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ヴラド伯爵公と花嫁たち


 1


「僕の花嫁たちだ。ーーー君たち、自己紹介を頼むよ」

 ドラコの右手側から順に。

Lykaルカ。ライカンスロープだ。よろしく」

 ルカ。一般的に言う、獣人。

 青味がかった灰色の肌の、大型犬科の耳を生やした美女。

 鋭く切れ長な眼差しの中には、右目は金色、左目は銀色の瞳が輝いていた。長身で細身の筋肉質。銀灰色の眉毛と長い髪の毛を持つ。隊服の防具は三人の花嫁の中で一番軽く、全指出しの肘までの長手袋と膝までの軍靴のみ。ロイヤルブルーのインナーの両袖を切り落とした上に、胸元を大きくV字に開けていた。

Victoriaヴィクトリア・Frankensteinフランケンシュタイン。“お父様”が“造った娘”よ。ーーーよろしくね」

 ヴィクトリア・フランケンシュタイン博士。

 人造人間。

 赤紫と紫色と桃色の影が差す、白い肌の長身美女。

 物静かな眼差しに、血色に輝く瞳。ウェーブの掛かった髪の毛と眉毛は、ブロンド。額と首筋を横に走る縫い合わせた継ぎ目があった。だが、これは新世界十字軍の標準装備から見える範囲であり、実際には両肩と腰と股関節の付け根にも同じ継ぎ目がある。そして、彼女の特徴的な装備品は、背負っている大きめな箱形のリュックサックで、折れても機動させることのできる丈夫なアンテナはリュックの両サイドから生えていて、その下には、碍子がいしのようなランサーがぶら下がっていた。

Arielアリエル。いわゆる人魚マーメイドだ。よろしく、深者ディープ・ワン

 アリエル。別名、半魚人。

 白磁の肌と燃え盛るような赤色の髪を持つ、長身美女。

 波打つような大きなウェーブの癖毛は腰まであり、アンダーポニーテールにしていた。鋭く大きめな眼差しの中に、海のように透き通る青色。彼女も、ヴィクトリアと同じく十字軍の標準装備。

 以上、各々の紹介を終えて。

「素敵な花嫁たちだろう? そして、強い」

 嬉々として付け加えていくドラコ。

 すると、なにやらコソコソ話しをしだした玲子と橙子。

「ねえねえ、橙子ちゃん。あのアリエルって人、なんかちょっと不機嫌な感じしない?」

「するする。あなたを睨み付けて、なんだか怖いんだけど」

「あとさ。もしかしたら彼、高濃度の特撮オタクかも」

「ええ……! マジ? ヤバすぎ」

 可愛い娘二人のこの様子を見ていたドラコだったが。

「君たち、いつまでコソコソしているつもりだよ? この僕が花嫁たちを紹介してやったんだ。なにか言うことがあるだろう?」

「あんた、ニチアサのファンなの?」

「なんでだよ。なんでその言葉が出てくるんだよ」

 玲子へと突っ込みを入れた彼の端のルカが「プッ」と笑った。

 ヴィクトリアとアリエルは、ドラコ越しに互いに見合わせる。

 そんな中で、空間に現れた逆さ五芒星の赤色の円形魔方陣から、新世界十字軍の標準装備姿の新たな長身美女が飛び出してきた。

「間に合った!」

 着地するなりの第一声である。

 アリエルの隣に“そそくさ”と並んだ。

「私、クレオパトラ! ヴラド伯爵の花嫁! よろしくね、可愛子かわいこちゃんたち!」

 Cleopatraクレオパトラ

 碧眼の両目と多少干からびた唇を出して、顔中に包帯を巻いている自称クレオパトラと名乗る細身の美女。人差し指で自身を指して、四人目の花嫁だと主張してきたではないか。首から下の防具とアンダーウェアの下にも、おそらくは全身に包帯を巻いているはずである。

