第四話 実験
すみません。保存ミスで編集途中のものをあげてしまいました。読んでくれてる方はありがとうございます
実験が気になった。
「で、実験ってどんなのしてるんですか?」
「みたい?みたい?.....しょうがないなぁ『どうしても』っていうなら見せてもいいよぉ?」
「じゃあいいです。」
「ちょっと待って待ってぇ見せるからぁみてよぉ〜」
「ワカッタ。イクカラ。シガミツカナイデ」
想像以上に泣き付かれて、慌てた。
「ついてきてぇ」
「はぁ....お姉様.......」
...
.....
.........
...............
研究棟は城の奥にあった。
近づくだけで分かる。
壁が異様に分厚い。
しかも至る所に魔法陣が刻まれている。
「……なんかやたら厳重じゃないか?」
「前に研究棟ごと吹き飛びかけたのでぇ」
「何したんだよ」
「魔力液化実験〜」
「姉様は時々、"できるか"ではなく"やりたいか"で研究を始めるので……」
怖い。
そんな会話をしているうちに、研究室へ到着した。
扉が開いた瞬間。
「うわ……」
思わず声が漏れた。
部屋の中央には巨大な球状装置。
幾重にも重なる金属環。
空中に展開された多重術式。
透明管の中を流れる青白い液体魔力。
中心には、黒い魔鉱石が浮いていた。
周囲の空間そのものが微かに歪んでいる。
「……なんだこれ」
「循環型魔導炉ぉ!」
アリアがドヤ顔で胸を張る。
「普通の魔導炉ってねぇ、魔石の中の魔力を燃やして動かしてるの。でもそれって効率悪いんだよぉ」
「まぁ、燃料みたいなもんか」
「そうそう。実際に使われる魔力って三割くらいで、残りは熱とか余剰魔力として外に逃げちゃうの」
「七割近くが未利用状態ですね」
サクレアが補足する。
「え、もったいな」
「でしょぉ!?だから私は、"逃げた魔力"を回収して再利用する炉を作ろうとしてるのぉ!さらにぃ、使われた魔力がもう一回使えないのって、質が落ちて、空気中に散ってちゃうからだからぁそれをもう一回使えるようにして動かしてるのぉ」
「……永久機関か?」
「理論上はねぇ!」
なるほど。
発想自体はぶっ飛んでるが、もし完成したらヤバい。
魔石消費が激減する。都市維持コストも下がる。
普通に世界変わるレベルだ。
「でもぉ、問題があってぇ……」
アリアは中央装置を指差した。
「空気中の魔力って、すっごい不安定なのぉ」
その瞬間、中央炉心が脈打った。
ぶわっ、と青白い魔力が漏れ出す。
空気が震える。
「術式から外れた魔力は、形が崩れています。その状態で再圧縮すると、術式同士が衝突して暴走します」
「つまり爆発する」
「そゆことぉ〜」
軽く言うな。
アリアは机の上に広げてあった紙を掴んで、こちらへ向けた。
術式図と数式が、紙いっぱいに書き殴られている。
「これが今の設計ぅ。ここで余剰魔力を回収して、ここで再圧縮して、ここから炉に戻す流れなのぉ」
「……ここの圧縮、かなり無理してないか?」
「そこなんだよねぇ……」
アリアが頭を掻く。
「再圧縮の段階でどうしても術式にノイズが乗るのぉ。それが積み重なると炉が耐えられなくなって……」
「爆発する」
「そゆことぉ」
「圧縮率を下げたら?」
「下げると密度が足りなくて出力が落ちる。一定以上の密度がないと炉として機能しないから、そこは削れなくてぇ……」
「じゃあノイズを先に取る方法は?」
「それが難しくてぇ。崩れた魔力って形が不安定だから、フィルタリングしようとしてもすり抜けちゃうのぉ」
アリアはさらに別の紙を広げる。
失敗例のメモらしかった。
何十回分かの数字が並んでいる。
「ここまで試してみたんだけど、どれも途中で詰まっちゃってぇ……」
「……なんで毎回ここで止まってるんだ?」
「そこがずっと謎でぇ……!」
アリアが身を乗り出してくる。近い。
「なんかわかる?」
「……少し見ていいか」
俺は炉を見上げた。
構造を目で追う。
魔力の流れ。
圧縮のタイミング。
各術式の繋がり。
……あれ?
