鱗の娘救出作戦! part 4
1
同日。
長崎警察署は、朝から大多数を動員して準備をして。
本日付で、長崎市で大規模な捕物が行われていた。
昼前から鱗の娘たちの“お勤め先”へとガサ入れである。
長崎県警に、福岡県警の強行課が全面協力。
さらに、本庁から機動隊と装甲車両と護送車両を投入。
相手は宗教絡みとはいっても、関係などなかった。
民間人協力者の情報と地元県警の捜査結果を合わせて、逮捕令状を発行した。そしてこれは、本庁の強行課の涼風松葉警部補から直接指示が出されての一斉検挙でもあった。“お勤め先”の全てのホテルとその部屋番号を、“民間人協力者”の梶木有美と野木切姉妹と黄肌玲子らが提供してくれていたために、一大救出劇は問題無く行われていった。長崎と福岡の両県警を合わせて刑事は百名近く、本庁から投入された機動隊員は四〇〇名以上、総勢約五〇〇名というかつてない大規模な動員数を二〇班に分けて、各自現場へと向かった。そして、以下。
先発組。
摩周ヒメ。
龍宮紅子。
浜辺銀。
尾澤菜・ヤーデ・ニーナ。
後発組。
潮干リエ。
黄肌潮。
磯野マキ。
磯野カメ。
皮剥実。
斑紋甚兵衛。
などの自発的に活動を始めた面々と県警の合同班が昼間の時間帯から合流して、不同意性交をしていた不届きな輩たちを次々と捕えていき、マインドコントロールから解放または鯉川鮒の妖術から解放された娘たちを救出そして保護していった。ヒメと組んでいた紅子は、二件目の救出に市内ホテルへと入ったとき、建物玄関で稲葉輝一郎刑事の班と“たまたま”合流して、そして彼と一緒に二部屋にいた鱗の娘ら四人を助けて護送車へ保護したあと、嬉しさのあまりに「輝一郎くぅーーん!」と堪らず彼氏に飛びついて頬をスリスリとした。赤面した摩周ヒメから「やめんか」と注意を受けた紅子。周りの機動隊員たちから、「ヒュー」と冷やかされていく。そして、身柄を保護されていた四人の鱗の娘たちからも「ヒュー」「やあん、もう。お熱い」などの冷やかしも受けた。リエと潮のペアも、三件目のホテルに入ったときに福岡県警の鬼束あかり警部と機動隊員の班と合流して、教団信者と院里学会員と芸能人を蹴散らして逮捕したあと三人の鱗の娘たちを救出。磯野マキとカメの姉妹組も、三件目のホテルで松本秀二郎刑事の班と合流。三人の鱗の娘を救出して保護。あと、教団信者や学会員に著名人らを現行犯逮捕。実と甚兵衛のペアも同じく、二件目のホテルで福岡県警の椿桂一郎警部補の班と合流して、二人の鱗の娘を救出と保護。あと、複数の教団信者と学会員のほかに、世界基督教会のイスラム教幹部を二人も逮捕した。そして最後は、銀とニーナのペアも他の面々と同じように、ホテルの三件目で鬼束ひかり刑事の班と合流して、鱗の娘たち四人を救出して保護。教団信者と学会員、そして芸能人とユダヤ教の幹部ひとりを逮捕した。それからも、リエたち十名の『民間人協力者』は合流した先ほどの刑事の班に同行して、多勢に無勢な不届き者たちから鱗の娘たちを助けて回った。
そして、救出も一区切りが着いて。
長崎県警、鬼束ひかり刑事の班。
西山町のファミリーマート駐車場を待機場にしていた。
鱗の娘たち三〇名を乗せた護送車を見送ったのち。
「ひかりちゃーん。あたし、今から娘を迎えに行って、すぐ戻ってくるからね。ちょっとだけ待っててね。ーーーニーナちゃん、ついてきて」
と、浜辺銀がシルバーの愛車の運転席から鬼束ひかり刑事にへと笑顔で手を振って、ひと言断った。そして、ニーナに同行を願っていく。このことに、ひかり刑事は少しばかり戸惑った。