「え? 四人目……?」

 ミイラ女の登場に、ドン引きしていく玲子と橙子。

 ドラコはクレオパトラを睨み付けたあとに、玲子に向き直る。

「冗談じゃない。その人とは“そういう”関係は無い。赤の他人だ」

「ウソうそ! 盗掘の一団から私を助けて血を分けてくれたじゃん!」

 ミイラ女が、口を縦に開いて尖らかせて挟んできた。

 この態度に、ムッときたヴィクトリアが彼女を睨み付け。

「あんた、補欠にも成れないクセして、なにクレオパトラて名乗ってんの! 石棺せっかんの名前が削られてた名無しの権兵衛ごんべえじゃんよ! だいたい、ウチの旦那が“たまたま”居合わせたときに岩壁で切って垂れた血を浴びたていどでしょうが! あれは事故よ、事故!」

「はああああ!? 事故だろうがなんだろうが、盗掘から私を助けてくれたのは事実でしょう! 血を浴びたのも、本当なんだから変えようがないわよ! 私と伯爵は“あなた”たちと同じ特別な関係なの! 花嫁なの!」

「なーにが、特別な関係なの!……だ。たった一滴二滴の伯爵の血を浴びたていどだから、いまだに干からびたままじゃん! この干物女!」

「あーーー! 干物女て言った! そういうこと言っちゃいけないんだよ!ーーーあんたこそ、なにさ! たかだか十八世紀の女が、さっきから偉そうに二千年か三千年の私に向かって! 少しは尊敬リスペクトしなさいよ! 馬鹿!」

 と、ヴィクトリアを力強く指差して罵ったクレオパトラに、次はルカが睨み付けてきた。

「馬鹿は手前てめぇだろ! 敵さんを目の前にして恥晒はじさらしやがって! おとなしく石棺に引きこもってろ!」

「ひっどーーい! なによなによ! 私が伯爵の血を浴びたのは事実だもん! 嘘じゃないもん! 補欠じゃないもん! 花嫁だもん!」

 今度は、ルカを向いて指差して訴えていくミイラ女。

 と、そこへ。

 アリエルからの正拳突きを顔面ド真ん中に受けたクレオパトラは、脳震盪のうしんとうを起こして白眼を剥き、そして意識を遥か彼方へと飛ばして天井を仰いで床に強く後ろ頭と背中を打ちつけた。そして、殴った方の拳を強く握りしめながら、アリエルはミイラ女を見下していった。

「我が軍隊の恥さらしめ。お前は、ウチの旦那から恩情をかけられて入隊しているんだぞ。少しは感謝の意を示して、口を慎め」

この言葉を吐きつけたのちに、自称クレオパトラの足首を掴んで引きずり、御藏みくら隆史たかしと老人男性の遺体の側に寝かせた。

「じゃあそういうわけで、僕はこれで失礼するよ」

 軽く手を上げて、ドラコが玲子と橙子をすり抜けた。

 彼の、その手はすでにドアノブにかけていた。

 正妻のヴィクトリアと側室のルカも“ちゃっかり”と我が旦那の両側に付いて一緒に部室を出ようとしていた。これに驚いていく玲子と橙子。

 ーいつの間に!ーー「ちょっと! ひと様に修羅場見せておいて、その態度は一方的なんじゃないの!?」

「そうだよ。なに他人事みたいなふりしてんの?」

 そんな娘二人に、ドラコは振り向きもせずに声だけかけていく。

 しかも、心なしか嬉しそうな声色で。

「玲子くん、とか言ったね? 君の相手はアリエルがつとめてくれるってさ。ーーー良かったな。本家本元の人魚マーメイドが君たちのような奉仕種族と“鱗持ち”を相手にしてくれるよ。“手合せ”の前には、こうべを垂れて感謝の意を示しておくんだね。ーーーそれじゃあ、ね。生きていたら、また会えると良いな」

 と、最後まで振り向くことなく彼は正妻と側室を連れて部室から出ていった。

 普通ならば彼ら三人を追うことも可能であったが、その玲子と橙子を引き止めていたのは、両腕を組んで仁王立ちをしていた赤毛のマーメイドだったから無理であった。彼女の瞳は光っていなかったが、二人を睨み付けるその鋭い眼光を強く放っていた。

