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第七十六話 煮沸消毒


 最初の口頭発表はまだ年若い助教授による『消毒の有益性の再評価』がテーマだった。前回私の講義を聞いて消毒に興味を持ったらしく、これまでの病院、戦場、それ以外のケースに分けて外科治療を行った際の衛生状態、消毒の有無を調べ上げて検証した結果、衛生状態が良かったもの、消毒を行ったものはその後の治癒が明らかに早かったという。膨大な量の資料をよくあそこまで集めて検証したものだと本当に関心した。これで消毒の概念がもっと広まってくれたらいいなぁなんて考えていたら隣に座っていたグリフィスが突然手を挙げて声をあげた。


「グリフィス・ラグネア・グランマミエです。貴方の発表は非常によく調査と検証を重ねた素晴らしいものでした。今後の研鑽を期待します」


 唐突に王子に称賛された助教授が泡を食っている。そりゃそうでしょう、いきなり王族に声をかけられたら吃驚するよね……。


「グ、グリフィス王子でいらっしゃいますか!?も、勿体ないお言葉ありがとうございます!今後とも頑張らせて頂きます!」


「ところで、今回の研究は天神の巫女であるリファさんの講義からヒントを得たと聞いています。その御本人が私の隣にいらっしゃるのですが何か質問などはありますか?」


「「ええっ!?」」


 今度は私に振ってきた!?助教授と私の声がハモっちゃったよ!


「なんと、あの女性が噂の天神の巫女殿か!?」


「私も彼女の講義を以前聞きましたが、見事なものでしたよ」


「数百年ぶりにあの称号を得た女性がいると聞いてはいたが、あれほど若いとは驚きましたな」


 俄かに周囲が騒めき出す。お、王子……初っ端から騒動引き起こしてどうするの!?ゆっくり発表を聞くどころじゃなくなっちゃったでしょう……もうやだ、おうち帰りたい。


「あ、あの、リファ様、でいらっしゃいますよね」


 助教授がオドオドしながら確認してくる。答えたくないけど、そうもいかないので立ち上がり、正直に返事をする。


「はい、初めまして、リファと申します。折角の発表の場を騒がして大変申し訳ありません」


「とんでもありません!尊敬するリファ様に私の発表を聞いていただけるなんてこれ以上嬉しいことはありません!」


 いや、私なんかよりずっとあなたの方が優秀な学者さんですから……とは言えず、苦笑いだけで答える。


「もし宜しければいくつか質問しても宜しいでしょうか?」


「勿論ですよ、ね、リファさん」


「は、はい。何なりと」


 何で私じゃなくて王子が答えるかな。もしかしてこの人私のこと嫌いだったりする?


「ありがとうございます。リファ様は戦場で温水による洗浄と乾燥による衛生状態の改善を最初に行ったと聞いています。それ以外に戦場で簡潔に行える消毒方法などありましたらご教授願えないでしょうか」


 うーん、戦場でとなると設備が限られるからそんなに選択肢は多くないよね。となると、あれかな。


「そうですね。戦場では限られた器具や資材しか扱えないのでどこにでもある物を用いて誰でも簡単に行える方法で消毒を行うのが良いと思います」


「そ、そんな方法があるのですか?」


「はい。必要なのは『水』と『大きい鍋』、これだけです」


「水と、鍋……ですか?」


「大きな鍋に法術師に作って貰った水をたっぷりと入れて、それを火にかけて沸騰させます。そこに治療器具や衣服、シーツなどを入れて20分程待ちます。後は取り出して乾燥させる、これで終わりです」


「な、なんと……なぜそのようなことを?」


「基本的に100度のお湯で20分煮沸することでほぼ全ての人体に有害なものを無毒化させることが可能になるからです。そして、直接患者の身体に当てる治療器具は勿論、身を包む衣服や寝具も全て消毒することが望ましいのです」


「つ、つまり、消毒と衛生面の改善を同時に行ってしまうわけですね」


「はい、戦場に限らず病院など全ての医療現場においてこの煮沸消毒は非常に有益ですのでぜひ奨励してほしいと私は考えています」


「とても素晴らしいお考えだと思います!これから私は煮沸消毒を全医療現場に普及させ、その効果を検証していきたいと思います!」


「そうして頂ければ私も嬉しい限りです。宜しくお願いします」


「さすがリファさんですね、他にも何かアドバイスなどはありますか?」


 え!?まだ私に振るの?そう言われてもそんなにポンポン出てこないよ……でも、予防ならあるかな?


「え、ええと、ですね。あくまで予防目的の、医療現場ではなく普段からの心がけレベルになりますが宜しいでしょうか」


「勿論です!何でも構いません」


「特に小さいお子さんにお勧めしたいのですが、外出してから帰宅した際には手をしっかり洗い、うがいもして欲しいのです。あとその、トイレで用を足した後も必ず手を洗うようにした方が良いと思います」


「手洗い、とうがいですか?」


「はい。外出後や用を足した後は手や口の中に病気の原因となりうる有害なものが付着している可能性が高いのです。それを体内に入れないようにするために手洗いとうがいが必要になります」


「な、成程……日頃からそうした習慣を身につけることで病気を未然に防ぐわけですね」


「はい、病気というのはポーションでは治せませんし、なってしまったら治すのが大変です。それなら病気になる前に防いでしまうのが最も望ましいと考えます」


「とても素晴らしいお考えだと思います。助教授、是非リファさんのアドバイスを元に新たな検証を進めて下さい」


「はい!我が人生をかけて検証を進めてまいります!」


 いや、人生は賭けなくていいですから。何か狂信者みたいでこの人ちょっと怖い。でも根は良い人みたいだし頑張ってほしいな。とりあえずこの王子には黙っていて欲しいんだけどね!

現実でも有害なウイルスや細菌の大半は口から入ってきます。ですので手洗い、うがい以外にもマスクをするのが予防に有効です。マスクを使えない場合も口呼吸をできるだけしないようにするだけでもかなりの予防効果が得られます。鼻呼吸の場合は繊毛がウイルスなどの侵入を防いでくれるので口呼吸よりも安全です。

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