「ここから近いんですか?」
「うん」
「すぐ戻ってこれます?」
「うんうん」
「ちょっと待っててください」
そう言って、ひかり刑事が無線で確認していったのち。
「分かりました。娘さんを迎えに行ってください」
「ありがとーねー」
「十分だけ待機しておきます」
「うんうん。りょーかーい。任せて」
ニコニコとしながら、銀は“ひかり”刑事に手を振ったあと愛車を走らせた。向かう先は、もちろん、海淵龍海の“隠れ家”こと伯母の海淵流海の実家。そこに愛娘の浜辺亜沙里が一緒に彼氏の龍海と暮らしていた。
こちらも、ほぼ同じ時間帯。
三〇名の鱗の娘たちを護送車に預けて見送ったのちに、赤毛の長身美女こと蛭池愛美刑事は愛車の白色のシトロエンに乗り込み、自身の班の機動隊員たちと次の救出と摘発にへと向かっていく。と、その前に。
助手席の民間人協力者に笑顔で話しかけていく。
「ジェシカちゃん。次の次で私たちの担当が終わるわよ。それまで頑張りましょう」
「オーケー!」
2
いっぽう、そのころ首謀者の美女三人は。
タクシーで『格さんうどん』から高速道路で移動して、サービスエリアに着いていた。片倉日並がタクシー料金を代表で支払い、彼女から順に鯉川鮒と鯛原銭樺が続けて降りた。タクシードライバーへと律儀に軽く会釈した美女三人は、待ち合わせしていたディープブルーメタリックのハイエースに乗り込んでいき、中央座席に並んで腰を下ろした。
そのとき。
「げ! 毅君!」
「マジか!」
「嘘? なんで!」
銭樺、日並、鮒。といった順に驚いていった。
ゲグロ ゲグロ
ハイエースのドライバーが、蛙男こと磯辺毅だったからだ。
助手席の頭に肘を乗せて、毅は挨拶していく。
「みみみんな、仲良し、なんだな。よろしく、なんだ、な……」
「チェンジ」日並の無慈悲な答えに。
「早い早い! せめて理由を聞いてからでもよかろうが」
鮒から慌てて突っ込まれた。
「じゃあ。なんで君がハンドル回してんのよ?」
少しムッとした表情と口調の銭樺からのアシストがきて。
「きききっ教団を、経由して、たたたたタヱさんから連絡を受けたから、なんだな」
「は? タヱちゃん?ーーーなんでタヱちゃんなの?」
タヱちゃん。潮干タヱのことである。
出して。と日並の指示に、ハイエースが出発する。
鮒の疑問を毅は拾っていく。
「タヱさん、は……、しし信者の人たちと世間話仲間なんだな。だから、入江さんから頼まれて、タヱさんからおお俺にきたんだ、な……」
「入江ちゃん、施設に住み込みで(幹部職で)働いてもらっていたんだけど……。手配が面倒だったみたいじゃな……」
と、スマホから直に連絡した鮒が呟いていく。
入江ちゃん、こと。
入江美沙。二四歳。
百六四センチの長身細身。黒髪を顎のラインで切り揃えていた。
蛇轟秘密教団で幹部職として働く、涼しげな目もとの美女。
経理事務がメインで、忙しいときは鮒と共同で処理していた。
教団で働いていながらも、彼女はとくに信者でもなかった。かと言って、これに協力援助している院里学会の学会員でもなくて、ごく普通の“一般家庭”から求人を見て応募してきた女性であった。しかも、美沙曰く、三年以上前に生まれ育った東京都から長崎市へと流れてきたという。
まあ、それは置いておいて。
「同じ町の者なら話しは早いわね」
と、微笑みを浮かべた鯉川鮒は。
「育良ちゃんと紅佳ちゃん、あとマルちゃんから外敵が市内に乗り込んだというメールがきたの。だからまずは毅君、思案橋に行ってちょうだい。そして次は稲佐町まで日並をお願い」
「わわ、分かりました、なんだな」