深者ディープ・ワンの娘。と、“鱗持ち”の娘。この私、人魚マーメイドじきじき々に相手してやる。良かったな。嬉しいだろ!」

 それも本当に嬉しそうにかつ勝ち誇った表情でアリエルが言葉を吐きつけた。これには、さすがに参ったなあとした顔を浮かべた玲子は、ミイラ女を指差していく。

「いや、そんなことよりもさ。そこのミイラちゃんどーすんの?」

ほうっておけばよろしい。いずれか目を覚ます」

 こう自信あり気に断言していきながら、アリエルは“ゆっくり”と両腕を解いて下ろしていった。


 部室を出たヴラド伯爵と花嫁二人。

 右手側を指差して同じ方に顔も向けた彼は、指した方向へと踵を回して足を進めていく。その愛しの旦那の後ろに付いて行く、ルカとヴィクトリア。だいぶん廊下を進んだところで“なにか”を思い出したドラコは静かに立ち止まり、軍隊服のパンツの太もものポケットからスマホ型長距離無線機を取り出して、入力した周波数に繋げていく。

 コールが三回ほど鳴ったとき。

『はい、こちら第七団隊大隊長のヘレンです』

「ヴラド・ドラコ・ツェペッシュです」

『あらいやだ! 旦那さ…………団長、どうしました?』

「そちらが押さえた場所で、“酔い止め”の“現地生産”はできるかな?」

『はい。島から一番近場の、鷺山製薬株式会社の制圧完了済みです。いつでも生産可能な状態です』

「よろしい。足りない分を早くコピーしてくれ」

『了解。あとから、菊代さんにも報告しておきます』

「ああ、よろしく頼むよ」

『はい、了解』

 無線機の向こう側の四人目の花嫁の通話を切って、ドラコは微笑んだ。

「さあ、“虹色の鱗持ち”のところに行こうか」

「ええ」

「そうね」

 花嫁二人の同意を得て、彼は再び足を進めていく。



 2


 同日。ほぼ同時刻。

 場所は変わり、長崎県諫早市。

 鷺山製薬株式会社。

 製造工場内部。

「と、いうわけだ。ーーーそういうことだから、今から私とジャクリーンの指示に従って陰洲鱒の“酔い止め”をコピー生産してもらおうか」

 スマホ型長距離無線機を置いたヘレン・ジキル博士が机に腰を掛けて長い脚を組んだ格好で、捕獲した会社の役員と研究者と工員たち全員を視界に入れてこのように断言した。そのヘレンの乗っけてあるお尻の側では、ジャクリーンことジャクリーン・グリフィン博士が先ほどからムシャムシャと多くの粗挽きソーセージやらウィンナーやハムなどを机に広げて食べていた。ジャクリーンは筋肉質で肉付きの良い体つきだが、決して肥満ではなく、どちらかと言えばモデルのように細身の長身美女であった。その彼女の隣で机に腰を下ろして銃剣を人質たちに構えていたヘレンも同じく、細身の長身美女だった。

 いったい、製薬会社の従業員たちになにが起こったというのか?


 これは、虎縞福子が会社を出てから約三〇分以上経ったとき。

 社内へと接近してくる三つばかりの飛行機の噴射音に気がついた営業部の社員と研究部の研究員と休憩中の工員たちが、合わせて十数名ほど屋外に出て空を見たとき。社屋の上空で、かなり低い位置で滞空している飛行機を三つ確認した。

「なんだ……、あれ?」

「剣が、空を飛んできた……?」

「あ! 門の前! デカい車が!」

 思い思いの感想を述べていった、その直後。

 デザインされた黒塗りの鉄製のゲートごと門を破壊して、新世界十字軍第七団隊の装甲車両が十台ほど、敷地内のアスファルトをタイヤが激しく擦り煙を吹かして轟音を立てながら会社に侵入してきた。このような唐突な出来事に、表の社員一同が呆気にとられていた隙を突かれて、開けられた装甲車両の窓から銃撃を浴びて地面に倒れ込んだ。次に、停車した車両の左右に開いた後部装甲から次々と銃剣を構えた兵隊たちが出てきて三手に別れて営業部と研究部と製造工場にへと駆けていった。装甲車両の十台の内の三台の上部装甲が左右に開いて、ガトリングガンを構えた兵隊が現れて、さらに上空から新たにヘリコプターが降着したと思ったら、ブロンドヘアとライトブラウンヘアの長身美女が二人降りてくると、残りの兵隊たちに装甲車両に残って待機するように指示を出していった。そして、ライトブラウンヘアの美女がブロンドヘアの美女に指示を出したあと、営業部へと足を運んでいった。

