摩魚姫、告白する
丸山町で人員の振り分けをした直後。
まずは、榊雷蔵の班。
またの名を、主人公・海原摩魚チーム。
ウッキウキでとても足取りが軽かった“姫様”。
丸山町交番前の交差点上の有料駐車場に戻ってきた四人組。
ここまで誰も言葉を発しなかったが、楽しい空気であった。
歓談していた娘三人。そこへ到着してきた雷蔵から「待たせたな。次の現場に行こうか」とその細い背中に声をかけられた摩魚は、にクルッと踵を返して回れ右をすると、両手を後ろに組んで彼に「おかえり」と微笑んで話しかけていく。
「私、雷蔵くんと同じ榊家格闘術なんだ」
「え? 本当に本当なのか?」
突然の告白を受けて、驚いていく雷蔵。
自身と雷蔵を交互に指さしを繰り返しながら。
「本当に本当だよ。師匠は君のお母さん、榊麗子。だから、年齢的に私は妹弟子」
「え? そりゃあ初耳だ。ーーー母さん、弟子取っていたのか……」
「そう。麗子さんは、“武”が必要になったときに流派を明かしなさいって言っていたから、私も“そう”約束したんだ。それまでは内緒だったよ」
「そ、そうか……。いろいろと衝撃的だな。ーーーん? 君“も”?」
「その通り。榊家の流派を他に習っていたのは、ミドリちゃんも」
「え? ええぇっ!」
雷蔵、響子、虹子。この三人が一緒に声を上げた。
摩魚の内緒にしていたことの告白は、まだまだ続く。
「私もミドリちゃんも、同じ流派だったことを知ったのも一昨年くらいが初めてだったんだ。鍛練の間を挟んで、麗子さんからは雷蔵くんの話しが出てきたり聞いたりしていたよ。だから、私は会えるのを楽しみにしていたんだ。そして三年くらい前、やっと会えて嬉しかったし、興奮もしていたの。響子ちゃんとも知り合うことも出来てね、私、楽しかった」
ウッキウキで話す“姫様”に、三人は和んでいく。
エンジンが掛かったようで、摩魚の口はよく動いていった。
「あとね、雷蔵くんがひとりでクラブで闘っていたとき、私の闘気が共鳴していたんだよ」
「へえ……。そりゃ光栄だ…………。ん?」
微笑んで和やかに感動していった矢先に、雷蔵は再び驚愕した。
「え? 今、闘気って……?」
「えへへー。そうだよ。私、君と同じ生まれつき闘気が使えるんだ」
「おいおい。なんてこった」
「それから、ミドリちゃんも闘気を使うんだよ」
「はあああ!? マジか!」
「そうそう」
再び後ろ手を組んだ摩魚が、好青年に近づいていく。
「実はね。私、君と会ったときからずっと我慢していたんだ」
「な、なにを?」
「今までに会ってきた男の人は父さんを除いて全部受け付けなかったけれども、雷蔵くんだけはなぜか分からないけれど会う前から、こう……、兄弟子というかそれ以上の感じで物凄く尊敬していたんだ」
だんだん詰めてくる“姫様”。
押されていく雷蔵。
「それは、とてもありがたい」
「うふふ」
そう小さく笑った刹那。
摩魚の顔が急接近したと思ったら。
雷蔵の顔は両手で掴まれて。
二人の唇が重なった。
というか、雷蔵の唇が摩魚から強引に“吸われた”。
たちまち空気は緊張感に変わり、冷たさを上乗せした。
顔を傾けて、摩魚はさらに深く雷蔵と密着させる。
彼女の緩んだ両手は、好青年の首に巻いて抱きしめた。
拳から力を抜いて、雷蔵は緊張を緩めていく。
彼女の舌は口の中を動き回り、雷蔵の舌を求めた。
そして、この求めに応じて雷蔵も舌を絡めていく。
だが。彼は決して“姫様”の身体に腕を巻かなかった。
そんな冷たさから一変して、熱々になった。
瀬川響子と有馬虹子の顔は耳まで真っ赤っ赤。
と、そこへ。
間が悪いのか良いのか、ニーナとジェシカと亜沙里が到着。
公か不幸か、皆さん同じ有料駐車場だった。
「うっひょーー! 雷蔵が美女とキス!」
「ワオワオワオ! アメイジング!」
