第71話 小畑徹の失脚(8)
「小畑さん、お休みのようですね。まだ締めの作業中なので、終わるまでは寝かせてあげてください」
店長はそう言うと、店内へと引き返していった。随分と物腰の柔らかい店長だな、と思う。
僕は小畑さんの向かい側のソファーに腰をかけると、スマホを取り出してその日の犯罪記録をまとめ始めた。今日は急遽の仕事だったので、ノートパソコンは持ってきていない。スマホからだとデータベースにはアクセスできないから、メモ書き程度にしておこう。
犯罪記録をつけつつ、今後について色々と考えてしまう。
小畑さんがこの調子だと、間違いなくガーディアンは取り消しだろう。それどころか、ブレイズの存続すら怪しい。もしブレイズが解散になったら、色々とS.G.Gの組織図が動きそうだった。……それに何より、小畑さんの『デモニッシュを捕まえる』という復讐も、果たせぬまま終わる。
デモニッシュ。詳細が不明の窃盗集団。オブシーンに似たなにかを感じるものの、小畑さんのような優秀な人が追っても尻尾すら掴めない、神出鬼没の組織。
ふつふつと、怒りが湧いてくる。小畑さんは、片瀬さんは、そんな悪質な組織のせいで人生を台無しにされたのだ。小畑さんはフィアンセを、片瀬さんは親友を、それぞれ奪われて。それからの人生も、デモニッシュを捕まえることだけが目的になって。
――できることなら、僕のこの手で、デモニッシュを捕まえてやりたい。今日の小畑さんを見て、強くそう思うようになった。
しかしデモニッシュを捕まえるのであれば、もっと情報が必要だ。詳細は不明だけど、きっと小畑さんはデモニッシュのことを何かしらは掴んでいるハズだ。小畑さんが元気になったら、デモニッシュについて聞かないと。
そう考えていると、突然小畑さんが呻く声が聞こえた。慌てて小畑さんに視線を向けると、苦しそうに顔を歪めている。どうしよう、うなされているみたいだ。うなされている人を途中で起こすのっていいんだっけ、悪いんだっけ。悪いのは寝言を言っているときだっけか?
無理やり起こそうか迷っていると、いきなり小畑さんが勢いよく上半身を起こした。目と口を大きく開けながら、激しく息をしている。
「……小畑さん……?」
心配になって小畑さんに声をかける。小畑さんは僕に対して手を軽く振ると、テーブルにあるペットボトルを手に取った。どうやら、今は目が見えているらしい。
「大丈夫だ。すまない」
弱り切った様子で、勢いよくペットボトルの水をあおる。少しこぼれてもお構いなしだった。
「――ときどき、夢に見るんだ」
ペットボトルの水を飲み干し、少し落ち着いた小畑さんが、うつむきながら口を開く。今にも泣きだしそうな、苦しそうな顔で。
「琴乃の本屋で、一緒に働いていたときのことを。――そして、あいつが本屋で自殺していたときのことを」
小畑さんのその苦悶に満ちた顔は、僕の『デモニッシュを捕まえてやりたい』という気持ちを『絶対にデモニッシュを捕まえてやる』と思わせるには、十分すぎるものだった。