 営業部。

 先発の兵隊たちが受付の女性社員たちと男性社員たちとを銃撃して殺害したあと、ライトブラウンヘアの美女を迎え入れた。その彼女が社内電話の受話器を取り、内線をかけていく。呼鈴の三度鳴ったあとに、目的の相手が出てきた。

「鷺山製薬の鷺山さぎやま宗像むなかた会長ですか? 私は新世界十字軍の第七団隊大隊長のヘレン・ジキルです。これ以上あなたの従業員たちから犠牲者を出したくなかったら、息子の宗徳むねのり社長と下りてきて私たちの指示に大人しく従ってください。ーーー抵抗したり躊躇ためったり警察などに通報する真似をしたら、今目の前で捕獲されている若い女の子を私が直に撃ち殺します」

 了承の返事を受けたヘレンは受話器を置くなりに、社員たちを捕らえている兵隊たちに目配せしたあと、ね?簡単でしょ?みたいな笑みを見せた。この一分ののち、宗像会長が宗徳社長と女性秘書と男性秘書とを連れてエレベーターから降りてきた。よわい九〇を超えている割りには、宗像会長の背筋はピンと伸びて、背丈も百八〇センチに近かった。還暦を過ぎた息子の宗徳も同じように筋肉質で百八〇センチ以上の長身の、なにか武道を心得た者のような印象を、ヘレン大隊長をはじめ十字軍兵隊たちに抱かせた。そして、四十代半ばであろう、秘書の男性と女性もともに背の高い美形であった。これらを瞬く間に把握したヘレンは、少し嬉しそうに「ほぅ……」と感心を洩らした。

「ご協力感謝します」

 軽い会釈を会長たちに向けたすぐに。

「よし。工場に連れて行け!」

 と、兵隊たちへ指示を出した。

 次に。研究部。

 銃撃の音とただならぬ空気を感じた新島にいじまひかりが、駆け足で女子更衣室に入り、虎縞とらしま福子ふくこへ向けてメールを打って送信していく。

〈なんか、ヤバい奴らが会社を襲ってきた! だから、福子は役目を終えたらそのまま戻って来ないで。あなただけでも生き残って、お願い!〉

 送信後。扉を蹴破りシャッターを撃って割いて侵入してきた新世界十字軍の兵隊たちから研究員たちのスマホを没収されて、後ろ手を結束バンドで縛られた。と、そこに現れたブロンドヘアの美女。ヘルメットのゴーグルで、彼女は顔の半分のみを覆っていたのが特徴的であった。

「私は新世界十字軍第七団隊の副隊長、エリカ。お前たちからこれ以上死人を出したくなかったら、無駄な抵抗はするな。あと、全員からスマホおよび通信機器を没収する! 分かったな!」

 研究部施設を包囲する兵隊たちと、建物内部を点検していく兵隊たち。兵隊三人が、休憩室から一服中の数名の研究員を引っ張り出して捕縛していく。男子トイレと女子トイレを点検した兵隊たちの「クリア!」「こちらもクリア!」と、隠れている者が居ない確認の声があがっていく。続いて、男子更衣室と女子更衣室の扉を蹴り開けて入った兵隊二名。男子更衣室の内一名から「クリア!」との声が上がった。そして、女子更衣室に入った口髭を蓄えた茶髪の短髪アメリカ男性兵隊が銃剣を前に構えて内部を確かめていったとき、背中合わせのロッカーが四列並ぶその四列目の陰から、白衣姿の新島にいじまひかりが飛び出してきて銃剣を両手で掴んだ。短髪のアメリカ男性兵隊は百八〇センチ超えの大柄だったが、対するひかりも百七五センチという長身美女であった。大きな男女が銃剣の奪い合いする中で、上を向いた銃口は天井に複数の穴を空けていき、さらには押し合いし合いが続いて、銃口が右に下がったときに壁を研究所へと撃ち抜き、左に回したときには更衣室から外へと撃ち抜いた。

