表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お師匠様はお留守です!  作者: 瀬名 杏子
1/11

ジェニーとの出会い


「エヴァン兄様、お茶にしましょう!」


レイアが薬学の本を読んでいたエヴァンに声を掛ける。


「エルダーフラワーティーか?」


「アリシアの好きなお茶だね!」


レイアも僕もアリシアがいなくて寂しい。


「お師匠様お元気かしら?やっぱり、どんなに反対されても私も付いて行けば良かったわ。」


「もうしばらく連絡を待って音沙汰なかったら、店を閉めて俺たちもミーレンドールへ行くか?ライアンはどう思う?」


「ライアンに反対されても私は行くわよ!」


黒薔薇の魔女アリシアの養い子のレイアは、今年で14歳になる。


背中の中程まで伸ばした絹糸のようなピンクブロンドの髪と同系色の大きな紅紫色の煌めく瞳が印象的な美少女だ。


滑らかで透明感のある白い肌に薔薇色の頬と細い鼻梁、艶のある唇はぷっくりしている。


年の割に小柄で、フードを深く被り、長い前髪で顔を隠せば、まだ少年で通用するだろう?


僕は心配だったのだ。


自慢の尻尾をゆらゆらと振る。


一年中、雪と氷に閉ざされたミーレンドール国にレイアをアリシアと一緒に行かせたくなかった。


黒薔薇の魔女アリシアは、漆黒の髪にゆるやかな弓型の眉と目力の強い猫のような紫水晶の瞳と血のように紅い唇の妖艶な美女である。


悪人顔で非常に誤解されやすいが、結構なお人好しで、レイアとエヴァンの為に穏やかな気候で交通の便がいいラーグル国の王都に、隠れ家を構えた。


エヴァンは、元冒険者で一緒にパーティーを組んでいた仲間達を助けられず、自分一人が生き残り、罪悪感に苛まれていたのだ。


冷たい言い方だけど、Sランクのエヴァンに頼り切って、冒険者なのに強くなる努力を怠った仲間達にも非があると思う。


ミーレンドールは遠い。


さて、どうしたものか!



「ちょっと待て!誰か来たぞ!」


エヴァンが眉をひそめる。


話に気をとられて、うっかり油断してしまった。


エヴァンが、外の気配を伺いながら、ドアを開けると、そこには見知らぬグレーの質素なワンピースを着た少女がいた。


「何か御用ですか?」


「黒薔薇の魔女様にお願いしたいことがございます。」


「…黒薔薇の魔女?何のことだか?ここには、そのような方はおられません。」


エヴァンは、表情に出さずに対応している。


美形のエヴァンに見つめられ、少女は頬を染めている。


レイアより3〜4才上だろうか?


元Sランク冒険者のエヴァンは、僕が思っていたより、冷静だ。


魔獣相手にパニックになっていたら、冒険者など、務まらないのだが…?


黒薔薇の魔女アリシアに、依頼を頼む人間もいないこともないのだが、アリシアの評判は決して良くない。


その昔、大国の若き王に求愛され、断ったのだが、アリシアを妬んだ貴族令嬢達に悪評を吹聴された。


アリシアは全く気にしなかったが、噂は瞬く間に一人歩きし、大魔女アリシアは民の恐怖の対象になってしまった。


もはやアリシアに言い寄る男などいない。


「アリシア様にお力添えをお願いしたいのです。隠遁されていらっしゃるアリシア様の素性を私は口外致しません。」


「何故、貴女はアリシア様の住まいをご存知だったのですか?」


「レイア?」


返答次第では、少女を帰すわけにはいかない。


フードを被り顔を隠したレイアは少女に話しかけた。


少女の顔に僕は見覚えがない。


エヴァンやレイアと比べたら、凡庸な顔立ちに見えてしまうが、厳格な家庭に育ったお嬢さんに見える。


でも、年頃の華やかさに欠ける。


「実は私はデッセ商会の会計係の娘で、この春から私もデッセ商会で働いています。」


「デッセ商会?」


レイアは、僕を振り返った。


黒薔薇の魔女アリシアは、ラーグルで一番大きなデッセ商会の常連客だ。


ミーレンドールに旅立つ前にも、嬉々として珍しい毛織物でレイアとお揃いの外套を仕立てていたことを思い出す。


「アリシア様は、素性を隠していらっしゃいましたが、あの美貌と溢れる気品。お連れになったご令嬢も大層愛らしく貴族の奥方ならば、すぐに身元が割れるはずです。」


「溢れる気品ね…?」


エヴァンが、何が言いたいのか僕にもわかる。


少し、表情が引きつってしまう。


可愛いモノが大好きなアリシアの素性は、とっくの昔にバレていたのか?


