのは難しいのよ。会社を大きくしていきたかったら、始めは血縁者を採用して第三者に繋げていけば良いんじゃないかしら?」
「ええ、まあ。私も“紫さん”の言うことには同じです」
「血縁者以外を選んで採用するのは難しいってところ?」
「はい」
「ーーーじゃあ、改めて聞くけれど。ミドリちゃんを採用した理由は?」
「私の父、摩周安兵衛の娘養子の潮干リエの娘だからですよ。父さんとの血の繋がりが全く無い、といった理由からです」
「そう……」
半分伏せ目して同意したのちに、再びヒメに目線を流した。
「でもそれ、リエさんは赤の他人ではないわよね?」
「う……。はい」
「戸籍上で“あなた”たちは義理の姉妹よ。そしてミドリちゃんは、義理の姪っ子になる。血の繋がりは無いけれども、家族なのよね。その流れからしたら、縁故採用そのものじゃない」
「まあ、確かに……」
「あなた、血が繋がっているかいないか、知人か友達かどうかだけで考えていたんでしょう?」
「はい、そうです」
「うふふ。ヒメちゃんって、頑固で真面目なのね。ーーーでもね私、あなたの“そういったところ”嫌いじゃないのよ」
「あ、ありがとうございます」頰が熱くなる。
「では、改めて社長として聞くわね。以上のことを踏まえて、彼女、海原摩魚さんを採用しないできない理由はあるかしら?」
「そのような理由はありません」
「よし。それなら採用しましょう」
明るい笑顔でヒメを見る。
「はい」
上司以前に隣の“友達”である彼女を見て、微笑んだ。
そして。
「ーーーというわけで。おめでとう! 今日から摩魚さんは私たちの会社の専属芸能人です」
顔の前で軽く手を叩いたあとで、両手を少女の前へと伸ばして歓迎したプルート。これに摩魚は黒い瞳をキラキラ輝かせて口元に笑みを浮かべて、姿勢を正して頭を下げた。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
3
「といったことがあって、私も芸能活動をしているんだよ」
ニコニコとしながら、摩魚は“いきさつ”を語った。
十六歳の誕生日に本当の出生を母親から教えてもらった。
同じ年にミドリと一緒に広告会社へと面接に行って受けた。
社長のプルートと副社長のヒメが対応して、結果採用。
といった大きく三つにして簡潔に話した。
運転をしながら聞いていた雷蔵は、感心と驚きが混ざっていた。
「“紫さん”が広告会社を経営しているというのは知っていたが、まさか専属のタレントを雇っていたとはなあ……」
「そうだよ。あと、君のお母さんと“紫さん”は古くからの友達なんでしょ?」
「ああ、そうだ。二人は仲が良い。ときどき家に遊びに来たり差し入れ持って来てくれたりするよ」
「あはは。本当に仲良しなんだね。素敵」
バックミラー越しに、楽しそうに話す“姫様”を見て微笑んだ雷蔵は、語りの中に出てきたヒメの態度が引っ掛かった。
「そういえば、ヒメさん。話しの中でなんであんなに拒絶していたんだ?」
「ああ、“それ”ね」
ーーーーーー
摩魚の話し。
彼女の採用を決定した当時のヒメ曰く。
「本来この会社はね、未成年のタレントは希望者や他薦でも採用しないのよ」
「どうしてですか? ミドリさんがいるのに?」
摩魚の質問に。
「ひとりだけなら。ということで採用したんだけど」
ちょっと端切れが悪そうに答えたヒメが、隣の社長をチラ見する。そして再び、目の前に座る美しい少女二人に目線を合わせて。
「“この人”が強く推してきたのよ。どうしても、って」
社長のプルートをあえて“この人”呼びして、指差した。
ヒメから指摘を受けて、照れ臭そうに後ろ頭を掻いた美人社長。
「ごめんねー。ミドリちゃん、あまりにも可愛かったから、うちの会社に置いときたくなっちゃって」