「お前とお前、更衣室を見てこい」

「イエッサー!」

 エリカの指示を受けて、若い黒人女性兵隊とユダヤ人男性兵隊が現場へ向かっていった。

 女子更衣室の攻防に戻る。

 抵抗していたひかりが銃口を斜め上に向けたときに、短髪アメリカ男性兵隊の爪先を踵で思いっ切り踏みつけたあと、銃身の横面で顔を叩き、銃剣を掴んだままの小手返しをして投げ飛ばした。側転して床や壁やロッカーに頭と身体を打ち付けて、短髪アメリカ男性兵隊は額を切って倒れた。男が床で悶えている隙に、ひかりは銃剣を屋外側の窓の壁に投げ捨てた。そして、後退あとずさりしていき、掃除用具入れのロッカーを背にして構えた。頭を振りながら起き上がってきた、額から出血した短髪アメリカ男性兵隊は歯を剥いて眼を血走らせるなりに、犬のような雄叫びを上げていった。次に、鼻柱と口もとが前方に伸びて犬歯は発達して、両耳は上に伸びて角のごとく突き出ていき、グローブとブーツを破いて鋭利な鉤爪を生やした両手両足の指となり、短髪アメリカ男性兵隊の変身は完了した。床が抉れるほどに強く蹴って駆け出した彼は、目の前の新島光を狙った。男性兵隊がライカンスロープ化する手前あたりから、ひかりはすでに用具入れロッカーの扉を開けて、中からバールを二本取り出していた。アメリカン狼男の肩が迫る直前に、横に飛んで回避したひかり。掃除用具入れロッカーへと激しいショルダーアタックをして破壊したアメリカン狼男は、眼を黄色に強く光らせていき、ひかりを睨み付けていく。二つのじょうのように、新島光は両手のバールをクルクルブンブンと回して腕を交差させたり広げたりを繰り返して、攻撃に備えていく。アメリカン狼男から突き出された右拳を“とっさに”かわして、二本のバールでその腕を叩きつけていき、顔面を打って通り抜けた。そして踵を返して、バールを襟足に引っかけたあとに、もう一本のバールでベルトの後ろに引っかけたとき、手首を軽く捻って相手の膝を抜き、すぐさま反対方向に振り回した。頭を殴打されたあとに苦悶する時間さえも与えてもらわなかったアメリカン狼男は、膝のちからが抜けたと思ったとき、大柄な体躯が横に振られてロッカーの列に叩きつけられて横転して、二列目のロッカーに当たって止まり、身を起こしていく。彼は身を構えて踏み出しの拳を突き出したとき、バールを土手っ腹に突き立てられた。アメリカン狼男の拳がきたときに、身を沈めたひかりは、腰と両手でバールの根本を固定して踏み出して走り、獣人の腹に突き刺した。そして、彼女は勢いを落とさずにそのまま駆けて、更衣室の勝手口扉に獣人ごとタックルを決め込んだ。このとき、表で見張っていた兵隊たちが「おわあ!」と驚きを上げていった。扉を突き破って地面に落下したすぐに彼女は身を起こして、ベルト後ろに差していたもう一本のバールを引き抜き、アメリカン狼男の顔面を目掛けて振り下ろした。ひかりは全力でバールの根本を三度叩きつけていったあと、真ん中を両手でしっかり掴むと、獣人の顔に突き刺した。次は、後ろ頭まで貫通したバールを、左右に捻って脳味噌を破壊していく。跨がったアメリカン狼男の息が切れたのを確認したひかりが、大きく息を切らしていきながら立ち上がり離れていった。

「緊急事態。緊急事態。こちら研究所班、女子更衣室でトラブルが発生した。至急現場に応援を頼む!」

 見張りの班長がそのような連絡を入れていた際には、すでに建物内部から指示を受けた兵隊たちが駆けて入ってきた。表の見張りの兵隊たちも班長と一緒に、ひかりの身柄を拘束した。後ろ手を結束バンドで縛られて、無理矢理背筋を伸ばされるひかり。顔と腹にバールが突き刺さっていたアメリカン狼男の遺体確認していく兵隊たち。