「これ、炉心に戻してるのか?」
「へ?」
「逃げた魔力を、また炉の中心に押し込んでる。だろ?」
アリアが止まった。
「……なんで分かったのぉ?」
「流れが変だから」
「変って、どこが?」
「圧縮した魔力が炉に吸い込まれる直前で、なんかこう…………ぐにゃっとしてる。」
サクレアも固まっていた。
アリアはゆっくり俺を見る。
「……それ、見えてる?」
「なんとなく」
「なんとなくで見える場所じゃないんだけどぉ」
知らん。見えるもんは見える。ただ心当たりあり。
アリアはすっと目が変わった。
さっきまでのぽやぽやが消えた。
研究者の顔だった。
「……崩れた魔力を再圧縮してるから、術式汚染が起きる。それを言ってる?」
「たぶんそう」
「だからってそこに戻さないと、密度が足りなくて出力が……」
「燃料として戻すからダメなんじゃないか」
アリアの動きが止まる。
「外側で流した方がいい気がする。中心に戻さず、補助出力専用にするっていうか。燃やすんじゃなくて、流れを押すだけに使う感じ?」
沈黙。
アリアが机に走った。
紙を掴む。
計算式を書く。
消す。
また書く。
「え、ちょ、お姉様?」
「ちょっと待って」
ぶつぶつ呟きながら計算を続ける。
「位相干渉……減る……いや、待って、外周循環なら……」
空気が変わっていた。
「成立する……!」
「へ?」
「炉に戻さないから術式汚染が起きない!」
アリアが勢いよく振り返る。
「プラネくん!!」
「お、おう?」
「天才!!!!!!」
「いやいや適当に言っただけだから」
「適当で核心突く人がいるかぁ!!」
いるといないで言えばたぶんいない。
サクレアが小さく咳払いをした。
「お姉様、ほぼ初対面の人に対するそのいつもの近さをやめてください」
「あ」
アリアが止まった。
「ごめんねぇ、つい……」
「別に嫌じゃないぞ。けど、実験するなら俺も安全かどうか判断させてくれ」
「あ、もちろんだよぉ!」
「私が安全術式を展開します。万が一暴走した場合は即座に停止させますので」
「"万が一暴走"前提なんだ……」
「姉様ですから」
納得してしまった。
◇
アリアがぱん、と手を叩く。
「よぉーし!"世界初の循環型魔導炉改良実験"、始めるよぉ!」
「名前長いな」
「でも本当のことだもん!」
ゴォン───
低い振動音。
中央の黒い魔鉱石が回転を始める。
同時に、周囲の金属環がゆっくり展開した。
青白い魔力が渦を巻く。
「出力安定。炉心温度正常です」
次の瞬間、炉から魔力が噴き出した。
ぶわっ、と研究室を荒らす暴風みたいな余剰魔力。
だが今回は、外周に刻まれた新術式がそれを捕まえた。
青い光がリング状に循環し始める。
「……おぉ」
流れている。
さっきまで暴れていた魔力が、川みたいに外周を巡っていた。
……なんか、気持ちいいな。
魔力の流れが整列していく感覚。
乱れていたものが、綺麗に収まっていく。
15年ひとりで魔法を使い続けてきたけど、こういう感覚は初めてだった。
自分じゃなくて、外のものが整っていく感じ。
「安定してる……!」
サクレアが目を見開く。
アリアは食い入るように炉を見ていた。
「位相干渉率……減少……炉心負荷正常……」
声が震えている。
だが次の瞬間、嫌な音がした。
───ビキッ。
外周術式の一部が赤く染まる。
魔力流量が急激に増加していた。
「っ!?」
「わ、分かってるぅ!」
アリアが術式を書き換えようとするが。
「流量制御が追いついてない……!」
青白い魔力が暴れ始める。
壁に亀裂が走った。
「また爆発か!?」
「違うぅ!今回は"溢れてる"の!」
「何が違うんだよ!!」
「爆発よりマシぃ!!」
マシなのか。
俺は流れを見た。
「なんかズレてる。三番と六番」
空気が止まった。
「……見えてるの?」
「だから、なんとなく」
俺は炉へ手を伸ばした。
暴れる流れを直接掴む。
……なんで俺にこれが分かるんだ....あれか。
ぐにゃっとしてる感じ。
ズレてる感じ。
