第33話 制服に着替えよう!
「月之下くん、状況はどんな感じ?」
事務室に入ってくるなり、片瀬さんが僕に聞いてくる。
「今は綾乃が現場に出ています。とりあえずまだ万引きはせず、マツダを監視する感じで動いてもらっています。万引きを匂わせるのは片瀬さんが来てから――」
モニターから視線を外して振り向くと、そこには制服に着替えた片瀬さんが立っていた。女子高校生に見えるよう、長い黒髪をツインテールにして。そしてセーラー服に身を包み、黒いストッキングを履いている。変装のために皮の学生カバンまで持って、どこからどう見ても女子高校生にしか見えなかった。
「……なによ。何か文句あるの?」
少し恥ずかしそうに、でもふくれっ面で片瀬さんが言う。
「い、いや……よく似合ってるなって思って……」
片瀬さんが制服を着ると、ここまで色っぽくなるのか。まったく想像していなかっただけに、思わずドギマギしてしまう。
「ま、まぁ。誉め言葉として受け取っておくけどっ」
片瀬さんは照れ隠しなのか、少し強気にそう言った。
「って、それどころじゃなくって! いま、綾乃ちゃんが現場に出てるんだよね? じゃあわたしも行くから、インカムでサポートよろしくね!」
そうだった。今はやっとの思いで掴みかけているオブシーンの尻尾を逃さないためにも、迅速に動かなければいけないときだった。
「お、お願いします! 動きがあったらすぐに連絡するので!」
片瀬さんを見送ってから、モニターに戻る。マツダは店内をぐるりと一周するように歩いていた。
ここまでの動きを見た感じだと、マツダの目的は"買い物"ではなさそうだ。もし買い物が目的なのであれば、まず自分が買いたい物の棚から見ていく。しかしマツダはそうしない。まるで『初めて来たスーパーのレイアウトを確認している』かのような歩き方だった。ますます怪しい。
プルルっと、スマホが鳴る。有城さんからの着信だった。さっき送ったメッセージを見て電話してくれたらしい。
「もしもし? オブシーンが見つかったんだって?」
電話に出るなり、有城さんの大きな声が聞こえてくる。
「まだ確定ではないんですけど、その可能性が高いです。動きもかなり怪しいので」
「思ったよりもはやく引っかかったね。いまスーパーに向かってるから、もうちょっとしたら着くと思う!」
どうやら有城さんも援軍に来てくれるらしい。もしマツダがオブシーンだった場合、捕まえる際には少しでも人手がほしい。それにブレイズに所属している有城さんなら話も早いだろう。
「わかりました。ありがとうございます」
お礼を言ってから、一旦電話を切る。すでにマツダは店内を一周して、入り口付近にまできていた。
問題は、ここからマツダが店を出るのか、それともまた店内を物色するのか、だ。もしマツダがオブシーンだとしても、初日は偵察に来ただけの可能性もある。
しかし僕の想像とは裏腹に、マツダはそのまま再度店内を物色しに戻った。明らかに不審な行動である。
「アキラくん、聞こえてる? 今はどんな感じかな?」
インカム越しに片瀬さんの声が聞こえてくる。片瀬さんと綾乃にはインカム(今回は変装のために両耳のワイヤレスイヤホン)を持たせていた。これで全体を把握している僕と連携をとって、作戦を進める。
タブレットのデジタル店内マップを見ると、生鮮食品のコーナー付近に赤い点が表示されていた。
どうやらすでに店内に着いたらしい。綾乃の位置を示す青色の点も、惣菜コーナーに表示されている。つまりは準備完了というワケだ。
「マツダはかなり怪しいですね。いまは惣菜コーナーの近くにいます」
「わかった。じゃあわたしも向かうから、動きがあったらすぐに伝えてね」
片瀬さんが綾乃とマツダのいる惣菜コーナーに向かう。全員が一か所に集まってから、ようやく作戦が始まる。