「お前、ライカンスロープをったのか!?」

「マジかよ……!」

クソふざけた女だな! 侵略先で初めてだぜ!」

何者なにモンだ? お前? 信じられん」

 部下たちの感嘆を聞きながら、班長が連絡していく。

「エリカ副隊長、こちらヤコブ。民間人のひとりがライカンスロープのジョンを殺害したもよう。先ほど捕獲しましたので、そちらに送ります」

『は? マジか?ーーーそれはご苦労。直ちに私のもとに、その“民間人”を連れて来い』

「イエッサー!」

 そうして。

 エリカの前に連行されてきた新島光。

 先の戦闘で疲労していながらも、彼女の眼差しは力強かった。

 半分だけゴーグルに覆われた顔で、エリカは“まじまじ”と見ていく。

「Wao! So Beautiful!ーーーYou are Tough Woman! I like you. 」

 なんて美人!あなたはタフ・ウーマンね!好きになったわ。

 といった言葉を笑顔でひかりに贈ったあと。

「小娘が。“お転婆”をするのもここまでよ。ーーーそのヴァギナに私の銃剣を突っ込まれてコイツらの餓鬼を妊娠したくなかったら、おとなしく言うこと聞くんだね」

 銃口を鼻先に突きつけて、彼女と研究員たちを取り囲む兵隊たちを指差したあと、歯を剥き出して強く言いはなった。当のひかりは、反撃する体力すら無かったので、ここはエリカたちに従うことにした。

「お前たちの、スマホおよび通信手段は没収する!」

 このエリカの言葉通りに、ひかりたち研究員全員の通信機器が没収されていった。

 最後は。

 製造工場。

 シャッターを銃撃で破いて侵入してきた兵隊たちから、工員ら五名は銃弾を浴びせられて死亡。続いて、班長と思われるドレッドヘアのイギリス美女兵隊が天井に銃口を向けて照明を破壊したあと、残りの工員たちにへと呼びかけていく。

「今のように死にたくなかったら、無駄な抵抗はするな! 機械と作業の手を今すぐ止めて、私たちの前に集合しろ!」

 入ってきた兵隊たちから、工員たちはそれぞれ銃口を突きつけられてドレッドヘアのイギリス美女班長のもとに集められていく。そして、後ろ手を結束バンドで縛られた工員たちのスマホおよび通信機器が次々と没収されて、ブリキの箱に入れられていった。怯えていく工員たちの顔を見ていく班長。

「いい面構えだ。そのままおとなしくしていろ」

 すると、破壊されたシャッターを跨いで工場内に新たに新世界十字軍の兵隊が現れて、イギリス美女班長の隣に並ぶとサーベルの切っ先を床に突き立てて柄の先端部に左手を乗せたあと、右手でヘルメットのバイザーを開けていった。その兵隊の顔を見たとたんに、工員たちは驚愕や恐怖の悲鳴を上げていく。それは、この兵隊には顔が存在しなかったからだ。なのに、兜というかヘルメットは“ちゃんと”被っており、しかも内側のクッションまで見えていた。顔がある感じなのに、顔が無い。この不可解さと不気味さに恐怖を覚えるなというのが無理な話しである。そして、この兵隊の無い首が左右に動いて工員たちを“見渡していく”ではないか。次は、隣の美女班長に“顔”を向けた。

「ジャネット、よくやったわ。おかげで私の役割りも達成できたし、ご苦労様」

「いいえ、こちらこそ。ーーーお疲れ様です。ジャクリーン副隊長」

「うふふ」

 と、こう笑って再び“首”が工員たちを向いたとき、この兵隊の頭に徐々に色が差してきた。色白な肌が現れてきた次には、ブロンドの眉毛と大きなパーマを掛けたブロンドヘアが現れて、最後はブラウンの瞳と血色の良い唇が現れて兵隊の顔は完成した。実に、美しい白人女性の登場である。

「私は、新世界十字軍第七団隊のジャクリーン・グリフィン副隊長。緊急連絡と外部の“線”を切ってきたから、警察も救急車も消防車も呼べなくなったわ。そして、自衛隊もね。だから、あなた方のサインは誰にも送れなくなった。ーーーというわけで、よろしくね」

