故郷の異変と本当の任務
つい最近まで自分が住んでいた国は、驚くほど静かで、閑散としていた。
普段だったら調子のよい売店のおやじなんかが口八丁手八丁で客寄せをしたり、子供たちが大人数で鬼ごっこをして遊んでいたり、道端で音楽家が演奏をしたり、少なくとも人通りが多く、活気にあふれていた。
瘴気災害調査が始まったからだろうな、とハヅキは思った。
どうやら探索隊のほぼ全員が死亡したことは緘口令が敷かれ、僕の暴走によって部隊が全滅したということになっているらしいとボスから聞いたが、そうだとしても瘴気災害の最前線として戦っているとされている探索隊について、何も情報が出ないことは住民からしても不気味なのだろう。
街ゆく人々からは、次は自分かもしれないという恐怖と、警戒心を感じ取ることができる。そうやって物思いにふけってると、サムさんが話しかけてきた。
「やはり、自分がもともと住んでいた土地に、思うところはあるか?」
質問の形式だが、どことなく相手の心を気遣うような感じを含んでいた。
僕が大丈夫だという旨を伝えると、サムさんは少し納得のいかないような表情をしながら、そうか、と頷いてくれた。
サムさんは実は、とても心優しい人物なのではと、最近になって思い始めた。
というのも僕らが馬でセルバンへと向かっている最中、何かと僕に話しかけてくれたのだ。
最初は口調がきついことも多かったが、最近はそんなこともなく、ちゃんと部下とコミュニケーションをとるいい先輩という感じだ。
初対面の時のあれは照れ隠しだったのだろう、と僕は思っている。
「おーい、二人ともー行くよー」
向こうではジャネットさんがこっちにこいと手招きしている。
ジャネットさんは根がとても真面目な人だ。
普段はおちゃらけてふざけたことを言ったり、サムさんのことをからかったりしていることも多いが、任務をこなす時はサムさんよりも真剣に、全力で取り組む。
そして僕と年も近いので、とても話しやすいお兄さんって感じだ。
ふとした時に険しい顔で外を見つめていることが多くて、何か昔に嫌なことでもあったのかと聞くと、少し昔に家族を、と教えてくれた。
そのことを話すジャネットさんは苦笑していたが、どことなく寂しそうな眼をしていた。知ってはいたが、この組織は政府に裏切られた者たちが集まっているんだと、再認識させられた。
ジャネットさんの呼びかけに答えて、僕とサムさんは馬に乗り、今夜の宿屋までの道を一気に駆け抜けた。
ーーー宿屋ーーー
夕方から夜へと時間が移り変わるころ、僕らは宿屋についた。
荷物や衣服などを整理して、レジスタンスの備蓄食料を夕食としながら、僕らは作戦会議を始めた。
まずサムさんが口を開く。
「無事にセルバンまで侵入し、郊外のサンペルリアまで侵入することができた。何か異変になどはないか?」
その問いかけに対し、ジャネットさんがおもむろに口を開く。
「えーまず尾行についてですが、僕が確認した限り、怪しいものはいませんでした。僕らがレジスタンスの者だと見破られている気配もなく、食料の消費も予定通り、特に問題はないと思います。」
「なるほど了解した。」
真剣な顔を崩さぬまま頷き、次に僕の方を向いた。
「ハヅキは。何か気づいたことなどはあるか?」
初めてのスパイ活動で慣れないことばかりだが、この国を通っている間に気になっていたことがあった。
「そんなたいしたことではないんですけど、、」
「なんだ?いってみな」
「今回瘴気災害がセルバンが想定したよりも強く、探索隊が全滅してしまったというのは納得がいきます。実際にセルバンは今まで瘴気災害にほとんど領地を侵食されておらず、甘く見積もっていたんじゃないかなと思っていました。でも、それだけじゃ不自然な点が何個かあります。」
続けて僕は言う。
「一つ目は、僕を指名手配していること、本来だったら僕は、異常なまでに強かった瘴気災害を生き延びた、貴重な証人なはずなのに、指名手配をするのは不可解だ。」
「2つ目は、僕が生き残ったという事実が、国に迅速に伝わったことです。