「とまあ理由はどうであれ、他人様の未成年の女の子と男の子を雇う以上に守ることというのは、物凄い労力を伴うものなのよ。それが今まで“ひとり”だったものから二人になる。多数の子供たちを教育と保護が“機能”として成り立っている国公立の学校とは違って、ここは民間企業。負担と費用は“あなた”たちにこれから払う給料の倍掛かるのね。ーーーミドリちゃんに摩魚ちゃんは自分の考えで社会の海に飛び込んできたその強さを私は見たから、あえて今のことを言っておくわ。以上のことを踏まえて頑張りなさい」
“はい!”と仲良く返事をした少女二人。
これを見て、プルートとヒメは“うふふ”と目じりを下げた。
ーーーーーー
雷蔵、これまでの話を聞いて。
「君、“それ”をしながらよくまあ今まで隠し通せたな」
と、半ば呆れが入った感心していく。
兄弟子の様子と運転の姿を見ながら、摩魚は小さく笑った。
「ふふふ。ーーーじぶんでも驚いているよ。まあでも、そろそろ特定されるんじゃないかな? 私が『ありま まな』だってこと」
「本当、インターネッツの特定中毒者は凄いもんね。ちょっとのキッカケで集まって、専門家も“まっつぁお”な名推理を展開するんだから」
微笑ましく乗ってきた虹子の言葉に、摩魚は顔を向けて。
「インターネッツ?」
「インターネッツ」
「ひょっとしてあなた、アイスコーシーて言う派?」
「それは言ったことないよ」
「ないんだ?」ニコッとする摩魚。
「ないよ」ニコッとした虹子。
4
イチフジテレビ。
『ここで緊急速報をお伝えします。ーーー先ほど入ってきた情報です。未だに誘拐されたまま行方が掴めない海原摩魚さん(当時二三歳)ですが、十代のときから芸能活動をしていた『ありま まな』というタレントと同一人物だったことが判明しました。彼女は、長崎県長崎市にある広告会社、招き猫広告の専属芸能人で、これまでに寄せられた視聴者からの多数の情報によると、グラビアやコンパニオンや身辺警護などの活動をしてきたそうです。デビュー当時から昨年まで発売されていた数々のイメージDVDは海外通販もしており、海原摩魚さんのファンは海外に幅広くいるそうです』
ニタカサンナステレビ。
『ニュース速報です。ーーー昨年、蛇轟秘密教団の儀式により失踪していた潮干ミドリさん(当時二二歳)と思われる姿が確認されました。視聴者からのご協力により提供された数々の動画と写真に、彼女の姿が映っていました。なお、YouTubeなどの動画サイトに投稿されて以降、復活した潮干ミドリさんの動画に対して海外のファンたちから喜びのコメントが書き込まれています。ーーー彼女の所属事務所の帆立プロダクションとマタタビプロダクションは、共にイメージDVDの販売を海外にも展開しています』
日本国営教育放送協会。
『緊急速報です。緊急速報をお伝えします。ーーーたった今、国会で、蛇轟秘密教団への解体解散命令が石橋茂明総理大臣より発令されました。これには、与党の民主主義自由党と院里夢明党と薩摩長州連合党と、野党では唯一反対を表明した“日本国営教育放送協会を解体破壊する党”を除く、立憲共産民主主義党と世界平和共産主義党と自由社会主義党と平成白虎隊と国民自由主義党と“陰謀論をブッ壊す党”と日本UFO対策連合と日本農業繁栄良い世来い世連合の以上が与野党合わせた議員らの賛成多数決により、教団への解散命令が下されました。ーーーこれは、長年に渡り教団が儀式と称して行っていた螺鈿島陰洲鱒町の十代未成年女性から二十代女性たちが毎年二人以上の行方不明及び失踪者を出していたことや、町の未成年女性や二十代女性を教団信者たちや“顧客たち”にあてがうなどの違法売春斡旋容疑をかけられたことが原因です』
平成江戸前放送局。
『引き続き教団に関してのニュース速報です。ーーー先ほど、石橋茂明総理大臣の指示を受けて、本庁と周辺五県を合わせた警察特殊部隊の出動命令が出ました。一足早く長崎県の警察特殊部隊を先発隊として、教団及び島と町の包囲指示が下され、出動して現場の螺鈿島陰洲鱒町に向かったもようです』