 鷺山製薬株式会社、制圧完了。

 一部トラブル発生したものの、実に手際よく制圧した。

 このあと、乗っ取り完了を確認したヘレンは、上空で滞空していた三機の爆撃機エクスカリバーを撤収させて、会社の周囲に五名の狙撃隊員を配備させて、敷地内を装甲車両のガトリング部隊に巡回警備をさせて警戒態勢も完了した。それから会社の皆を製造工場に全て集めて、支配下に置いた。このときの際に、透明化から“戻ってきた”ジャクリーンが腹を押さえたとき、グゥゥゥ!キュルルルルル!グルルル!と轟音を響かせていった。これを聞いたヘレンとエリカとジャネットが「来たか」と言わんばかりの表情を浮かべたあと、第七団隊大隊長ことヘレン・ジキル博士が「お前とお前。グリフィン博士の“お使い”に行ってきて」と頼まれて、副隊長こと当のジャクリーン・グリフィン博士が出した財布から一万円札を一枚渡されて「ジャネット班長と一緒に近くのコンビニまで行ってきてちょうだい。私の補充になにがどれくらい必要か分かっているから、それに従いなさい。頼んだわよ」と彼女からの言葉を直に受けた二人の男性兵隊は「イエッサー!」敬礼して、ジャネットに付いて行った。


 以上のような出来事が起こって、今に至る。

 外回りから戻ってきたエリカは、ヘレンの隣に立ち並び。

「菊代さんには連絡したの?」

「そうだった」

 花嫁仲間から指摘をされて、納得したヘレンはかしこまった感じで“んん!”と咳をしたあとに、両手の指で頭の両サイドの髪の毛を後ろに流して整えていく。続いて、机からスマホ型長距離無線機を取って通話準備に入った。この美人博士の行動を見ていて、疑問に思ったエリカが聞いていく。

「ねえ、今の。上司に連絡するときの姿勢を正す、のとは違くない?」

 仲間の突っ込みを無視して、菊代に繋ぐ。

「お疲れ様です、団長。第七団隊大隊長のヘレン・ジキルです」

『あら。お疲れ様』

「あ、あのぅ。鷺山製薬株式会社の制圧を完了しました」

『でかした! おめでとう』

「ありがとうございます」声のトーンが上がる。

『よし。これで、陰洲鱒専用の“酔い止め”が生産できるな』

「はい!」キラキラ輝く瞳。

『あとは松浦市の工場を押さえたら完璧だ』

「はい!」

『準備が出来次第、取りかかれ』

「はい!」

 連絡終了後、ヘレンは嬉しそうな微笑みを浮かべて黙ったままスマホ型長距離無線機を静かに机に置いた。机に乗っけた彼女のお尻の横で、食事を中断したジャクリーンがギロリと上目遣いで睨み付けた。

「あんたねえ……。旦那様といった者がいながら……」

「気持ちだけよ。気持ちだけ。それくらいイイじゃない」

 焦ったヘレンは、ジャクリーンに言葉を投げつけた。

 それから。

 おさかなソーセージの最後のひと口を入れたジャクリーン博士を目じりをさげながら確認したヘレン博士が、隣で立っているエリカに“チラッ”と目線を送ったのちに、身柄を拘束している製薬会社の社員一同に顔を向けて机から降りた。

「作業に移る前に、ひとつ事例をあげておく」

 このように、念を押す感じで拘束している皆に言っていく。

「陰洲鱒の“酔い止め”は、制圧した他の国々の製薬会社でも複製を試した。しかし、精度が悪かった。精度が悪いということは欠陥品である。おかげで、今まで現地民族や自軍の兵隊たちに被験者に“なってもらってきた”が、す べ て、駄目だった。ーーー実に多くの犠牲が出たわ。ざっと見て、五万人。ーーー神経と精神を専門としている私は悔しかった。だが、それをバネにして過去の配合技術のデータに繰り返し全て目を通したよ。その結果、複製を手掛けた人種によって配合割合に僅差があったんだ。本当にこれは、素人目には分からない微妙な差だ。しかし、この差は本当に大きな物。私はこの差を小さくする以上に、完璧に同じ物を作りたいと思ったわ。ーーーこれは悔しいけれども、人種の得意不得意に頼るしかないと。陰洲鱒の酔い止め剤は日本国内の日本人たちによって製造生産されている、メイド・イン・ジャパンなのよ。調査の結果、生産工場の工員たちには移民やその実習生がひとりもいない日本人オンリーで、作られていたわ」

