海淵龍海とダゴン
1
「出かける前に、なおしたい物があるんだ」
「なになに?」
息子の海淵龍海の呼び止めに、母親の海馬が嬉しそうに聞いてきた。玄関で踵を返して足を進めながら、龍海は口を開いていく。
「状況が明るくなるんなら、もうアレは要らないかなと思って」
「アレ、って?」
そうたずねて、海馬は息子の後をついていった。
そして、流海は姉の後ろをついていった。
板張り廊下を渡り突き当たりを右に襖を開けて八畳間。
その八畳間の隣にキッチンルーム。
ここを通り抜けて次の襖を開けたら六畳間に到着した。
六畳間の片隅に、漆喰の壁を背にして和箪笥が三つ並んでいた。その三つの内の、角を背にして立っている一番端の箪笥の上に一輪挿しの花瓶を二つ両脇にして、黄金の蛇轟像が真ん中に“そそり”立っていた。二つの花瓶をさらに両脇に引き離してから、龍海は黄金の蛇轟像を多少力強く握りしめて取った。
「金色のオチンチンなんか握ってなにするの?」
と、流海が鈴の鳴るような声で聞いてきた。
思わず、ブフォと吹き出す海馬。
稲穂色の目を少し見開いて驚きを見せた龍海。
「いや……。もう要らないと思って引き出しに仕舞うんだけど」
「そうね。教団に気を遣うことなんかなくなちゃったもんね」
甥っ子の答えに、流海は顔も声も明るくして乗ってきた。
「本当よね。家中の監視カメラ気にしなくていいしね」
“芝居を解いた”息子の行動と言葉に、海馬は嬉しくなった。
「これが終わったら、お焚き上げしようか?」
「うん。僕もそう考えていた」
と、魚口の端が上がり、龍海は微笑みを見せた。
真ん中の箪笥の一番目の引き出しに黄金の蛇轟像を入れて閉じたあと、母親と叔母に振り向き、晴れた微笑みでひと言をかけた。
「さ。行きましょう」
「よし。行こうか」
「行こ行こ」
と、息子に続くように海馬が楽しげに肩を回していき、流海はニコニコと姉を見た。母親と叔母のあとに続いて歩きながら、龍海は両目の下に違和感を覚えていた。なんだか急に、頬の微弱な痙攣が起きて、微弱な痛みと痒みも感じてきた。両頬と両目下を指先で交互に触れて撫でたあと、気のせいかな?と思い、気分を今のことに向け直した。
海馬の愛車で移動中。
「んーー……」
「どうしたの?」
と、後部座席で頬に触れていく息子へと、海馬はハンドルと前方に注意しつつ質問した。山を下り、交差点の信号待ち。これを右折して国道を走らせて行けば、目的の稲佐町にある陰里学会長崎市会館に到着して、四〇〇人の鱗の娘たちを救出保護できるのである。これは、そうした目標の出始めでのことだった。稲穂色の眼の下を指先で撫でていきながら、龍海は短い眉を寄せていった。
「なんだか、チカチカピクピクするんだ」
「痛い? 痒い?」息子に確認していく海馬。
「痛痒い。でも、そこまで大きな感じじゃないんだよ」
「そう? それって“いつ”から?」
「蛇轟像を引き出しに仕舞ったあとから、かな」
「…………」
息子のこの答えに、海馬の目は鋭くなって、ほんの一秒沈黙した。そのあと、モンザレッド色の口紅を引いた唇を開いていった。
「やっと来たようね」
この呟きに、流海と龍海は不可解になる。
信号が青に変わり、右折していく。
路面電車の道へと下りだした。
今日の海馬は、珍しく眩い赤色のリップだった。
これを彼女が使うときは、夫の海蔵とのデートのとき。
それを今使っていた、海馬。
勝負時だ、とでもいうのか?