「そのご容貌から、アリシア様ではないかと私の父が見当をつけました。で、でも、買い物帰りに後をつけたわけではなくて、偶々デッセ商会の従業員がこの近くでお姿をお見かけして、私の一存でこの辺りで消息を尋ね回りました。」


「はぁ〜。」


「い、今、猫が溜息を!」


ジェニーの目が大きく見開いた。


「この猫は、ライアン。アリシア様の使い魔なの。」


「よろしく、お嬢さん。」


怯えなくていいよ!女の子は噛まないからね!


「ジェニーです。綺麗な毛並み。」


「光の加減で、瞳も毛並みもゴールドに見える時があるの。」


ゴージャスな長毛種なんだ。


「そうなんですか?」


「座って話したら?」


まだ、エヴァンは少女を警戒しているが、怪しいところはない。


「お茶を淹れますね。」


「それで、どんな依頼ですか?」


アリシアの留守中は、エヴァンがレイアの保護者代わりで同居している。


数軒先の店舗兼住居で、薬局を営み、常にエヴァン目当ての女性客が絶えない。


しかし、エヴァンの現在の本業は、薬局ではなくレイアの護衛である。



美少女レイアの一番の危険人物はエヴァン…ではない!


エヴァンには、男色の噂があるほど女性の影がない。


そして、ロリコンでもないと本人が主張している。


異性に全く関心のないエヴァンは、他人には言いたくない事情があるのかもしれない。


「実は、バザール商会が王都に二号店を出します。」



バザール商会は、隣国のバザール伯爵が一代で大きくした商会で半年前にラーグル国の王都にも支店を出して、成功させていた。


「同じ日に、デッセ商会も王都に新店を出します。」


「まあ、そうなの?」


「バザール商会は、今までにも他国に進出して各地で同業者を廃業に追い込んでいます。」


「噂は聞いています。」


「デッセ商会の新店は、私の幼馴染がおじ様に任されて、初めて1人で手掛けるのです。」


何となく、話は見えてきた。


「つまり、デッセ商会が潰されないように、力を貸して欲しいと…?」


エヴァンが口を出す。


「バザール商会は、ラーグルの権力者と癒着しているわけでもないし、従業員を低賃金で長時間酷使する暗黒商会でもない。大型店舗と安さ、あと王都の支店は他店より営業時間が長いくらいで、品質や品揃えはデッセ商会の方が上よ。」


「よくご存知で。」


「特定の日用品が安いだけで、その他の商品はむしろ他店より高いから、安い日用品だけまとめ買いしてるの。」


もちろん、買い物には僕とエヴァンも同行する。


「ところで、魔法で何が出来るんだ?」


「客を集めるのなら、上から花を降らせたり、キャンディを撒いたり…?」


「衛生面でキャンディは駄目だよ!」


「バザール商会も叩いたら埃は出てきそうだけど、残念ながら、黒薔薇の魔女アリシア様は長期不在で、いつ此方に戻って来るか未定なの。」


「何方にいらっしゃるのですか?」


「ミーレンドール国よ。」


「遠いですね。」


アリシアは北の塔の魔女の占いで、ミーレンドール国の末姫の難病を治癒出来る(かもしれない)唯一の存在として、ほとんど泣き落としで招かれたのである。


付き合いもないのに、面倒なことを振ってきやがって!