 そう言って、ヘレンはパンツの太股ポケットから透明のビニール袋に梱包された一錠の白い錠剤を前に突き出して、工員たちにへと見せていきながら白い歯を剥いていく。

「あなたたち。私が、なにを言いたいのか分かるわよね?ーーー悔しい。これは私の、精神と神経を専門の医者であり博士としてのヘレン・ジキルの敗北だわ。そして、この敗北を認めて受け入れることによって私は成長する。だから、もう、あなたたち日本人に頼むしかないの。ーーーということで。ここに成分の分析と配合の割合を記した一覧表はある。ちなみにね、私がひとりで分析したの。短時間でね。凄いと思わない? まあ、それは置いといて。この一覧表をコピーして渡すから、直ちに生産態勢に入りなさい。材料も“たんまり”用意してあるから心配ないわ。じゃあ、さっさと始めてもらおうかしら」

 このように、ヘレンが決意と指示を述べていった直後。

「断る」

「…………。なんだって?」

 会長の鷺山宗像からのひと言に、ヘレンの目つきが鋭くなった。

 宗像は続けた。

「錠剤の無断複製とその生産と使用は、私とこの部下たちの意に反する。戦後の、この被爆地でかつての兄と仲間たちと会社を立ち上げて、一度も不正なおこないなど私たちはしなかった。君の研究の意志は本物だが、悪いが私とは相容あいいれない。ここの者たちも同じと思っている」

「あら、そう?」

 こう言ったヘレンが、銃剣を机に立て掛けた。

 その直後。

 腰から銀色のリボルバーを素早く引き抜き。

 銃身後部の安全装置を手の平で外して、トリガーを引いた。

 すると、宗像会長の胸部中央に穴が空き、出血していく。

 このかん、一秒足らず。

 さらに続けて、五発を工員たちに撃ち込んだ。

 鮮やかな速撃ちであった。爽快さもある。

 心臓に重傷と出血多量を負った宗像会長は、ひと言を発することも許されずに頭を垂れて息を引き取っていった。「父さん!」と息子の鷺山宗徳社長が叫んだその後ろらへんで、五名の工員たちも項垂うなだれたり倒れ込んだりして事切れていった。

「良かったわね、世代交代が出来て。ーーーそして、五人の仲間の尊い命が失われた。私、言ったでしょう? 抵抗したり躊躇ったりしたら殺すって。さっさと始めなさい!」

 このあと、十字軍の兵隊たちから残った全ての工員たちが連行されてそれぞれの持ち場の機械へと着かされていく姿を見ていたヘレンの横で、食事をというか補充を終えたジャクリーンが椅子から立ち上がり両手を組んで天井に高く突き上げての“伸び”をひとつしたあと、両手を下ろして話しかけてきた。

 以下、イギリス英語での会話となる。

 ジロリ、と瞳を流して。

「この“カウボーイ”が」

 ひとつ吐き付けたのちに。

「今日はどうしたの? 珍しいじゃない? “フラワーちゃん”が出てきていないなんて。今の“あんた”のやり方を見ていたら、“彼女”が出ていた方が“なんぼ”かマシだったような気がしたけれど」

「フラワーには“熟睡”してもらっているわ。消すことは無理でも、最終的には“昏睡”してもらって、二度と表に出てこないでほしい。ーーーこれを叶えるために、日々トライ&エラーで私の身体で試しているんだけれど。それでも見たいの?」

「そうね。あなたの中でフラワーが長く寝ているせいで、ヘレン自身に“彼女”の獣性が移ってきている感じがするのよ」

 この会話に、同じ花嫁仲間のエリカも加わる。

「近頃あなた、薬で“お花屋さん”を抑え込み過ぎだと思う。お互いに打ち解けて、少しずつ量を減らしていった方が良いんじゃない?」

「“お花屋さん”には“長期休暇”を取ってもらっているから、心配することじゃないわ。二人のその気遣いには感謝しているわ。大丈夫よ」

 こう微笑んで返したヘレンに。

「そう……。無理はしないでね」

「分かったわ。でも、気をつけて」

 安堵しつつもひと言労っていくジャクリーンとエリカにへと、ヘレンは口角をゆっくりと上げていった。



 ドラキュラ伯爵を除いて、他全てのユニバーサルモンスターを女性化しました。厳密に言うと、ルカ(Lyka)だけは狼男とは違っていますが。彼女が戦闘するエピソードで披露することができると思います。

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