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ノーメイク聖女はイケメン王子に溺愛される ~私以外の女が劣化した事件~  作者: ネペタ


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2/8

王子とパーティーへ

 夕刻……。


 神殿での勤めを終えて外に出ると、街の空気はさらに淀んでいた。


 今夜のパーティーに向けて、貴族たちが最後の仕上げとばかりに『ネマの香水』を浴び直したのか、夕焼けの空まで心なしかピンク色に霞んで見える。


(うう、鼻が曲がりそう……)


 私がハンカチで鼻を押さえながら門の前に立っていると、石畳の向こうから豪奢な馬車がやってきた。


 王家の紋章が刻まれた、白亜の馬車だ。  

 その馬車が止まると、御者が扉を開けた。


 そこから颯爽と降り立ったのは、この国の第二王子、シルアレク殿下だった。


 夕日を浴びて輝く金髪に、海のように深い青い瞳。  

 彼はまさに絵本から飛び出してきたような『理想の王子様』そのものだった。


「キャーッ! シルアレク殿下よ!」

「なんて素敵なの……!」


 通りかかった厚化粧の女性たちが色めき立つが……シルアレク殿下は、彼女たちを無視して一直線に私の方へと歩いてくると、満面の笑みを浮かべた。


「ラフィナ! 待たせてすまなかったね!」


 その笑顔は、背後に花が咲き乱れる幻覚が見えるほどに眩しい。


 その様子を見た周囲の男性たちは、信じられないものを見るような目で、私を見ている。

 

「おいおい、殿下は正気か? あんな地味な女のどこがいいんだ?」


 そんな陰口が聞こえてくるが、殿下はお構いなしに、私の手を取ってうっとりした表情で呟いた。


「ああ……君は、今日も最高に美しいね。雪のように白い肌、余計な色が乗っていない清らかな唇。世界中の絵画を集めても、君のその素顔(マスターピース)には敵わないよ」


「……恐れ入ります。ですが、殿下……あまり大きな声でおっしゃらない方がよろしいかと」


 私は真顔で淡々と返した。

 褒められているのは理解しているが、世間では『手抜き』『貧相』と言われるこの顔を絶賛されると、反応に困るうえに、逆に嘘っぽく聞こえていたたまれなくなる。


 なので、話題を変えることにした。


「それより殿下、お鼻は大丈夫ですか?」


「ん?  何か付いているかい?」

「そうではなくて。この辺り、ものすごく臭うのですが……」


 私がハンカチ越しにくぐもった声で言うと、殿下はきょとんとして、スンスンと鼻を鳴らした。


「僕には皆が言うように、甘い花の香りに感じるが……」

「うわぁ……やっぱり殿下のお鼻も、大衆と同じなのですね」

「ハハハ、手厳しいな」


 殿下は愉快そうに笑った後、真剣な表情になり私を見つめた。


「だが……君がそう言うなら、本当に臭いんだろう」


「え……?」


「僕を含めた世界中が、『良い香り』だと言っても、君が『臭い』と言うなら、真実は君の方にある。僕は自分の鼻よりも、君の感覚を信じるよ」


 彼は、迷いのない瞳でそう言った。

 冗談でも、お世辞でもない響きだった。

 この世界でたった一人、私を――私という人間を、この奇特な王子様は信じてくれている……。


 こんなお方だからこそ、私も無下に出来ずに、何だかんだと王子の行動を受け入れてしまうのだった。


「さあ、行こうか。君という真実を連れて、偽りの園へ……」



 シルアレク殿下のエスコートで馬車に乗り込む。  


 扉が閉まり、二人きりの空間になると、殿下は少し声を潜めた。


「それで……頼まれてた調査の件だが」

「はい。ネマの正体は、はっきりしましたか?」


 私は以前から、この異常な臭いの元凶である『美魔女ネマ』について、殿下に調査をお願いしていた。


 しかし、殿下は難しそうに首を振った。


「いや、やはり詳しくは分からなかった。確かに実在する女性らしいのだが……それまで全く無名の魔法使いで、実績が無いんだ」


「無名……ですか」


「ああ。突然現れて、とんでもない高品質な化粧品を作り始めた。経歴も出身も不明だ」


 私は腕組みをして、思考を巡らせる。

 いくら何でも不自然だ……これだけ大規模なブームを起こしておきながら、足跡がなさすぎる。


「ネマというブランドや、商品はやたら売りたがるのに、本人は正体不明でガードが固く、表舞台に出てこない……企業秘密を守りたいって理由もあるんでしょうけど、怪しいですね」


「今日の発表会にも、ネマ本人は来ないようだ」

「やはり、そうですか……」

「それどころか、最近はその姿を誰も見ていないらしい……。ネマの行方が知れないそうだ」


 殿下は深刻な顔をして、私に視線を向ける。


「今夜、何かが起きる気がする……ラフィナ、僕の側から離れないでくれよ」


「承知いたしました……」



読んでいただき、ありがとうございました!


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