黄肌玲子
1
そのころ一方、長崎大学では。
こちらも、ほぼ同じ時間帯。
タイマーが鳴ったので、黄肌玲子はコントロールパネルに手を伸ばしてスイッチをオフにした。彼女は、磯辺毅から夫の令一が殺害されて一週間を過ぎたときに、陰洲鱒町の町役場で姓を英から黄肌にへと戻す手続きをしていた。そして、下働き兼偵察で住込みをしていた蛇轟秘密教団を抜けて、黄肌家に帰宅。それからしばらくしてのこと、大人数の“鱗の娘”たちを顧客たちへと“お勤め”に派遣するといったことが決定した際に、人手不足であったために前教団内部の勤務者と運転経験者を兼ねて玲子へと声がかけられた。そうしたこともあり、今に至る。腕時計の針を見て時間の確認。待機時間を利用して仮眠をとっていた、その間に、玲子は瞼の裏で点滅していく虹色の閃光を感じていたとともに、今まで生贄としてダゴンに捧げられてきた虹色の鱗の娘たちと龍宮龍子に歓迎されていろいろと歓談してきた上に、義姉の有子とも会うことができて、たくさん話してきた。夢の中の出来事とは言え、玲子が体感したのは実に数十時間。しかし、目が覚めたら実際は“ほんの”一時間ていど。
「あたしは家族のもとに帰ってくる」
と、有子が夢の中で断言した。
「うん。楽しみに待っているよ!」
と、満面の笑みで玲子は受け入れた。
夢の中の出来事は本当に嬉しかったが、現実に目を覚ましてみれば、そこは鱗の娘をキャンパスの若者男性たちと老齢の男へ“お勤め”に送迎していたところであった。玲子の担当した八箇所の“お勤め”先のうち一番最初の派遣先の長崎大学へと戻って待機をしていたところである。そして、約束の制限時間の三時間が過ぎた。玲子は軽く溜め息を着いて、前のチャックに沿って縦に走ったレース付きの紫色の膝丈ワンピースに褐色のサマージャンパーを羽織ったあと、ダークブルーのハイエースから出て、キャンパス内駐車場をあとにした。
構内の医務室。
摩周ホタルをはじめに、同じ漫画研究部の真嶋聡子と歴史研究部の石神里美と古武道部の櫛田美姫臨時顧問とその部員の秋富士恵美、民間伝承風俗研究者の有馬哲司教授、そして、ホタルの母親の摩周ホオズキ。以上のメンバーがこの部屋に集まっていた。たびたびホオズキの真珠色のスマホに連絡が入ってきて、これらを受けていたので事の経過は彼女を通して部屋の皆は外の状況を知ることができていた。
その一時間くらい前。
黒い道着の袴のポケットからスマホを取り出した美姫が、電話に出た。鈴の鳴るような声で、応答していく。
「もしもし。櫛田美姫です」
『お疲れ様です。中村百合香です』
「あら? 百合ちゃん、お疲れ様です」
『緊急招集です。今から着替えて私のもとに来てください』
「“ただごと”、ではなさそうね」
『ええ。重要任務よ。ーーーあなたの“愛車”は準備してあるから、一時間で現場に来なさい。キャンパスからだと近場でしょう?』
「了解。準備して来ます」
『それは良かった。待ってますよ』
「はーい」
と言って、美姫は通話を切った。
そして、彼女を見送って今に至る。
「摩魚さん、やっぱり入院してたんだ」
思案橋繁華街の情報を聞いた、ホタルの復唱だった。
摩魚の後頭部切断という大怪我をしていた現場の目撃と、自身のナプキン数個を止血の材料として雷蔵と響子に提供した。当時の摩魚の出血多量と怪我の具合から、一日二日で退院してこれる分けではないと思っていたホタルは、誘拐のニュースを見たときには違和感を覚えていた。そして、誘拐・保護されていたのは摩魚の実妹である有馬虹子だったことを、海淵海馬から連絡を受けていたホオズキにより知った。
