第77話 デモニッシュの影(6)
スパークル所属の駒崎綾乃が、デモニッシュの関係者である。
小畑さんからその話を聞いてから、すでに三日が経過していた。
僕たちは疑いが事実かどうかを確認するために、綾乃の痕跡を追っている。
綾乃はあの日以来、事務所に来ていない。メッセージや電話にも反応がない。違いなく、あの日に小畑さんとの通話を聞いていたのだろう。
とにかく、今は一刻も早く綾乃と話がしたかった。音信不通になっていたのは疑われて怖かっただけで、本当はデモニッシュでもなんでもないって、言ってほしかった。
焦燥感に駆られながら、綾乃を探す。しかし見つからない。
綾乃がスパークルに応募してきたときの履歴書の住所を訪ねても、誰もいない。住所自体がデタラメだった可能性がある。
綾乃が通っている筒瀬女子学院に問い合わせても、数日間休んでいるという答えしか返ってこない。
でも、綾乃が実際に筒瀬女子学院に通っているようで、安心した。もしそこまで偽りだった場合、綾乃がデモニッシュだと、疑わざるを得なくなる。
とはいえ僕たちにはもう、綾乃を追う手がかりは残っていない。自宅や学校に手がかりがないのなら、お手上げだった。
まだ『疑惑』の段階だし、現時点では事件性はないので、警察も動いてくれない。
だから結局、有城さんの協力のもと、AI顔認証システムで付近の防犯カメラの映像を解析して、綾乃の痕跡がないか探すことしかできなかった。
……有城さんは綾乃がデモニッシュの関係者の可能性があると聞いたとき、ひどく取り乱していた。あれだけ綾乃のことを慕っていたし、無理もない。
しかし今では「あやのんがデモニッシュのワケないから」と、積極的に捜査に協力してくれている。有城さんも僕や片瀬さんと同じで、一刻も早く綾乃の無実を証明したかったのだろう。
それにしても、地獄みたいな三日間だった。常にふわふわと地に足がついていないような感覚のまま、綾乃を探し回った。今でもこれが夢だと言われたら信じてしまいそうなほど、現実味がない。
僕にできることは、もうない。あとは有城さんのAI顔認証システムの解析待ちだ。だからこの三日間で精魂を使い果たした僕は、スパークルの事務所でぐったりとしている。
今はただ、ひたすら早く毎日が過ぎてほしいと思っていた。一日経つごとに、少しずつ焦燥感が落ち着いていくから。
「……月之下くん、今日も事務所にいるの?」
片瀬さんの声が聞こえる。ドアの方を見ると、片瀬さんが寒そうに両手を擦りながら立っていた。
「……えぇ、まぁ。することもないので……」
状況が状況だけに、いまスパークルは少し長めの休暇をもらっている。綾乃があんなことになっている以上、とてもじゃないが普通に仕事する気力も時間もなかったからだ。もともと入っていた仕事は小畑さん経由で、元ブレイズのメンバーに担当してもらっている。
そんなワケで僕はここ数日、綾乃の捜査をしてないときは、こうして事務所で時間を潰していることが多かった。学校もすでに定期試験が終わっているし、特にやることもない。
「身体によくないよ、ダラダラしてるのは」
そんな僕を見かねてか、片瀬さんがお母さんみたいなことを言ってくる。
もちろんこうして怠惰のように過ごすのが、よくないことは分かっているけど。でも何かしようとする度、綾乃のことがチラついて、何も手につかないのだ。
「……もしよかったらさ、ちょっとドライブでもしない?」
「――ドライブ、ですか?」
いつもなら嬉しい片瀬さんからの誘いも、どこか気乗りしない。
「うん。このまま部屋にこもりっぱなしだと、気が滅入っちゃうよ。わたしが運転するから、ちょっと遠くまで、ね」
そう言いながら、片瀬さんが笑顔を見せる。その笑顔が作り物だとしても、片瀬さんが笑っているところは随分久しぶりに見た気がした。
「まぁ……そういうことでしたら」
片瀬さんの言うように、このままずっと事務所にいても辛いだけだ。ドライブでもして気分転換をした方が良いかもしれない。
「じゃあ決まりね。車取ってくるから、ちょっと待っててね」
片瀬さんは笑顔でそう言うと、駆け足で事務所を出ていった。




