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【完結】最強聖女はとにかく魔女と間違われます  作者: 柊らみ子
終章

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エピローグ

 どんどんと、朝からけたたましい音が響く。


「カーネリアさん! 朝ですよ! 起きてください!」


 隕石が落ちてから、もう半月が過ぎた。

 変わったことといえば。


「エルドレッドさま! カーネリアを起こしたらお仕事終わりですわよね! お疲れさまでした!」


 朝早くから、エルを引きずって連れて行こうとするシオンが訪れたり。


「聖女さん! おれは諦めませんよ! キノコ採ってきました、キノコ!」


 昼過ぎに、みょんみょんキノコを花束みたいにまとめて持ってくるクロウが飛び込んできたり。

 ジークと遊ぶ子供たちが増えたことだったり。

 無駄に平和で、無駄にうるさくなったぐらいである。


「うるッさい! 皆出て行け!!」


 夕方に響く、カーネリアの怒号ももう聞き慣れたものだ。


「まったく……。これじゃあ研究も進まないじゃあないか」


 全員追い出して、ため息をつく。これも、日課となった。

 さらに、一番変わったことといえば。


(あるじ)さま、コーヒーを淹れました。一息つきましょう」


 普段、カーネリアが立っているキッチンから、クラシックタイプのメイド服を身につけた少女が、プラチナブロンドを揺らしてコーヒーと茶菓子を持って出てくるようになった、ということだ。身体は人形だが心を持つ少女は何事も吸収が早く、カーネリアは気に入っている。ついでに、研究対象としてももちろん、気に入っている。


「……それで? なぜお前はまだいるんだ」


 コーヒーを一口含み、じゅうぶんに味と香りを味わって、カーネリアはじとりと茶菓子に手を伸ばすエルを見る。

 エルは茶菓子とともにコーヒーも味わって、たっぷり時間を置いてから、答えた。


「だって俺は、カーネリアさん付き騎士ですよ。最後まで、付き合います」


 情けなさもスパイスにした、極上の笑顔を浮かべられては。

 魔女に間違われやすい聖女も、憮然とコーヒーを飲むしかないのであった。








 エルも帰り、すっかり夜も更けた時刻。

 控えめなノックの音が、カーネリアの耳に届いた。専用ベッドに乗り、寝ぼけまなこで顔を上げたジークの頭にぽんと手を置いて、「寝ていろ」と簡潔に告げるとカーネリアは扉を開ける。


「夜分にごめんね。いま時間ある?」

「ない。……と言いたいところだが、国王がわざわざこんなところまでなんの用だ」


 外に立っていたのは、国王だった。クリストフの姿も見える。

 仕方なく、扉を大きく開けて二人を招き入れた。クリストフは、入り口から中へははいらず、しっかりと警備体制にはいる。あんなの連れてくるぐらいなら城に呼べ、と心中で独り言ち、カーネリアは王を客間へと案内した。質素な丸テーブルの椅子を一つ引き、自分はその前に座って足を組む。


「まったく。こんな時間にこんなところへくる国王がいるか」


 腕を組んでまずぼやく。王は、捉えどころのない緩い空気をまとわせて微笑んだ。


「だって、他に時間が取れないからね」


 にこやかに言うと、コーヒーを運んできた少女を見やる。彼女の容貌に、一瞬驚いたように目を見開いた。が、それは本当に一瞬で、まばたきをしただけで緩い空気を纏って珍しそうに少女を眺めているだけの、初老の男に戻っている。


「これが、遺跡で見つけた彼女? 名前はあるのかい?」


 王の問いに対し、カーネリアは仏頂面で「メアリ」と簡潔に返した。この男のことだ、その名前が一体どんな意味を持つかなど、当然知っているに違いない。だが、予想に反して王は「なるほど」と少女を眺めて頷いただけだった。

 だから、カーネリアもなにも言わず、いつも通りに妖艶に口の()を持ち上げる。


「ああ。素晴らしいだろう。人形としての完成度も高いが、なにより魂を持っている。命――魂の生成は禁忌だが、この場合は偶然できてしまったものだからな。あの遺跡に放置して帰ってくるわけにも行くまい」