「虹子がなあ……。しかし無事でよかった」
我が末娘が長女の影武者をしていた実体に、有馬教授は驚愕しつつも無事でいてくれたことに安堵した。
ホオズキは一通り“外”の近況を皆に伝え終えたところで、娘のホタルに顔を向けた。
「虹色の光を発したということは、荒神から選ばれたわね」
「え? そうなの?」
「そうなの」微笑む母親。
「そうなんだ」微笑む娘。
「ということで、母親の私が“あなた”に教えることはただひとつ。ーーー親しい人たちのために虹色の力を使いなさい」
「私の“これ”見せても良いの?」
「良いのよ」
疑問を持つ愛娘の顔に愛らしさを感じて、ホオズキは目じりを下げた。それから次に、肩まである黒い長手袋を外していったあと、太股の上部まである黒いロングブーツを脱いで露になった彼女の四肢は、烏賊のような白色の細い触手が五本ずつ四箇所生えていた。そして“それら”は器用に絡まって纏まり、まるで人の手と足の指を形成していた。それらは当然、頭足類の触手であるので、小さい吸盤がたくさん付いていた。まさに人成らざる者で不気味な持ち物であったが、しかし、この場にいる面々は“とっくの”昔から摩周ホタルの両脚で見慣れていたために、それほど驚くまではなかった。
どちらかと言うと。むしろ。
「あら、なんて素敵」瞳を輝かせる里美。
「ホタルちゃんと一緒だ」キラキラしだした聡子。
「素晴らしいですね。手の指と裸足にしか見えない」
感心していく有馬教授。
「ホタルちゃんのバージョンアップみたい」
なんだか嬉しそうな恵美。
「あらーん。ありがとう。私の手足を褒めてくれる人たちって、陰洲鱒を除いたら本当に少なかったのよ。ーーー思い出したわ。コレを初めて見た“あなた”は、しばらく固まっていたのよね。ね、哲司くん」
急に振られてきた話しに、有馬教授は少し驚いた顔を見せて。
「え?ーーーま……まあ、あのときは初見でしたから」
そして、こう恥ずかしそうに後ろ頭を掻いていく。
彼のそのような反応に、ホオズキは目じりを下げた。
「うふふ」
2
テニスサークルの部室。
「なんだ、深者か。もうひとり“鱗持ち”が来たと思ったんだけどね」
御蔵隆史の頭頂の髪の毛を掴み上げて、その首筋から犬歯を引き抜いたルーマニアの優男が、黄肌玲子を見たときの第一声であった。健康的な赤い唇の端から白い顎の先まで垂れて滴る鮮血を右腕で拭い、口もとに残った分を舌で器用に舐め取っていく。ルーマニアの優男の手もとから“だらしなく”垂れ下がる隆史の姿は、かつてのテニスサークルのキャプテンだったとは思えないほどに全身から血の気を失って蒼白化していた。瞳にも輝きが無くなり、力も感じられない。そして、優男から片手で床にポイと投げ捨てられた彼からは、身体の重量も異様に減っていた印象を覚えた玲子。そんな隆史の亡骸の下にいたのは、推定年齢は八〇歳を超えていると思われる老人男性の死骸だった。彼の皺を刻んだ細い首筋にも、隆史と同じように犬歯で刺された二つの穴を確認した玲子。それから彼女は、前線に立つ優男とその背後にいる男女たちの格好にも目配せしていった。中世の西洋甲冑かと思わせる、シルバーグレーの防護服と両肩両肘両膝にも同色のサポーターと膝までの軍用ブーツに、ロイヤルブルーのパンツ。シルバーグレーのヘルメットには、西洋甲冑の兜の鶏冠を彷彿とさせるデザイン。それから、ヘルメットと防護服の胴体前に印刷された、月を冠にしてダビデの星を着た十字架が赤色だった。ただし、その他背後のヘルメットのクレストが赤色だったのに対して、このルーマニアの優男のクレストだけは金色で塗られていた。
