62.コンプレックス sideラスキス
この顔は、どうにかならないものだろうか。
ーーーー贅沢な悩みだと分かっていながらも、そう考えずにはいられない。
第五王子として生活に困らない身分に生まれ、その上どんな人からも絶賛される、最上級の美貌を持っている、らしい。
自分としては、まあ造形は良いのだろうと思うものの、不便さも感じる顔なのだが。
何せ、人との会話がまともに進まないのだ。
ぽ〜っと逆上せあがってしまい、肝心の話をほったらかして顔の話ばかりされる。
もしくは、私に気に入られようと必死に媚びを売るか。
しかも、王子という身分であるから、使える物は何でも使えと言わんばかりに、色々な場へ駆り出された。
まだ物事の分からない年頃から、場を盛り上げる小道具として外交の場へ連れて行かれ。
少しは話が分かるようになっても『大人の話だから、何も言わずに黙って座っていなさい』と言われ。
じゃあ連れて来るなよ、と思いつつ、テーブルの上に飾られた花束に、同じ役目を持つ者同士の共感を得たりして。
最近は一人前として自分で話もさせて貰えるようになってきたが、私の顔に見蕩れて話が進まない。
うんざりすることも多いが、『美貌に酔わせて良い話を取ってこい』というのが叔父上や兄上の意向だ。
私としても手柄を挙げられるのは良い事なのだが、残念ながら実力ではなく、顔の皮一枚での手柄なので威張ることも出来ない。
そんな私に、婚約の話が舞い込んだ。
顔が取り柄なのでもちろん早い段階で婚約者が居たのだが、お相手のサラルアテニーの姫君は帝国の支配下に落ちてしまい、行方知れずとなってしまった。
個人的な付き合いも多少はあったので悲しいとは思うが、サラルには他の友人も居たのでそちらと変わらないほどの熱量だろうか。
ともかく婚約者の居なくなった私にあてがわれた次の相手は、異世界から舞い降りた姫君だと言う。
神殿によると『救国の乙女』で、莫大な魔素を保持しているゆえ、何があってもアレタードに留めおきたいとのこと。
……私の顔で釣って、言うことを聞かせろと。
叔父である国王陛下からの言葉を多少投げやりに要約するとそんな風で、まあいつも通り微笑んでいよう、とだけ思った。
ーーーーどうせ、誰が妻になろうが大して変わりはしないだろうから。
だが、彼女は今まで出会った誰とも違った。
私を目の前にしても至って冷静で、自宅へ招いて貰った時には政治の話も弾んだ。
そんな姫君がいるなんて考えもしていなくて、俄然興味が出てきたのに、その後の連絡は特に無く。
「なあ、ジェノス。彼女のことを、そなたはどう考える?」
「身分が不安定かと存じますな。殿下のお相手には、少々足りぬでしょう。
魔素を使ってのし上がってくるのならば、投資先としては悪くないかと考えますが」
ジェノスは王族に連なる家の出身で私とも遠い親戚だ。
もう50近い歳で長く外交の場に携わっており、かつては私の教導者で、今では副官だ。
ずっと彼について生きてきたし、誰よりも信用している。
だからこそ、ジェノスの忌憚のない意見が聞きたかった。
「では、結ばれてもよいと、そう思うか」
「もちろんですぞ。ただ、殿下の一番の魅力である美貌を今ひとつ理解しておらぬ様子。
異世界とは美的感覚も違うのでしょうかな。
しかし、そこが良いと殿下がお思いになるのなら、またそれも良きことでありましょう」
この顔が嫌だと愚痴をこぼしたことは無いけれど、幼少期から見守ってくれる相手に隠し事は出来ない。
「ジェノスも良いと感じたのならば、これも良い縁なのだろうな。
私の年齢からしても、次の縁に巡り会えるとも限らない。彼女に気に入られるように努力するとしようか」
日頃から媚びを売る相手を嫌っている私が、そんなことを思う日が来るとは。
しかし、私ももう20歳。
そろそろ結婚しなければ、不良品の売れ残りと思われてしまう。
「しかし、ひとつ懸念があるとすれば、かの姫君は殿下の仕事にご理解頂けるのですかな」
……そうだ。それもあった。
私の仕事上、王都を長く空ける時もある。
長ければ二ヶ月近く、他国へ行くからだ。
女性は自分を守ってもらうために結婚するのだから、しょっちゅう家を空ける私を夫にしたいとは思わないだろう。
サラルへは婿入りする予定だったため問題にはならなかったが、アレタードに居るなら話は変わる。
実際、ジェノスは奥方にあまり好かれてはいない様子だ。
好まれないだけならまだしも、役立たず扱いされると心が折れる、と愚痴られたこともある。
女性の見る世界は狭いし、中々理解してもらいづらい所もあるから、仕方がないとは思うものの、出来れば好かれたいと思うのが人間だ。
「話してみた感じでは、かなり視野が広く理解力も高いと感じたな。
きちんと話せば、理解してもらえるかもしれない」
「よいご縁であればよろしいですな」
「まったくだ」
私のことを、彼女はどう感じただろうか。
気にしても仕方がないのに、そればかりが気になってしまう。