そのとき。
「う……っ」
と、龍海が顔を“しかめた”ときに、稲穂色の眼の下に眼球に添うように円弧に黒い線が生まれて、開いていった。なんと、龍海の稲穂色の眼球の下にもうひとつの目が現れたのだ。それは、黒い眼に銀色の瞳と縦長な黒い瞳孔、紛れもなく人魚の特徴であった。この変化を、バックミラーで運転しながらの海馬と、助手席の流海は静かに見ていた。すると、龍海が両肩を揺らしはじめた。
「ふふふふ……」
笑っているのか。
「そろそろ目覚める時期だと思ってたぞ」
と、龍海ではない声で独り言をはじめてきた。
「俺と妻に契約をした者が現れたのだ。お前たち役立たずと違ってな」
「えー。龍海君、中二病拗らせちゃった?」
困りだした流海。
これを訂正していく海馬。
「んなわけないでしょう」
ハンドル操作と前方に目配せしながら。
舌打ちした海馬は、バックミラー越しに龍海を睨む。
「私たち陰洲鱒を役立たずだってぇ? あんたこそ、なにも動かず働かずただただ信者たちから貢がれ崇められている穀潰しじゃないの」
これは、息子に言っているのか。
または、彼ではない何者にか。
強気な言葉に面食らって、龍海は動揺した。
「俺を穀潰しだと? お前、仮にも神に向かって言う言葉か? あり得んぞ。ーーーだいたい、神が下の民に対して手取り足取り可愛がるとでも思っているのか? 民は神に尽くして貢ぐものだ。だから先週現れた契約者は、素晴らしい約束をしてくれた。俺と妻のために働くとな。交換条件で島の砂金を増やしてやるぞ」
「馬鹿じゃないの?」
「ば……! 馬鹿だとぉ?」
「馬鹿だっつってんの」
白い歯を剥いて、さらに続ける。
「神様と人間は対等なんだよ。あんた何年神様続けてんの? 悪巧みなんか企んじゃってさ、馬鹿じゃないの」
「煩い。神は悪いことも良いことするだろうが。だいいち、お前たちとこの荒神が“そう”じゃないか。だから俺は神として当たり前なことをしたまでなんだよ」
「はあ? 話し聞いた限りだと、あんた悪いことしかしてないでしょうが。そこを馬鹿だと言ってんの」
「お前……。さっきから、この俺を馬鹿だ馬鹿だと……。神を侮辱しているのか」
鈍色の尖った歯を剥いて、額に青筋を立てた龍海。
バックミラー越しに、キッと睨んだ海馬は。
「馬鹿な野郎に馬鹿と言ってなにが悪いんだよ。実際あんた馬鹿じゃんか」
「お、お、お前……! まだ言うか!」
「おう。言ってやるよ」
そうバックミラーで龍海ことダゴンの戸惑う姿を確認していきながら、海馬は道沿いを様子見しつつハンドルを切っていった。
「ちょうどいい場所見つけたから、ちょっとそこでお話ししようか?」
「え?」
これを聞いたダゴンの背中に、冷たい汗が一粒背筋に添って流れ落ちていくのを感じていった。俺はもしかして、人間の女に恐怖を覚えてきたのか?と、そんな考えを頭に過らせていった。
2
市民会館の交差点から左折して、中島川通りへ右折する。