「なんだい? 君は、ずいぶん僕たちを観察しているみたいだけど……」
「良かった……。あなたは無事だったのね」
と、優男からの問いかけを耳に入れた上で“あえて”無視した玲子は、部室の角の床でペタンコ座りして両肩を抱いていた柿色の髪の毛をした、美しくも可愛い二十代女性にへと安堵の声をかけていった。自身を迎えに来てくれた人魚娘の可愛い顔を確認した柿色の髪の毛の女が、ゆっくりと面を上げて微笑んだ。
「玲子ちゃん。ありがとう。来てくれると思っていたよ」
「嬉しい。ーーー橙子ちゃん、立てる? 立てるなら私の後ろに来て」
そう玲子が指示を出した“鱗の娘”の名は、熊之実橙子。二十二歳。黄肌玲子と同級生。色白な細い身体を立ち上げていった橙子の身の丈は意外と高くて、玲子よりも五センチ以上大きかった。若干ふらつく足取りながらも、しっかりと床を踏みしめて玲子の背後に回った。
「私の革ジャン、少しの間貸してあげるよ」
「サンキュー、シスター」
玲子から褐色のサマー革ジャンを肩に羽織らせてもらった橙子は、白い歯を見せてニカッと笑みを浮かべた。ちなみに、橙子の言うシスターは、この場合は修道女や尼僧の意味ではなく、精神的な強固な繋がりのある兄弟や姉妹を指す。橙子の白い歯に対抗して、玲子も銀色の尖った歯を見せてニカッと笑った。
この様子を律儀に見ていたルーマニアの優男が、ようやく口を開いていった。
「ねえ、君。そのオレンジ色の髪の女の子、デザートに取って置いたんだけどさ。もう引き上げちゃうの?」
「そこに“転がっている”兄さんと爺さんの血を飲んだなら、もうじゅうぶんなんじゃない?」
異様な軍隊を率いているこの優男に臆する感じを見せることなく、玲子は言葉を返していく。彼女の答えを受けた優男が、白い歯を見せて部室のLED白熱灯に輝かせた。
「やだなあ。僕は“こう見えて”も大食いなんだ。床をよく見てくれ。食いカスは“そこの”二人だけじゃないから」
彼の指差す隆史と老人男性の死骸の他にも、床に“散らかった”若い男たちの多数の“食いカス”という名の死骸が散見された。皆が皆、体内から血を抜かれたか吸われたかして、蒼白くなっていた。この他にも、頭と胴体を切断された道着姿やラグビーやテニスのユニフォーム姿の四肢を切り離されての出血多量のショック死と見られる男たちの遺体も発見できた。要するに、部室で、妖術にかけられていた鱗の娘の“お勤め”に参加していた体育会系サークルの約三〇名以下の“活きの良い”青年たちは、この場にいるルーマニアの優男と彼が率いている兵隊たちに皆殺しにされていたのである。状況を把握し終えた玲子は、銀色の瞳を優男の金色の瞳に合わせて口を開いた。
「あなたたちも“よくやる”わね。コイツらを、殴り飛ばすだけでも済んだはずじゃない?」
「こんな日本の端っこまで“わざわざ”遠征してきて、僕は腹が減っていたんだ。目の前にある以上は仕方ないだろ?ーーーそれに、血はやっぱり若い者に限るね。美味しい。ーーーただし、そこのオジイサンは不味い。テニスの兄さんで“お口直し”をしたんだ」
そして、優男が一歩踏み出してきた。
「ここまでお喋りしたから、僕たちの気持ちもお互いに“じゅうぶん”交わせたんじゃないかな? ということで、そろそろ君も僕も自己紹介して良いよね?ーーー僕は、ヴラド・ドラコ・ツェペッシュ。ルーマニアの出身だ。そして、世界基督教会が持つ新世界十字軍の第七団隊の団長を勤めている。よろしく」