どこが詰まってるか、見なくても伝わってくる感じ。
「そこ、逆回転だ」
魔力をねじ込む。
瞬間、暴走していた流れが噛み合った。
静寂。
中央炉心が、淡く青に輝き、部屋全体が紺青に染まった。
「…………成功……です」
アリアが呆然と呟く。
しばらく、誰も喋らなかった。
炉はただ静かに、規則正しく回り続けていた。
「……ほんとに、成功してる」
サクレアの声が、かすかに震えていた。
それからしばらくして。
アリアが、ゆっくり振り返る。
泣いてはいない。
でも目が赤い。
「……やったぁ」
小さかった。
さっきまでのテンションとは全然違う声だった。
「やったよぉ……」
「おう」
「ありがとぉ……」
「俺は流れ直しただけだろ」
「そういうとこだよぉ……!」
そういうとこって何だよ。
◇
それからしばらく、三人で研究室に残った。
アリアは炉のデータを見ながら、ひたすら紙に数字を書き続けている。
「循環効率……想定の1.4倍……炉心負荷は逆に下がってる……なんで……」
「外周で流れを押してるから、炉本体が楽になってるんだろ」
「あ……そっかぁ……!」
アリアがぱっと顔を上げる。
「つまりこの方式なら、炉の寿命も伸びる……?」
「たぶんな」
「やばぁ……」
アリアはまた紙に向かった。
サクレアが炉の周囲を静かに確認している。
補助術式を一枚ずつ見て、異常がないか調べているらしい。
「……安定していますね」
「そうみたいだな」
「姉様の研究がここまで形になったのは、初めてです」
「そうなのか」
「毎回、あと一歩のところで詰まっていたので……」
サクレアはそう言って、少しだけ炉を見上げた。
「……よかったです」
それだけだったけど、なんか重みがあった。
アリアがまた声を上げる。
「ねぇねぇ、この外周循環って、規模を大きくしても成立すると思う?」
「理論上は成立するだろうけど、規模が上がると流量の偏りが出やすくなる。制御が難しくなるな」
「じゃあ制御用の補助術式を外周に沿って均等に配置したら……」
「偏りは減るけど、今度は術式同士の干渉が出る可能性がある」
「あ、確かにぃ……じゃあ干渉を抑えるために位相をずらして……」
「それだと循環のタイミングがズレる」
「うぅ……」
アリアが頭を抱える。
「……難しいねぇ」
「まぁ、一個解決したら次の問題が出るのが普通だろ」
「プラネくんって、こういうの慣れてる?」
「慣れてるっていうか……まぁ、一人でやってると大体そうなる」
「一人で?」
アリアが少し首を傾けた。
「うん。ずっと一人で特訓みたいなのしてたから」
「ひとりで……なんで?」
「なんでって……まぁ、そういう状況だったから」
アリアはしばらく俺を見ていたが、それ以上は聞かなかった。
「……そっかぁ」
それだけだった。
変に掘り下げないのは、案外助かる。
「でもさぁ」
アリアがぽつりと言う。
「一人でずっとやってたのに、今日みたいにちゃんと気づいてくれるの、なんかすごいなって」
「別に大したことしてないだろ」
「大したことだよぉ」
アリアは炉を見ながら続ける。
「ひとりで考えてると、ずっと同じとこぐるぐるしちゃうんだよねぇ。誰かが違う角度で見てくれると、急に動き出すから」
「……そういうもんか」
「そういうもんだよぉ」
サクレアが静かにため息を吐いた。
「……姉様、それは素直に"ありがとう"と言えばよいのでは」
「言ったじゃんさっき!」
「もう一度言えばよいのでは」
「え〜……」
アリアはもじもじしてから、こちらを向いた。
「……ありがとぉ、プラネくん」
「おう」
「返事が雑ぅ」
「お前が言わせたんだろ」
「むぅ」
サクレアがまた小さくため息を吐いた。
でも口元は緩んでいた。
◇
一通り後片付けをして、研究棟の外に出た頃には、空が夕方の色になっていた。
「今日は大収穫だったなぁ〜」
「さっき泣いてたよな」
「泣いてないよぉ!」
「目赤かった」
「……うるさいなぁ」
アリアはそっぽを向いた。
サクレアが俺の横に並ぶ。