「それはいい口実だねえ。君のちょうどいい研究材料といったところかな」

「まあ、興味深いな」

「ふーん。カーネリアは、優しいからね」

「ぶッ! 気持ち悪いことを言うな!」


 ゆるゆるな空気を纏い、唐突に思ってもみなかったことを言われ、カーネリアは思わず怒鳴ってしまう。一瞬、鳥肌が立ったぐらいだ。

 ぞわぞわする腕をさすりながら、カーネリアはさっさと話題を切り替える。


「ところで国王。聖痕の話は、どこで知った?」

「……ん? ああ、そういえばそんな話を聞いたことがあるなあって。どこで聞いたんだったかなあ」

「他の国の聖女にも、聖痕は存在するんだろうな?」

「さあ、どうだろう。わし、あんまり国交ないし」


 それで大丈夫なのかと思わず突っ込みたくなったが、大丈夫だったからなんとかなっているんだろうと思い直し、質問を変えた。この王がのらりくらりとしているときは大体、答えを持っているときだが、本人が言い出さない限り聞くだけ無駄だということを知っているからである。


「他の国といえば、聖女についてはどうなっている?」

「ああー、それね。遺跡への魔力供給は、やめるところもあれば続けるところもあるみたい。まあ、うちなんかは結界に結構助けられてるほうだから、いままでどおりが、ありがたいんだけど」

「この辺りは、魔物が多いからな。だがもう毎日はいらんだろ」

「うん。だから、三日に一回にした」

「いや……多い、な。五日に一回でいい」

「え、そうかな。三日に一回がちょうどいいんじゃない? そろそろ、聖女さま付き騎士なんて、いらないんじゃないかって言われてるし」


 五日にしたら彼、これなくなっちゃうよ? と国王は思わせぶりに言う。


「それがどうした? ただでさえ周辺がうるさくなって困ってるんだ。一人減るぐらいがちょうどいい」

「えー、ほんとに?」

「くどい! 大体、なぜ私がエルにこだわらなきゃいけないんだ!」


 カーネリアがとうとう怒鳴ると、国王はふっと笑って答える。


「それだよ。君、彼が付くようになってから、少し変わったから。一緒にいたほうがいいのかなーって、ね?」

「――ッ!!」

「うるさいなー……。おれさま、眠れない……」


 とことことやってきたジークを見、国王は両手を広げて大げさに驚いた。


「ああ、君がジークだね! 話には聞いていたけど、本当に大きいねえ~」

「わッ、なんだこのじいさま! カーネリア、なんとかしろ!」


 いきなり抱き着かれ、ジークの眠気も飛んだらしい。ばたばたと暴れて国王の手から逃れると、カーネリアの後ろへ逃げ込んだ。だが、カーネリアは腕を組んで憮然としたまま、なにも話す様子はない。ただじっと、国王を見つめている。


「カーネリア?」


 おそるおそる、ジークが彼女を見上げた。そして、見てしまったことを心の底から後悔した。


「起こしてしまってすまなかったな、ジーク。このクソ国王はいま帰る。二度とこないから安心しろ」

「……ん? え? 国王さま?」

「忘れろ。そして寝ろ。お前たちは帰れ。二度と来るな」


 元々ハスキーな声が、氷点下のテンションで吐き出される。顔は笑顔を貼り付けているが、笑っていないのはあからさまで、ジークはベッドに飛んで帰った。


「お前は早く消えろ。土産が必要ならキノコでも食わせてやる」

「あ、それはおもしろい。もしかしたらわしもおっきく」

「これ以上居座るなら、聖女なんてやめてやる! クリストフ! このジジイを連れてとっとと消えろッ!!」


 椅子を蹴り飛ばす勢いで立ち上がり、カーネリアは憤怒の形相で国王を追い出す。ばたん、と扉が壊れそうな勢いで閉めると、さっさと鍵をかけベッドに転がり込んだ。


 ……確かに。

 エルがきてから、退屈だけはしなくなった。

 無駄に人は増えるし。無駄に事件は増えるし。無駄に――。

 それは確かに、嫌な気はしない。

 最初国王に言われたときは聖女など、死んでもお断りだと思っていたのだが。

 いまは。

 案外悪くない――と思っている自分もいるのだ。

 そう。

 案外、悪くない。

 知らず、微笑んで。

 魔女と間違われやすい気質をした聖女は、聖女付き騎士が叩き起こしにくるまでぐっすりと惰眠を貪ったのだった。

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