最初の一区間は片側一車線の対向車線道路なので停めた際には、他のドライバーどうしが任意で片側交互通行をして離合してくれれば済む通路であることを知っていた海馬は、予定通りに川沿いの歩道に建つ公衆トイレの側の路肩にハザードを焚いて駐車した。後方からの車両の有無を確認して運転席から出てきた海馬が、後部座席のドアを開けるなりに、息子の身体を“借りている”ダゴンの上着の襟元を掴むと、彼女は力任せに座席から引きずり出していき歩道に上がって、そこに設置している木製のベンチに投げるように“彼”を座らせた。「イテテ」と尾てい骨を擦っていくダゴン。この動作を見終えたとき、海馬は鉤爪のように構えた指の手で、ダゴンの顔を鷲掴みした。それはまるで、鉄の爪の如く指先が顔の周囲に食い込まんとしていて、掴んだ物は絶対的に放さない勢いであった。かといって、そうしている海馬の表情は、力んで表情筋の全てを中心に寄せているといったわけでもなく、至って冷静な眼差しと口もとを保っていたのだ。酒屋の美人社長は片手のみで、二四歳という若さとパワー溢れる鍛え上げた青年を制していた。信じがたい光景であるが、海馬にとってはこのアイアンクローも“ほんの”序ノ口ていどに力を使っていたに過ぎなかった。
これには当たり前のように戸惑っていくダゴン。
「イタタタタ! おおおお前! 話し合いするためにここに停めたのではなかったのか!」
「私、そんなこと言ったっけ?」
「とぼけるな!」
「ふん! 今の今まで龍海を勝手に利用しておいて偉そうな口きいてんじゃないよ!」
こう反論した海馬が瞳を朱色に光らせて眉を寄せて“少し”力んだとき、我が息子の顔を引っ張り上げていった。頸椎を破壊するかのような勢いで、龍海の顔から“ナニか”を引きずり出していく。ぬるぬるずるずると音を立てていきながら、海馬は息子の身体から完全に引き抜いて“ソレ”を石畳の歩道に放り投げた。なにからなにまで抜かれた龍海は、身体中の力が抜けてしまったのか、そのままベンチに横倒れになった。この甥っ子から引き抜いている間を目撃していた流海は、きゃあ!と悲鳴をあげて口もとを両手で隠して、あとはそのまま抜き終わるまで観察したのちに、倒れ込んだ彼に駆け寄って肩に手をやった。
「龍海君! 龍海君!」
「そのまま寝かせてて。この子は私の息子よ。なんの心配もないわ」
「……。姉さん……」
腕を組んで仁王立ちをして言い放った姉に、流海は不可解な顔を向けた。そうしている間にも、海馬の後ろから何者かが“よろよろ”と立ち上がってきたではないか。それは、頭に三列の鬣みたいな鰭が背中から尻尾まで走り、稲穂色の丸い眼球が左右に付いた、魚の顔を持つ筋骨逞しい全裸男。その丸い眼球の下に、半円の円弧をした黒い眼に銀色の瞳をして、黒色の瞳孔が縦長の目があった。おそらくこの黒眼が“本当の”眼であろう。顎の輪郭線の左右から大きな鰭。両耳が見当たらないのは、多分“どこからかで”音を取ることができるのであろう。銀色の尖った歯は上下に二列ずつあり、下顎の大きな鰓をひとつ目にして、その下からは逞しく太い首筋にも左右に四つの鰓と、あばら骨の辺りに三つの鰓とを確認できた。これらは間違いなく、海馬と流海が今まで見てきた数々の人魚の平均的な特徴であった。黄ばんで苔むした緑色の上体に、深緑色の鱗に尻尾まで覆われた両脚。黒く鋭い鉤爪のある両手両足の指の間には、水掻きと思われる膜が張ってあった。魚人間の特徴を備えたこの男こそ、蛇轟秘密教団が崇拝している神、ダゴンそのものである。そしてこの神は、二四年間に渡り海淵龍海の身体を無断で借り続けて神の視点で町のことを見ていた。そんな神に背中を向けたまま、海淵海馬が口を開いた。
「本体の御出座しだね。このときを待っていたよ」
「女ァ……。どこまでもこの俺を侮辱する気だな」
銀色の尖った歯を剥いて、ダゴンが青筋を浮かべた。