「……姉様があそこまで感情を出すのは、珍しいです」
「そうなのか」
「一人でやってることが多いので……見てくれる人がいると、少し違うみたいです」
「……そうか」
特に気の利いた返しもできないまま、三人で並んで廊下を歩いた。
夕日が窓から差し込んでいる。
炉は今頃、まだ静かに回っているんだろう。
「ねぇプラネくん」
「ん?」
「またいつかさぁ、見てくれる?」
「……まぁ、しばらくはこの辺にいるつもりだし」
「ほんとに!?どこ泊まるの?」
「それがまだ決めてなくて」
アリアがきょとんとして、サクレアを見る。
「……もしよろしければ、城の客室をお使いください」
「いいのか?」
「命の恩人ですので」
「それ、いつまで使う気?」
「必要な限りは」
サクレアはあっさり言った。
アリアが勢いよく手を挙げる。
「じゃあ滞在中は研究見てくれる!?」
「……まぁ、暇な時なら」
「やったぁ!!」
「姉様、声」
「えへぇ、ごめんなさい……!でも嬉しくて……!」
うるさいな、と思いながら、俺は少しだけ前を向いた。
……まぁ、悪くはなかった。
あの炉が動き出した瞬間。
あれは、ちょっと嬉しかった。
「……また詰まったら言えよ」
「言う言う!絶対言う!」
サクレアが小さくため息を吐いた。
でも、口元は少しだけ緩んでいた。
◇
客室に案内されたのは、それからすぐだった。
広い。
無駄に広い。
天井も高いし、窓も大きいし、ベッドも俺の身長の倍くらいある。
「……俺一人で使うには広すぎないか?」
「客室ですので」
「そういうもんか」
サクレアが部屋の説明をしてくれる。
水回りの場所、食事の時間、困ったときの呼び出し方。
淡々としてるけど、抜けがない。
「なんでも遠慮なく申し付けてください」
「……慣れてるな」
「城の管理をしていますので」
「親がいない間も?」
「はい」
「大変じゃないか?」
サクレアは少し間を置いた。
「……慣れています」
さっきと同じ言葉だった。
でも、さっきとは少し違う重さがあった気がした。
「そうか」
「他に何かありますか?」
「いや、十分です。ありがとう」
「いえ」
サクレアが扉の方へ向かう。
「……あの」
「ん?」
振り返ったサクレアの顔は、いつも通り涼しげだった。
「今日は、本当にありがとうございました」
「礼はいらないって言っただろ」
「それとこれは別です」
そう言って、サクレアは静かに頭を下げた。
「姉様が……久しぶりに、ああいう顔をしていたので」
「ああいう顔って?」
「満足した顔です」
それだけ言って、サクレアは部屋を出た。
扉が静かに閉まる。
俺はしばらくその場に立っていた。
満足した顔、か。
……俺は、今日どんな顔をしてたんだろう。
まぁ、別にいいか。
窓の外には夕焼けが広がっていた。
空が赤い。
ひとりの夜は慣れてるはずなのに、なんか今日はちょっと違う感じがした。
悪くない一日だった。
---
翌朝。
「おはようございますぅ〜!!」
「うるさい」
扉を開けたら第一声がそれだった。
アリアが満面の笑みで立っている。白衣はもう着ている。手には紙束。目が爛々としている。
「もう研究したくてうずうずしてぇ〜!!」
「何時だと思ってる」
「えーっと……5時?」
「早すぎる」
「だってぇ〜昨日の続き考えてたら眠れなくてぇ〜!」
「お姉様」
アリアの後ろにサクレアがいた。
いつも通り涼しげな顔だが、少し疲れた目をしている。
「朝から押しかけるのはやめてくださいと言いましたよね」
「でもぉ〜!」
「プラネさん、申し訳ありません。追い払いますので」
「いや……まぁ、起きてたし」
「ほんとに!?」
アリアの目が輝く。
「じゃあ少しだけ話聞いてくれる?ほんと少しだけ!」
「少しだけな」
「やったぁ!!」
「お姉様、声」
「あ、ごめんなさい……!」
結局そのまま、廊下に三人で立ちながらアリアの話を聞くことになった。
昨日の実験データをもとに、次の改良案を考えてきたらしい。