「私は黄肌玲子。長崎生まれで長崎育ちの人魚」
「それだけ?」
「それだけ。ーーーじゅうぶんでしょ?」
口を強く閉じて、そう断言した玲子。
これに対し、無言ながらも多少呆れていたドラコ。
「あのさ、君さ、じぶんのこと未だに人魚て言っているの?」
「そうだよ。なにが悪いの」
「あの、その、玲子くんはさ、人魚じゃなくて深者なんだよ。“どこかの”深い海底に棲む巨大な邪神の従者であるダゴンの、さらに下の下、奉仕種族のディープ・ワンなんだけど。分かるかな?ーーー君たちディープ・ワンは、いずれか近いうちに、僕たち強者にも奉仕しなければならないんだよ?」
「だから?」鉄板のように突っぱねる玲子。
「だから、って……」
「あなたこそ、なにさ? 吸血鬼なのに日昼をフラフラできるんだ? あと、十字架が弱点なのに十字軍なんかに入って得意気な顔をしているんだ? 訳分かんなくて可っ笑しいんだけど!」
捲し立ててきた玲子に若干押されたのか、ドラコはちょっと引き気味な笑みを浮かべて頬を痙攣させた。ひとつ深呼吸をして、彼女の態度を受け入れていく。
「ひとつ言うとね。僕には昼も夜も関係なく活動できるんだ。伯爵公の直系の子孫でもある僕は、日の光りや十字架や大蒜は効かない。だいたいの吸血鬼は、僕も含めて日常に溶け込んで皆と一緒に生活をしているよ。さっき上げた三つの弱点とされる物なんて、都市伝説にすぎない。オカルトは所詮オカルト。ーーーね? 事実が分かって良かっただろ?」
「ふーん。ーーーじゃあ、肉体再生はするんだ? あと、バンパイアはバンパイアなのかな?」
「まあ、するかな。不死身、というわけではないけれども、普通の人よりも老化が遅くて“少しだけ”長生きできるていどだね。ーーーそのバンパイアってのも、俗称にすぎないよ。僕も僕のご先祖の一族も、昔からライカンスロープと呼ばれているんだ。できるなら、今後は“そっち”で呼んでほしいな」
「ライカンスロープねえ……」
そう溜め息混じりに呟いた玲子が、後ろの橙子をチラっと見た。
すると。
「陰洲鱒は、不死者やライカンスロープとかとは違うんじゃない?」
「まあ、そうだよね」
お互い小声で交わしたのちに、玲子は再びドラコに向いた。
「だってよ?ーーー“鱗の娘”の先祖は、島に降り立った荒神だ。あんたらと違って、この子たちはいわゆる神の子さ。そんな素敵な娘をデザートにだなんて、勘違いにも程があるんじゃない?」
そう、片眉を上げて答えた玲子に、ドラコの白眼に血走るのが見えた。「ふふ」と小さく笑ったのちに、ルーマニアの優男は犬歯を剥いた。
「不味い血のクセに一丁前にベラベラと減らず口を叩くなんて。奉仕種族の分際で、僕と一族を下げる発言をするとは生意気なヤツだなぁ。“糧”にも成れない血肉を持つ役立たずの君たちは、黙って分を弁えて強者に奉仕してれば良いんだよ。ーーー出会い頭に斬り殺されることなく、僕と“お喋り”できただけでも感謝してほしいね」
怒気を含んだドラコの言葉を、表情変えることなく最後まで聞いていた玲子と橙子は、互いの顔を見たのちに再びルーマニアの優男に目線を向けた。そして、玲子の口もとに笑みが浮かんだ。
「あらイヤだ。私が、あなたと“ただ”喋っていたと思う?」
「なんだって……? 違うのか?」
「残念。本当に“ただ”喋っていただけよ」
「…………。え……?」
ドラコを含めた隊員たち全体が拍子抜けした、その直後。
パパンがパン! パパンがパン!
