蘇生少女は、両親から名前をもらう。
泣き止んだわたしは冷静にイザとナギムの様子を見ることにした。
二人とも、雑に扱ってこないし、丁寧だ。
わたしの眠る前の世界は、とっても子供に優しくなかった。
呪いによる人口減少に抗うため、たくさん造られてたくさん死んでいった。
わたしは運良く生き残れてもう少しで大人というところで眠ってしまった。
「赤ちゃんこれ、飲んで」
そう言って、白い液体が入った小さな器をわたしの口に近づけた。
わたしは警戒して口を開けない。
「なんかミルク変な匂いや味がするのかな?」
イザが白い液体を口に含む。
「どうした、赤ちゃんミルク飲まないのか。新鮮なのを温めたのに」
ナギムもその白い液体、ミルクを舐めた。
普通に食べていいものか。
なら食べたい。
そう言いたくても言葉にならない。
「あー、あー」
「俺たちが美味しそうに食べているから食べたくなったか」
それに気づいたナギムがわたしに器を傾けてミルクを飲ませてくれた。
何これ、美味しい。
二人が何食わぬ様子で飲んでいたから、水のように無味無臭のようなものかと思ったら、ほんのり甘くて美味しい。
こんなの初めてだ。
夢中になって飲んだら、あっという間に器は空になった。
もっと食べたかったが、お腹がいっぱいと言ってくる。
こんな経験誕生月でもしたことがなかった。
そうして、お腹いっぱいになったあと、眠気が襲いナギムの腕の中で眠ろうとした。
気持ち悪さがきて眠れない。
どうしようさっき飲んだミルク吐きそう。
「赤ちゃんはゲップしないと」
ナギムはわたしの背中を優しく下から上へと撫でたり、叩き出した。
「けふ」
ゲップが出ると気持ち悪さが消えた。
眠たげなわたしをナギムはイザに引き渡した。
「赤ちゃん、今からうるさいところに行くけど我慢してね。」
そう言って、イザはわたしを抱っこすると、慣れた動作でナギムの背中に紐を使って、さっきのおくるみごと、結びつける。
ナギムに背負われる形になる。
「赤ちゃん、むすんだよ」
「よし、じゃあ行くか、ビョウイン」
ビョウインとはなんぞや。
「ここに、ご両親の名前と赤ちゃんの名前を書いてください」
そう言われて白い服と帽子を被った人がナギムとイザに書類を渡した。
「赤ちゃんの名前で考えるの忘れてた」
二人は自分の名前を書いたあと紙の前で固まっていた。
そんな二人を他所にわたしはこの場所を観察していた。
たくさんの椅子が並んだ大きな部屋にいろんな人がいっぱいいる。
ビョウインとやらはどうやら赤ん坊や小さな子供は泣くことが多い場所のようだ。
そして大人もどこかうかない顔をしている。
名前を呼ばれて、部屋に入っていったものは大体が安心した顔をしている。
そして彼らは全員呪いの症状が出ていた。
コウモリのような羽を生やしたものや鳥のような足を持ったもの、ナギムのように獣の耳を持ったものやイザのような鱗を持った人もたくさんいた。
彼らの様子を観察してはや1時間。
わたしの名前は一向に決まらない。
「どうしよう、ねえ赤ちゃん、教えてくれない」
悩みすぎて明後日の方向に思考が向いたのか、イザは少しやつれた顔でわたしに聞いてきた。
赤子の口で名前なんていえない。
だから、自分の名前の由来に手を伸ばす。
時計だ。
わたしの眠る前の世界ではみんな生まれた時間で名前がつく、何年何月何時何分何秒コンマで名前は作られている。
そうして名前は体に魔力で刻まれる。
これが、研究所の魔道具やら、街のサービスの利用には欠かせなかったものだが、もう滅んだ世界では役にたたないから言う必要もない。
時計がちょうど一時を指して、音を鳴らし時を告げていた。
楽器のすずのような音を鳴らしてる。
「まあ、キレイな音がなる時計。もうこんなに時間が過ぎたのね」
イザは時計を見てつぶやく。
「そうだ!レイにしよう」
紙と睨めっこを続けていたナギムが笑顔になった。
「そうね。かわいいし、言いやすい、レイにしましょう。
よろしくね。レイ」
イザも笑顔になり、ナギムは自信満々に紙に書き込んだ。
こうしてわたしは名前がレイになった。