僕が眠っていた時間なんてたかが数日のはずだし、ボスが僕を見つけてからは半日ほどで目を覚ましました。この組織の中にスパイがいると考えるのは時間的に難しい。となると残る可能性は、、、」
「政府の差し金で別に、安全なところから極秘で僕らを監視していた輩がいると思います。」
一息に行ったため少し息が荒くなる。
顔が少し赤くなっているなと自覚したとき、二人は驚いた表情でこちらを見た。
「お前鋭いな、、本当に10代か?」
何でそんなことわかるんだ、とでも言いたげな表情である。
「二人とも、このことは知っていたんですか?」
「まあ俺らは仮にも組織の幹部だからな、重要な情報は漏れなく共有されるようになっている。」
確かにそうか、と今更この二人が偉い役職であったことを思い出す。
改めて、自分みたいなやつが一緒に行動してるのか、と怖くなってしまう。
「まあ、ベルクの読みは当たってたってことだね。」
「だから言ったろ、こいつは何か持ってやがるって。」
「さっき一番驚いてたのは君じゃなかったっけ?」
「うるうせえよ。後輩が期待に応えてくれて感動しただけだ。これなら安心して任せられそうだ」
そうやって二人がまたもめそうになった時、サムさんが改めてこちらに向き直って、こういった。
「ハヅキ、お前は今回の偵察についていつもと同じと聞かされていただろうが、どうにもそうはいかないらしい。セルバンに向かっている間に、伝達係を通じてボス手紙を送ってきたんだ。」
サムさんはガサゴソとカバンを漁って、その現物らしきものを机の上に広げた。
「内容は要約すると、サルバンの情勢が探索隊の件があってからあまり良くはなく、国境が閉鎖される可能性が高いとのことだ。つまりこのままアジトにのこのこ帰ってしまうと、当分の間セルバンへと行くことができず、これが最後のチャンスの可能性が高い。そこでだ。」
サムさんはそこで一泊置くと、深呼吸をして続けた。
「政府の役員に変装して、情報を探ってきてほしいとのことだ。」
「ええ!」
そんなの無茶だ。と僕は思った。
経験がちゃんとある二人はまだしも、自分なんて入って数か月のひよっ子だ。
武器は持ち前の運動神経ぐらい。
そんな奴が政府のど真ん中に潜り込めるだなんて、過信もいいところだと思う。
それでも、ジャネットさんの反応はそこまで大したものではなかった。
「いやー、いつかとは思ったけど、まさか今とは」
悔しがっているような、けども覚悟は決めていますといった感じだった。
「ジャネットさんはこのことを知っていたんですか?」
「いや別に?ただ、ハヅキ、これは覚えてほしい」
走前置きして。ジャネットさんは言葉を続ける。
「国に対抗しようとしている組織だから、いつかは国の深部まで侵入しなければいけないし、時には戦闘も避けられないかもしれない。だけど、それはここに偵察に来ることになってから、覚悟を決めとかなければいけないんだ。」
ごくりと唾をのむ。冗談を許さないようなジャネットさんの気迫に、思わずたじろいでしまう。
「君は自分を新米とか言っていたが、君にはたぐいまれなる運動能力と、さっき披露して見せた強力な推理能力がある。それを使えば、国にだって立ち向かうことができるんだ。
君には国に本当の意味で歯向かう覚悟があるのか。」
この組織に入って、国に盾突く身分になってから、常に覚悟をしてはいるつもりだった。
けれども、気づかされたんだ。自分は自分が納得できるように覚悟をしているんだと思い込んでいだけで、本当は何もできていなかったことを。
脚が小刻みに震えて、体から、冷や汗が出ているのがわかる。
怖い、逃げだしてしまいたい。そう自分の弱いところがささやいてくる。
でも、駄目だ。
ここで一歩先に進めなくちゃ、今までのことが無駄になる。
体の表面を覆う汗をぬぐって、ジャネットさんの顔を見つめ返す。
「僕にも、やらせてください。」
そういうと二人は静かに頷き、もう言葉はいらないとばかりに電気を消して、皆眠りに落ちた。
翌朝早朝に目覚めた三人は、準備を整えると、皆ベリオールへと向かっていった。
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