二拍一拍の手拍子を玲子が始めてきた。
『螺鈿様音頭』
むかし むかし そのむかし
名前を持たぬ此の島に 荒神様が降りてきた
七つの色に輝く鱗の体 貝殻のように美しい 螺鈿の神様
私たち島の 海と山を豊かにしてくれた
酒が旨い 魚も旨い 野菜も旨い 温泉も湧く富が豊かな島
ありがたや ありがたや
荒神 螺鈿様 螺鈿様音頭
あなたの住み処を建てましょう
鳥居も山も海も酒もあなたの物です この島も与えます
名前はそう 螺鈿島 螺鈿島
荒神 螺鈿様 螺鈿様音頭
民謡をアカペラで歌い上げていった玲子。
彼女のその歌声は、十字軍兵隊たちの構えていた銃剣に異常を見せていった。銃身の内部からショートを起こして、火花と電気を走らせて、たちまち使い物にならなくなっていった。それは、これだけにはおさまらずに、銃身は分子レベルで粉砕されてサラサラと宙に舞い上がり、兵隊たちは皆それぞれ苦悶に喘いで嗚咽をしていって頭を押さえながら、半数以上が膝から崩れて床に倒れていった。
「ぐぐぐ……。これは、ちょっと、キツい…………!」
ドラコも例外なくダメージを受けて、顔中に青筋を浮かべて、眉間に皺寄せて眼を剥いて血走らせ、歯を食いしばり、顔の半分を右手で鷲掴みにして痛みを“軽減”することを試みていく。落ちそうになっていく膝にも意識を向けて、ドラコは倒れていくのを防いでいった。このように頑張っていた彼の両脇を、柿色の線が複数駆け抜けていったかと思えば、それらはすぐに橙子の髪の毛に収まっていった。すると、ドラコの後ろから男女の断末魔とともにスライスされた血肉が飛び散り、壁に付着して床に落ちる音を鳴らした。玲子の歌が終わったとき、動悸の高鳴りと臓器や細胞への亀裂が治まっていったドラコが膝と背筋を伸ばして腕を下ろして自身の背後を見ていく。銃弾の一発すら撃つことを許されずに全滅させられた己の兵隊たちを確かめたドラコは、驚愕気味に「なんだ? これは……?」と小さく呟いたのちに、玲子と橙子に向き合った。
「なにをしたんだ?」
「私の歌が彼らを“骨抜きにした”の」
「馬鹿を言うなよ。じゃあ、なんでその後ろの“鱗持ち”は平然としているんだよ?」
「知らなかった? 私は“あなた達のために”歌ったのよ。だからこの子には向けていないの。当たり前でしょ?ーーー破壊するのもしないのも、私しだい」
「今度は、セイレーンの真似事か? つくづく君はムカつくなあ」
「ムカつきを覚えたの? あなた、やっぱり食べ過ぎよ」
「いや……、そのムカつきとは違くて……」
こう突っ込んだのち、ドラコは呆れた溜め息を着いた。
「まさか、こうもあっさりと班が全滅させられるなんてなあ……。ーーーもう少しさ、兵隊たちと殴り合うくらいの苦戦を見せてほしかったんだけど。君たち、それはいくらなんでもチートすぎる」
「あなたも“まぐれさせる”と思っていたんだけど。駄目だったみたい」
「…………? まぐれ、させる?」
「ああ、いいのいいの。どーせ私たち片田舎の言葉なんて、破壊侵略する“お貴族様”の“あなた”に分からないから、知ろうとしなくていいの」
玲子が銀色の尖った歯を見せて、手のひらと上下に軽くヒラヒラとさせて返した。これに対して、ドラコは当然のようにムッとする。
「あのね……。まあ、いいや。ーーー君の“せい”で班を削られてしまったよ。だから、その不足分を僕の花嫁たちに補ってもらおうと今から頼んでみるよ」
「花嫁……、たち?」
ドラコの発言に、なんの冗談だ?と言った表情を浮かべた玲子は、半笑いになっていた。そして、軽快に指を鳴らしたドラコの背後に一筋の赤い光が彼の頭上から床にへと真ん中を走って細かく点滅していくその間に、光の筋を境にしてその左右から三体の影が現れて、優男の両サイドに立ち並んだ。新たに出現した三人が三人とも美女ばかり。この美しい三人に、玲子と橙子は見とれていった。
「紹介しよう。僕の花嫁たちだ」