腕を組んだまま神に振り向いた海馬は、口もとに微かな笑みを浮かべていた。そして、ベンチで甥っ子を介抱している我が妹に話していく。
「流海」
「なあに?」
「今からコイツに躾るから、息子を頼んだわよ」
「ええ。任せて」姉の背中を見て、頷いた。
妹の返事を確かめたのちに、海馬は組んでいた腕を解いて、適度な脱力をしてダラリと垂らした。赤色の瞳を鋭くさせて、白い歯を見せた。
「相手は神だ。手加減はしないよ」
「自惚れおって。神に躾るだと?」
「私が自惚れているかどうか、今から見せてやろうじゃないか」
海馬はそう言うと、赤色の瞳を朱色に光らせていった。
ダゴンも遅れを取るまいとして、銀色の瞳を強く光らせた。
銀色の衝撃波が広範囲で海馬と流海と龍海を狙ってきた。
このまま当たれば、三人は確実に肉体が四散する。
が、海馬の身体の前で、赤色の稲妻が四方八方に飛び散り、銀色の衝撃波を弾いて消滅させてしまったではないか。海馬が雷撃を放ったときに広がっていた髪の毛が、落ち着きを取り戻して肩甲骨のあたりまで下がっていった。
手刀で半身に構えたダゴンが、肘から指先にかけて剣のように鰭を形成した。通称、ヒレブレードと言うらしい。地を蹴って飛び出したとき、石畳が抉れて破片を散らせた。鰭の切先が走り、海馬の赤い瞳を突こうと迫ったとき。左手でヒレブレードの先が掴まれた。ダゴンが押しやろうとするもの、海馬は表情ひとつ変えずに微動だにもしなかった。神に力負けしない女。これにはダゴンも驚いていた。だからといって、“彼”はこのまま引き下がるわけにはいかない。旧支配者とはいえ、ダゴンとハイドラは神である。“人”に負けるわけにはいかない。今も昔も我々はヒトを支配下に置き続けるのだ。それゆえに、ヒトは我々に奉仕し続けなければならない。人間は神に奉仕して当たり前なのだ。そう、人間は神に尽くして奉仕して然るべきなのである。その奉仕種族ごときが、神である俺を躾るとは、生意気な。俺の力に負けて、跪かせて頭を垂れさせて奉仕させてやる。そうだ、神に逆らう人間は奉仕だ。奉仕ありきなのだ。
奉仕……させて……。
「ほおおおおおーーーーーー! しいいいぃぃーーー!」
「どうしたの? ヒト相手に遠慮しているのかしら?」
ピクリとも表情筋を動かさず、余裕な海馬。
対称的に、ダゴンは歯を食いしばり踏んばる。
「ぐぬぬぬ……。なんなんだ? お前はぁ……!」
左のヒレブレードを突き出していく。
すると、海馬から右手で捕えられた。
これでダゴンは両手を塞がれた格好となった。
石畳を凹ませるほどに両足に力を入れて、さらに力む。
「なぜ、神の俺に力負けしない? 本当に何者なんだ……?」
「私かい? “ただの”酒屋の女主人だよ」
そう言ったとき、海馬の口角が微かに上がった。
この隙を狙って、ダゴンが瞳を光らせようとしたとき。
海馬の頭突きを喰らって鼻と上唇を潰した。
赤い瞳を朱色に光らせた、手加減無しの頭突きであった。
顔面の真正面から受けて、衝撃は後頭部へと突き抜けた。
神々に脳味噌があるかどうかは不明である。
不明ではあるが。
ダゴンは頭の中で、“物”がのた打つ感覚を味わった。
神々に脳味噌があるのか分からない。
分からないが。
脳! 震! 盪!
神は驚愕した。
酒屋の女主人が、ドロドロに溶けて見えていく。
狭い視界の中を、たくさんの火花が暴れて散っていた。
俺は、いったい海淵龍海の中でなにをしていたんだ?
二四年の間、この女の息子の中でなにか成果があったか?
