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第六十四話 二人の進路


「ところで、あのティアって子の治療はどんな感じになるの?」


 学者らしくヴァイドは聞きなれない病気の治療にも興味があるようだ。


「レピレプシーは頭の中の異常放電が原因とされているので、基本的にはその異常な電気を抑え込むための薬を飲み続けることになります。完全に抑えることは難しいんですけど、生薬を組み合わせればある程度の効果が見込めます」


「ふむ。でも突然意識を失うことがあるっていうなら結構危ないね」


「そうなんです。普通に倒れるだけでも打ち所が悪ければ大怪我しかねないですし、一番怖いのはお風呂に入ってる時ですね」


「溺れる」


 そう言ってミリューが溺れる人のもがく仕草をする。


「なるほど、お風呂で突然気を失ったら溺れ死ぬ可能性も出てくるわけか。でも今までは風呂なんか入れなかったからその心配はなかったんだろうけど……今後は一人では入らせられないね」


「はい、必ず誰かと一緒に入って貰うようにお願いしようと思います」


「カインって子はまあやんちゃな感じではあるけど割と素直な子みたいだし、ティアに手綱を握って貰えば大丈夫かな」


「ああ、あの子は芯の通った良い子だと思う。もし騎士を目指すのであれば私も手を貸そう」


「いや、兄上は手加減を知らないからできれば他の人に任せた方がいいかも……」


「なんだと?」


 クラヴィスにしては珍しくカインの指導に乗り気な様子だったが、逆にヴァイドは明らかに不安げな表情を見せた。その反応に不満そうに問いかけるクラヴィス。


「ああいや、そうなったらカインは幸せ者だなーってね。師団長自ら御指導頂けるなんてそうそうないよね!」


「全く、調子のいい……」


 そういえば、領軍の訓練施設(グランチェスタ)でもクラヴィスの扱きは凄いって話を騎士達から聞いたことがある。元々厳しい訓練をする人だったけど私が訓練施設(グランチェスタ)に出入りするようになった頃から一段と厳しくなったらしい。

 実際私の診察を受けに来た騎士達が日に日に一段とボロボロになりながらも笑顔で診察室に入る所を見ると本当に騎士になるのって大変なんだなぁと感心した覚えがある。さすがにカインは子供だから手加減してあげて欲しいな。後でお願いしておこう。


「あはは……そういや色々あって忘れてたけど、兄上随分元気出たんじゃない?リファ君とのデートはそんなに楽しかった?」


「……はっ!?……あ、ああ、いや、うむ、……ごほん、た、大変楽しませてもらった……」


「おやおや、これは予想以上に良いことがあったみたいだねぇ。後で詳しく聞かせて貰おうかな?」


 先程とは逆に今度はオドオドした様子のクラヴィスをヴァイドが責め立てる。この件に関しては私も関係あるしフォローしておこう。


「私もとても楽しかったですよ。お揃いのネックレスも買ったんです、ほら」


 皆に鞄から取り出した自分の分のネックレスを見せる。


「おおー!お揃い!?兄上やるねぇ」


「あ、い、いやそれは、リファがプレゼントしてくれたんだ」


「は!?デートなのに!?そこは男がプレゼントするもんでしょ!何やってんの全く……このヘタレ」


「うぐっ!……次の機会には……私が……」


 何かヴァイドとクラヴィスがボソボソ言い合ってるけどまたちょっとクラヴィスが落ち込んでる?折角元気出たのに余計なこと言わないでほしいな。


「クラヴィスばっかりずるい。私もリファとお揃いの欲しい」


「そうだね、ミリュー。今度一緒にブレスレットでも見に行こうか。色んな種類のがあったよ」


「わ、私も!私も欲しいです、リファ様!」


「3人でお揃いってのもいいね!」


 そんな感じでワイワイやってたらちょうど夕食の時間になったようでナタリーが呼びに来た。その後カイン、ティアも含めて全員で夕食を取り、二人が食事のマナーを教わりながらおっかなびっくり食べてる姿を見て皆でほっこりとさせて貰った。使用人なので食事は普段はさすがに別室になるが今日だけは特別だ。


 二人は兄妹とはいっても異性だから普通は別の部屋を用意させるところだけど、病気のこともあるしカインが「絶対同じ部屋でないと嫌だ!」とゴネたこともあって二人で一部屋を用意することにした。



※※※※


 そして数日経ち、二人とも大分この屋敷にも慣れてきたようだ。使用人達にも可愛がられているおかげで言葉づかいやマナーも随分みられるものになってきた。どうしても食事の時はカインががっついてしまうのをやめられないらしいけど以前とは比べ物にならない位美味しいからだろうし暫くは大目に見てやって欲しい。


 屋敷の色々な職の人達を見学したり話を聞いたりした結果、とりあえずカインは騎士見習いを、ティアは侍女見習いを希望する方向で考えているそうだ。どちらにしても二人にはこれまで不幸だった分を引っくり返す位に幸せになって欲しい。


「リファ君、例の件の報告書が上がってきたよ」


 いつも通りBPを作っているとヴァイドが声をかけてきた。慌てて器具を片付けて御礼を言い、話をするために一緒に客間へと向かうことにする。中に入るとクラヴィスが既にソファに座って待っていた。


 これから孤児院の件でどんな情報が得られたのか、そして私はどう動くべきなのかを考えていくことになる。気を引き締めてかかろう。



癲癇の治療は本来西洋薬でなければ治療は難しいのですが、生薬を利用した漢方薬でもある程度症状を和らげることは可能です。そういった治療をする予定だと思って貰えれば。

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