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ルービック  作者: 優池
2/2

日常

「香菜、今日シフト一緒だったよな?久しぶりに」

「私たちが付き合ってること店長も知ってるからあんまり一緒になれないよね。今日は人いなさ過ぎて仕方なくって感じじゃない?」

 朝、教室に入ると彼氏の山中愁斗が話しかけてきた。高校に入って私の世界は格段に広がった。それまでは学校と施設の往復でお小遣いも無かったから一人で外に行く機会もなかった。学校と施設が私の世界の全てだったのだ。高校は私の過去を知らない人たちに囲まれて過ごしたくて、私の地元から進学する人がほとんどいない高校を選んだ。施設から距離が離れていたから通学は大変だったけど、新しい環境で過ごす生活は充実していた。数は少ないけれど、初めて施設の外で友達もできた。放課後遊びに行ったり、テスト前は一緒に勉強をしたり、楽しいという感情を久しぶりに思い出した。高校卒業後には施設を出ていかないといけなったので将来のことを考えてアルバイトも始めた。愁斗とはそこで出会った。

「バイト終わり時間あったらご飯食べに行かね?」

「あー、行きたいんだけど、門限があるから、、ごめんね」

「そうだった。俺こそごめん。また今度どこか出かけような。じゃあ」

「うん、またね」

 自分の身の上話は愁斗には話していない。少し厳しい両親がいて、愛されて育った普通の女の子として生活している。バイトをしているのは、過保護な両親から少し離れて社会を知るためという設定にしてある。愁斗のことを信頼していないわけではないが、今までの腫れ物に触るような扱いを受けるくらいだったら、少し嘘をついた方がよっぽどいいと思っている。嘘をついていることに罪悪感がないわけではないが、時が来たらいずれ話す。今はまだ過去を忘れて今を楽しみたい。


 一度施設に帰り、バイトに向かおうと玄関に行ったら、学校帰りと思われる同い年の女の子が玄関で靴を脱いでいた。同い年とはいっても暮らしている棟が違ったし、性格も合わないのであまり話したことが無かった。今日も挨拶だけして通り過ぎようとしたら、珍しく挨拶の後に言葉が続いた。

「ねえ香菜、あんた彼氏いんの?」

「え、いるけど。それがどうかした?」

「ふーん。彼氏ってさこの人?」

 そう言いながらその子は私にスマホの画面を見せる。そこには駅前の商店街を歩いている愁斗が写っていた。隣には、私たちと同じ高校の制服を着た女の子がいた。その子の腕は、愁斗の腕に絡められていた。

「え、何この写真」

「前にあんたが彼氏と歩いてるの見たことあって、今日見かけたら違う女と歩いてたから写真撮ってみた」

「なるほど。これって今日?」

「うん。今さっき」

「そっか、教えてくれてありがとう。バイト行かなくちゃだからまた」

 そう言って逃げるように玄関の扉をガチャンと閉める。あの子の前では気丈にふるまっていたけれど、実際は今にでも泣き出しそうだった。まだ心臓がバクバクしている。愁斗が私にくれる愛は本物だと思っていた。でも違った。家族から愛をもらったことがない私が他人からの愛の感覚が分かるわけがなかった。とりあえずバイトに行って愁斗に確かめなくては。それまでは、愁斗のことを信じたい。


「愁斗。この写真どういうこと」

 絶望を抱えたままバイト先に到着してすぐにあの子からもらった写真を見せて愁斗に問い詰めた。何かの間違いであってほしい。そんな希望を抱きながら。愁斗は最初は驚いた顔をしたけれど、めんどくさそうな顔をして「ただの女友達だけど」と視線をそらしながら言った。その態度で確信した。愁斗は浮気していると。

「ただの女友達と腕を組みながら歩くの?」

「もうめんどくさいな。彼女だよ彼女」

「浮気してるってこと?認めるんだ」

「いや浮気っていうかそもそもお前とは付き合ってないから」

 衝撃で言葉が出なかった。付き合っていない?この間半年記念日をお祝いしたばかりなのに。「…付き合ってないってどういうこと?」喉の奥から絞り出すようにその言葉を出すのが精いっぱいだった。

「お前とは遊びだったってこと。もういいだろ。シフト始まってんぞ」

「いいわけないでしょ!」

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