紙には昨夜書いたであろう計算式がびっしり並んでいた。
「外周循環の流量制御なんだけどぉ、均等配置だと干渉が出るって言ってたじゃん?」
「言った」
「だからさぁ、配置を均等にするんじゃなくて、流れの強さに合わせて密度を変えたらどうかなって」
「……流れが速いとこは術式を密に、遅いとこは粗くするってことか」
「そうそうそう!!」
アリアが紙を広げる。
「ここが昨夜の計算でぇ、この分布で配置すれば干渉を抑えながら制御できると思うんだけど……」
「……ここ、密度の変化が急すぎる気がする。境界で逆に乱流が起きる」
「あっ……!」
アリアが紙を見つめる。
「……ほんとだぁ。なんで気づかなかったんだろ」
「昨夜ずっと考えてたんだろ。疲れてたんじゃないか」
「そっかぁ……」
「境界を緩やかに変化させれば解決する。段階的に密度を落としていけばいい」
「あ、それだったら……」
アリアはもう紙に書き始めていた。
廊下の壁に紙を当てて、立ったまま計算している。
「……研究室でやれよ」
「だってここに来ちゃったんだもん」
「お姉様」
「ごめんなさい……!でも手が止まらなくてぇ……!」
サクレアが静かにため息を吐く。
「……プラネさん、朝食はいかがですか。姉様を引き剥がすついでに」
「助かります」
「ひどぉい!引き剥がすって!」
「実際そうでしょう」
「むぅ……」
アリアは紙を抱えながらもしぶしぶ歩き始めた。
三人で食堂へ向かう。
廊下を歩きながら、アリアはまだぶつぶつ計算を続けている。
サクレアが俺の隣に並ぶ。
「……昨夜はよく眠れましたか?」
「まぁ、そこそこ」
「客室が合わなければ他の部屋に変えますが」
「いや、十分です」
「そうですか」
少し間があった。
「……お姉様が昨夜、ずっと嬉しそうにしていました」
「そうか」
「夕食の時も、ずっと計算していて……珍しいことではないのですが、今日は違う顔をしていました」
「違う顔?」
「満足しながら、まだ続けたそうにしている顔です」
サクレアは前を歩くアリアを見ながら言う。
「いつもは詰まって終わるので……続きがある顔は、久しぶりでした」
「……そうか」
「はい」
それ以上は何も言わなかった。
食堂に着くと、アリアはようやく紙を脇に置いて席についた。
「あ、ご飯だぁ」
「今気づいたのかよ」
「だってぇ〜考えてたら……」
「食べながらは禁止ですよ、姉様」
「はぁい……」
しぶしぶ紙を完全に伏せる。
朝食は質素だったが、悪くなかった。
パンと野菜のスープと、焼いた何か。
「……美味いな」
「城の料理人が作ったものですので」
「俺、ずっと自分で作ってたから、こういうの久しぶりだ」
「ずっとって、どれくらいですか?」
「……まぁ、長い間」
「そうですか」
サクレアはそれ以上聞かなかった。
アリアが顔を上げる。
「プラネくんってさぁ、ずっとひとりだったの?」
「まぁ、そうだな」
「寂しくなかった?」
「……慣れてたから」
「慣れてたら寂しくないの?」
「……」
俺は少し考えた。
「そもそも寂しいかどうかとかは考えなかったと思う」
「そっかぁ……」
アリアはしばらく俺を見ていた。
なんか変なこと言ったか、と思ったが。
「じゃあ、しばらくここにいてよ」
「……は?」
「ひとりじゃないのも、慣れたらいいじゃん」
「姉様」
サクレアが静かに割って入る。
「プラネさんにも都合がありますので」
「わかってるよぉ。でも、いられる間はいてほしいなって」
アリアは特に深刻な顔でもなく、ふわっと言った。
「研究も見てほしいし、ご飯も一緒に食べたいし」
「……おい。一個目がメインだろ」
「ギク」
「……別に、いられる間はいる」
「やったぁ!」
「声が大きいですよ」
「あ、ごめんなさい……!」
サクレアがため息を吐く。
でも、またその口元が少しだけ緩んでいた。
朝の光が窓から差し込んでいた。
昨日と同じ城で、昨日と同じ二人で、でも昨日とは少し違う空気だった。
悪くない朝だと思った。