アリシアの身に何かあれば、北の塔の魔女を生かしておくつもりはない。


そんな経緯があって、アリシアの愛し子レイアは、まだ若いエヴァンに託されたのである。


「あの貴女は、アリシア様のお弟子さんなのですか?」


「私は孤児で、アリシア様の優しさに甘えて此方に身を寄せているの。簡単な薬や香水を作ってエヴァン兄様の薬局で売っています。ごめんなさいね。年が近い女の子と話をするのは、久しぶりだから、さっきから馴れ馴れしい口をきいてしまって。」


当初エヴァンにまとわりつく女性客の接客もしていたのだが、エヴァンの妹設定のレイアに対しても攻撃的な為、今では奥に引っ込んでいる。


「いえ、気にしないで下さい。薬局の香水の評判いいですよね。」


「レイアの作った香水をデッセ商会にも卸したらどう?」


僕が提案する。


「そんなことをしたら、エヴァン兄様の取り巻きが激怒するわ!それに今から大量に作れるものでもない。」


エヴァンの執拗な取り巻きは、王都でも噂になり始めていた。


「悪いけど、ジェニーの力になれそうにないね。」


僕が、3人を代表して断る。


「占いは?レイアは占いは出来ないのか?」


エヴァン、余計なことを!


「出来ないこともないけれど、水晶占いもカード占いもその方向を指し示すだけで、そこから意味を読み取る私の経験値が低いから無理ね!」


「よく、わからない。」


「私もわからないです。」


エヴァンとジェニーが、首を傾げる。


レイアは、棚から占いに使うジュエルカードを取ってきた。


美しいジュエルカードは、それだけで美術品としての価値がある。


「これは天使のカードで、祝福・幸福・癒しの意味があるの。」


「それは、知ってる。」


「この天使のカードが逆になれば、反対の意味になる。27枚のカード、其々に異なる意味があるわ。」


レイアはテーブルの上でカードを拡げて混ぜ始めた。


「一番簡単な占いをするわね。ジェニー、占って欲しいことを決めて。なるべく簡単なことにしてね。」


レイアは混ぜ終えたカードを纏めると、ジェニーに渡す。


「何を占う?」


「私の片想いが相手に通じるかどうか?」


「うわ〜当たらなかったら、ごめんなさい!」


「占う前から弱気だね。」


僕は、また尻尾を揺らす。


猫は犬と違って、不安な時に尻尾を揺らすのだ。


「ジェニー、心の中で念じながらカードを好きなだけ切って。」


ジェニーは戸惑いながら、カードを数回切った。


「そのまま、カードをテーブルに置いて、上から順番に5枚めくって並べて。」


ジェニーは、レイアの指示に従い、カードを並べる。


「う〜ん、前途多難だけど、先に光が見えている。」


「思い続けていれば、叶うの?」


ジェニーは、キラキラと瞳を輝かす。


「気になるのは、この旅人のカードが逆さになっているから、健康面で問題があるかも?ジェニーか相手に持病はないかしら?」


「特に思い当たる病気はないわ。」


「それなら、健康状態に気をつけて!睡眠時間や食事に注意して、滋養があって消化のいい食事を差し入れしてあげるとか?」


「わかったわ!」


「それ、当たり障りのないこと言ってないか?」


「エヴァンは、邪魔するな!」


せっかく、ジェニーが喜んでいるのに。


「ゴホン、試しに占ってみたけどカードの意味を読み取る力はあまり魔力量と関係がないの。北の塔の魔女は魔力はアリシア様より弱いけれど、占いが得意なのは、カードを読み取る能力に長けているのよ。」


口が上手いとは、はっきり言えないよね。


「まだレイアは子供だからね、難しいこと相談されても困るよね。」


レイアが微笑んで、そっと僕の背中を撫でる。


「初恋もまだなの!」


「それは、素敵なお兄様がお側にいらっしゃるからじゃなくて?」


素敵なお兄様?


そうだね、男色の噂あるけどね。


レイア、そこは否定しちゃ駄目だよ。


僕はレイアに瞳で訴える。



ジェニーは、カップに残ったお茶を飲み干すと、突然来訪した非礼を詫び、肩を落として帰って行った。














レイアは、性格はともかく見た目は天使の設定ですが、作者のおばちゃん要素がそのまま注入され、全く若さがなくなってしまいました。


現代社会に実在するモノと実在しないモノが混同されますが、そこはファンタジーなので大目に見て頂けたら、助かります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