「ま、ま、ま、摩魚が、榊の兄さんと、キス!」
ニーナ、ジェシカ、亜沙里。という順に顔を赤くして叫んだ。
思っていた以上に長く重ねて絡み合わせていた摩魚と雷蔵。
満足した“姫様”が顔を離したとき、二人の間に透明な極細の“糸”を引いていた。優しく雷蔵の顔の両側を両手で掴みながら。小さな笑い声を洩らして。
「ふふ……。奪っちゃった」
そう、響子と虹子を見て笑顔を浮かべた。
この突出した美女の言葉と表情と態度の他全てを受けた傍観者の女たちは、脳味噌に衝撃を受けてハートを射貫かれた。心地好い眩暈を覚えて、足もとが揺らいでいくが、なんとか踏ん張った響子とニーナが虹子とジェシカと亜沙里を支えてあげた。雷蔵も例外ではなく、顔中を赤く染めて体温を上昇させていた。
「ままま摩魚さん。これはいったい、どういう……こと?」
「いろいろ御託を並べるよりも、行動で示した方が早く伝わると思ったからよ」
「だからといって、その……。なんだ…………」
「私はね。君を尊敬しているのは心だけではなく、身体もなんだ」
この距離は不味い。
と判断した雷蔵は、摩魚の肩に優しく手をやって一歩分離した。
それと、当然湧いてくる疑問。
「どうして、俺だったんだ?」
「私の成熟を、全てを任せられる人だからよ」
「……え?」
「男の人とのキスは君が初めて」
「うん?」
「そして、私を“女”にできる人は“あなた”しかいない」
「は? あ、いや、そう言ってもらえるのは嬉しいが、君には“もっと”相応しい人が出てくるんじゃないかな」
「“だから”よ。ーーー私には“とっくの昔”から相応しい人がいる。婚約もしているんだよ。だから、その人のために私のために成熟して武力以外の力を付けたいんだ」
「なにを言っているのか正直検討がつかない。しかし、摩魚さんには大切な人、ミドリさんがいるんだよな?」
響子と組んで以後、他の女には徹底して用心してきた雷蔵。
今し方、この海原摩魚という“女”に対して得たいの知れなさを覚えていき、上昇していた体温と身体はたちまち冷めて、雷蔵の顔には影が差して険しさを生んできた。この榊雷蔵という“男”は、場合によっては“いつでも”戦闘に入ることができるよう“気”を練って火を点けはじめていた。そして、“姫様”こと摩魚は“これ”を当然のように見抜いていて、現在の状況を楽しんでいた。
「うん。彼女は勿論、私の大切な人。それと、もうひとり。…………というより、もう一柱と言った方が良いのかしら?ーーーだから私は彼らと約束したの。私が認めた尊敬する人と身体を重ねて“成熟”して、一緒になるの」
「“お前”……いいや、“あんた”、本当に悪い奴ではなさそうだな」ーまいったな……。なにを言っているのか、分からんぜ。ーー
「ふふ。それって、どういう意味かしら?」
「いやその……。どういうって……」
男、雷蔵。今度は別の状況で揺らいできた。
なお。相棒で相思相愛の瀬川響子は別格とする。
今までに、彼は三度ほど心を揺さぶられた。
一度目は、黒部勝美。
二度目は、摩周ヒメ。
そして、三度目。海原摩魚。
雷蔵は言葉に詰まって、どうしようもなかった。
そんなことお構いなしに、上機嫌な“姫様”は話しかけていく。
「ねえ、雷蔵くん。詳しいことは車で移動しながらでもいいんじゃない? 今は早く四〇〇人の女の子を助けに行かないと」
「そ、そうだった。そうだった。それが優先だ!」
そういうことで、雷蔵は精算機に料金は支払いに向かった。
ここまでの流れを見ていた響子だったが。
「これは……、魔性だわ……」
「隣に、同じ……」友達に同意していく虹子。
「プリンセス摩魚。ヤバい女ね」
「惚れるわ、こんなの……」
「心臓止まるかと思った……」
ジェシカ、ニーナ、亜沙里。の順に感想を洩らしていった。