否ーーーーー
膝。
神の思考を遮断して、海馬の膝蹴りは下顎を砕いた。
窪んだ石畳から、ダゴンの両足は僅かに浮いて離れた。
そして、海馬はヒレブレードを解放した。
爪先。
ぐーーん。と伸びた海馬の前蹴りは、神の腹を貫いた。
雷が腹部を貫通した、のかと思うほどの打撃と衝撃。
海老のごとく身体を折ったまま、ダゴンは吹き飛んだ。
石橋の階段を破壊していき、宙に放り出された。
眼に映る景色がスローモーションに見えている。
このまま俺は無様に川に落ちるのか?と巡らせた。
その、矢先。
周りがたちまち薄暗くなり、稲光とともにダゴンを焼いた。
それは、海馬の全身から放たれた赤色の雷であった。
龍のように空を泳いで駆け抜けて、ダゴンに直撃した。
“彼”を貫通した赤い雷の龍は天高く昇って消えた。
一瞬にして黒焦げと化した神は、中島川に落下。
派手に大きな水の王冠を作って、ダゴンが流されていった。
なす術無し。
海馬が朱色の光をおさめたとき、再び天気は晴れに戻った。
3
「なんだ? 今のは、龍か?」
「赤い、龍だわ」
「遠くで動いていたの、やっぱり龍だったんだ」
「レッドスプライトて雷があるけれど、今のは明らかに違うぞ」
そう、各々が独り言を呟いていく住民や通行人たち。
天空が薄暗く染まったとき、遠く山に赤く蠢く物を目撃した。
レッドスプライト。赤い雷。
通常のは、赤色の天使が群をなしている風に見えるが。
海馬が起こした先ほどの現象は、明らかに“コレ”ではなかった。赤い雷撃を放ったとともに、遠くの山の頂よりも遥かに高い空で赤色に輝く長く“うねる”物が現れたのだ。それは、鹿の角に麒麟の耳を持ち、燃え盛る炎のような長い鬣、上唇から左右に長く伸びる細い髭、額中央から背骨を沿って尻尾の先端まで走る三角形の鋭利な鰭。まさに、龍と呼ばれるそのものの姿形をしていた。あとは、龍とも呼ぶ。そして、再び晴天に回復すると、赤い龍は消えていった。
「赤い龍……!」
そう呟いた流海が、空から姉の背中に目線を移した。
「姉さん。私、また見られるとは思わなかった」
妹の言葉を受けたあと、海馬の背中から力を抜いた。
静かに回れ右をして、流海に向き合い、笑みを見せて。
「“今の”は、私だけじゃない。あなたも出せるよ。そして、真海も」
「え……? 私も?」
「そう。これは海淵家の女しか引いていない血筋なの」
こう優しく返したとき、ベンチに横たわっていた龍海が小さく呻きながら身を起こしていった。
「龍海」
「龍海くん」
母と伯母の呼びかけに、憑物を抜かれた青年が顔を向けた。
「いったい、なにが、あったんだ……」
「あら! まあ!」
甥っ子の顔を見た瞬間、流海は瞳をキラキラ輝かせた。
それは。
赤い瞳の美男子。
今の今までの魚顔は何処?
ほぼ左右に整った美しい顔の男性だった。
多少の鋭い眼差しの強面感は、母からの遺伝か。
というより。陰洲鱒面とはなんだったのか?
艶やかな黒髪は、ウェーブがかかっていた。
そして、色気もある。
彼の母親、海淵海馬が近寄ってきて。
「おかえり。龍海」と、微笑んだ。
「え?ーーーああ。……ただいま……」
息子も、そう微笑み返した。
父親の海淵海蔵も、甘いマスクの色男なので納得の遺伝。
膝を伸ばして立ち上がっていき、両腕を天高く突いて大きな“伸び”をしていく龍海。見かけでは分からないが、予想以上に疲労をしていたらしく、寝ぼけ眼を指で“こすった”あと欠伸をひとつして一段落着けた。
それから。
路肩に一時停車していたディープブルーのフェアレディZに、三人は再び乗り込んで。ハンドルを握った海馬が、助手席の妹と後部座席の息子にへと明るく話しかけていく。
「さあ。私の息子が帰ってきたし。悪い神様を退けたし。お次は稲佐町に行くよ」
「なにしに行くの?」
鈴の鳴るような声で、流海はたずねた。
これに海馬がニコニコして答えた。
「私たちの町の女の子を、いっぱい助けに行くの」
「それは良いことね。行こ行こ」
流海もニコニコして同意した。
後部座席の龍海も、母親と伯母のやり取りに微笑んだ。
「よーし。レッツゴー」号令をかけた海馬。
そして、海淵家の面々は目的地へと向かった。




