飲み会アフター
長かった飲み会編はこれでおしまい。
次から新しい話を始める予定です。
「そういえば。下世話な話しだけどもさ。雷蔵くん、報酬の等分って考えているの?」
台所部屋にある棚の一番下に、残った一升瓶の各種酒をなおしながら摩周ヒメは聞いた。依頼内容のスケールとその報酬の額が大きいと耳に入れたら、人間気になるというもの。なにせヒメは、大手の広告会社に勤務しているゆえに、労働に見合った結果を知りたいものだ。白いレースで縁取られた足首までの白いワンピースの裾を手でよけて両膝を折って座り込み、次また来て飲み交わすためにキープしているボトルや一升瓶たちを棚にしまい込んでいく。じぶんで買って持って帰る分は確保済み。この件に関しては、尾澤菜・ヤーデ・ニーナも気になっていたわけで。
「そういやそうね。てかさ雷蔵。あたしがさっき言うまで忘れていたのは、あんまりじゃないの? まあ、話しが出た以上は考えているよね」
使用済みの紙コップや割りばしやその他もろもろの可燃ゴミを、紅子と一緒に片付けながら確認していった。響子と一緒に流し台で皿とグラスを洗いつつ女二人の振ってきた話しを、しっかりと聞いた雷蔵が一旦水道の栓を閉めてニーナとヒメに向いた。まず自身と響子を指さして、すぐにニーナを手刀の指先で指した。
「3、3。そして4」
「阪神関係ないですよね?」
「え?」
「あ。いえ、こっちのこと。ごめんね」
ビールの空き缶を潰していた福子が動きを止めて割って入ったが、雷蔵から不思議そうな顔をされたので、軽く謝罪した。その隣では、テーブルなどを拭き終えた磯野マキが空き瓶を袋にまとめていた。どうやら、福子のトラウマらしい。どうしたんだろ?という表情で福子を見たあと、雷蔵と響子に顔を向けたニーナ。そして、福子へ顔を向けて。
「まさか、福子さん。虎ガール?」
「ええ、はい。よく分かりましたね。ひょっとして、魔法で?」
「なわけないでしょ」
嬉しそうな笑顔で返事をした福子に、下の棚に酒を仕舞い終えたヒメが突っ込んだ。優しい口調の突っ込みをしたあと、膝を伸ばして立ち上がり、腰の後ろに手を当てて背中を伸ばした。スリムながらも、後ろから見てもメリハリのあるヒメの身体に響子と福子は作業していた手を止めて見とれていく。おいちにーさんしーと後ろに反らしたのちに、作業している他のみんなに振り向く。赤らめた顔のまま慌てて作業を再開していく響子と福子を見たヒメは、「?」と言った顔をした。先ほどまで開いていた飲み会だった、探偵事務所の応接室兼作業部屋で可燃ゴミをそろそろ片付け終えているニーナと紅子の姿の他に、楽しそうに掃除機をかけている精神体の潮干ミドリを確認した。
「ねえ。ミドリちゃん、どうするの?」
「そういえばそうだ。俺と響子がいて形を保てたって言っていたから。ーーーどうしよう?」
「どうしよう?って、君ねー」
洗い終えて質問に応じた雷蔵に、ヒメが返した。
隣で皿とグラスを拭きながら瀬川響子は話していく。
「せっかくだから、ミドリも雷蔵の家に送って行こうよ」
「そうする?」
「そうしないとダメでしょ。あたしたちから離れたら、また消えてしまうんだよ。だから、彼女の依頼を達成するまでの間は、一緒に生活したほうがいいよ」
「女が増えるのか……」
「にぎやかになって良いじゃない」
そう笑顔で言って、拭き終えた皿とグラスをマキと一緒に食器棚になおしていく。全ての空き缶を潰してゴミ袋に入れてしまったあと、腰の後ろに手をやって背筋を伸ばしていく福子。そして肩を回したあと、ふと気づいた。響子に向いて聞いていく。
「そういえば、タヱちゃんはどこに行っているの?」
「彼氏のところで朝帰りしてきますよ」
「え?」
福子を含めた、飲み会に参加してきた女性たちがこの反応だった。ちょうど掃除機がけが終わったところで、これを聞いた精神体のミドリはとくに目を見開いて口も開いて、アホヅラになる。響子の答えに、呆気にとられている。
「たたタヱが、あさあさ朝帰り……!」
「君も君の妹さんもオトナだろ? なら、なんの問題もないよな」
「いや、その……。問題ないけど……」ーあの子。本当に私の先を行くよね。一歩どころか二歩三歩、私より成長している気がする。ーー
雷蔵の視線に気づいて、顔を上げた。
「どうした? なにか気落ちしている感じだったけど」
「大丈夫。妹の成長にびっくりしていただけ」
「なら、君も君なりに成長するさ」
「え……、あ……。あり、がとう……」
頬を赤くして、笑みを見せた。
明日は明日で仕事がある者がいれば、休みの者もいる。
榊探偵事務所をみんなの協力でキレイに片付けた。
あとは、それぞれが帰って寝ることとなる。
 




