第六十三話 二人の面接
それから暫くして二人が泣き止んだ後、今後どうするかの相談に移ることにした。
「それでティアちゃんの治療についてだけど、基本的には大人になって発作が起きなくなるまで飲み薬を飲み続けて貰うことになると思う」
「え、でもそれって凄く時間がかかりますよね」
「うん。ティアちゃんの年を考えると10年前後かかるかもしれないね」
「10年……そんなに長く薬代なんて払えない……」
「大丈夫だ!俺が頑張って金稼ぐから!」
「カイン君のお金の稼ぎ方は色々と問題があるからちょっーと黙ってようね」
「えっ……いたたた!」
またスリに精を出すとか言われても困るのでレイナがカインの頭を両拳でグリグリして釘を刺す。
「そもそもティアちゃんの病気のことを別としても、今の二人はどう見ても栄養が足りてないし、周りも危険が一杯だからそこもなんとかしないといけないと思うの」
「何とか……ですか?」
「私としては落ち着いた環境でティアちゃんの治療経過をいつでも確認できるようにしたい。そのために一番良いのは二人がこの家で暮らすことだと思う」
「えっ!?」
「こ、このお屋敷に、私たちがですか!?」
「うん。二人さえ良ければこの屋敷に使用人として住み込みで働いてほしいと考えてるの。そうすれば食事も出るし、寝床も用意する。お風呂も入れるし、薬代も心配ないよ」
「え、え、でも、そんな上手い話……とても信じられないです。どうしてそんなに親切にしてくれるんですか?」
「うーん、一言で言えば私の我儘かな」
「わがまま、ですか?」
「レピレプシー自体は珍しい病気ではないけど、研究が進んでないからきちんと治療経過を記録した論文は殆どないの。そして私はティアちゃんの治療を通してレピレプシーの研究をしたい。つまり、私の研究者としての我儘にティアちゃんを付き合わせることになるね。だからティアちゃんが心配するような二人だけが得する『うまい話』じゃなくて、私にも得がある、つまりこれはお互いに益がある『契約』になるんだよ。
あとレピレプシーの発作は精神的に負担がかかると起きやすくなるからお兄ちゃんであるカイン君には絶対に傍にいて貰わないといけないの。勿論これは同意があって初めて成立する話だから二人に強制するつもりはないけどね」
「え、じゃあ、ここで働かないって言ったら」
「その場合は定期的にティアちゃんの薬を届けることになるね。勿論私の研究のためだから薬代は無し。できればティアちゃんを診察させて欲しいから時々は馬車でこの家に来てもらうことになるかもしれない。どちらにしても決めるのは二人だよ」
ここまで話したところで二人が暫く考え込む。時間はあるからゆっくり考えてほしい。そして数分後、カインが結論を出した。
「……俺はここで働きたい」
「お兄ちゃん……?」
「俺、今まで子供だから働けなかった、だからスリとかして金を手に入れるしかなかったんだ。でもここでならちゃんと仕事してまともにお金を稼げるようになる。こんなに嬉しいことねぇよ」
「わ、私も……体弱いし内職位しかやったことないけど、お兄ちゃんと一緒に働きたい……」
「じゃあもう、決まりだな」
「うん」
二人揃って佇まいを正し、しっかりとお辞儀して頭を下げてきた。
「「このお屋敷で働かせて下さい!お願いします!」」
分かって貰えて良かった、一番大事なのは本人達の気持ちだから同意が得られてほっとする。
「うん、じゃあこれから二人とも宜しくね。まずは執事や侍女の方たちに色々聞いてどんな仕事があるのか教わって、それからじっくり何をやりたいのか考えて。
あと一つだけ言っておきたいことがあるんだけど、どんな仕事を選ぶにしてもすぐに投げ出すことはしないで。一度選んだ仕事は最低でも1年以上は続けて欲しいの」
「それは、どうしてですか?」
「一度やり始めたことを簡単に投げ出すような人はどんな仕事でも成功することはまずないの。仕事以外でもそうだけど、一度きちんと決めたことはある程度結果が出るまではやり通す、これは大切なことだと思う」
「……はい、分かりました。肝に銘じます!」
「ごめん、俺リファお姉ちゃんが何言ってんのかよくわかんねえんだけど」
「……もう、お兄ちゃんには後で私が説明してあげる!ほら、お話聞きに行くよ!」
「あ、ちょ、ちょっと待てって……」
呆れ気味のティアがカインをまたグイグイと押してナタリーに連れられて部屋を出て行った。この先二人がどんな道を選ぶのかはわからないけど、きっとあの兄妹なら大丈夫だと思う。
「リファ、お疲れ様」
「ありがとうございます、クラヴィス様。結局最初から最後まで我儘を通してすいませんでした」
「いや、あの子達もとても性根の良い子たちのようだし問題は無いだろう。それに家の中が賑やかになるもの悪くない」
「しっかし、リファ君も口が回るようになったね。あんなに怪しんでたティアって子に『研究対象にさせて貰うからこっちにも利がある』っていうのは上手い言い訳だったよ」
「い、言い訳じゃありませんよ!本当に私はレピレプシーに興味があったんです、ただそれだけですよ。ま、まああの二人がとっても可愛いなと思ってしまったのは事実ですけど……」
「リファちゃん、確かにあの子達も可愛いけどあなたの方がもっと可愛いと私は思うわよ!」
「わぷっ」
ミュリエラが突然抱き付いてきた。えっなに!?
「私も」
「私もそう思いますー」
「むぎゅっ」
吃驚してたら今度はミリューとレイナまで抱き付いてきた。何この状況。どうなってるの。
「君たちもほんと仲良いよね~。まあ話も纏まったようでなによりだけど、リファ君。あの二人を助けてそれでおしまい、とは考えてないんじゃないかな」
うぐっ!さすがヴァイド、鋭い……。ゆっくりと皆を引き剥がし、考えを纏めながら口を開く。
「……はい。正直私の力で助けられるのはあの二人が限界です。ですが、あの子達の家に向かう途中沢山の孤児を見ました。皆痩せ細っていて何らかの病気を持っていない子の方が少ないという印象でした」
「ふむ、まさかそれで全員を助けたいって話じゃないよね?」
「はい。違います。まずどうしてあそこまで孤児が多いのかを調べるために本来の受け皿である孤児院について調べたいんです。その上で何かできることがあるなら探ってみたいと思います」
「はあ……それも『君の我儘』かい?」
「うっ!……え、ええと、ですね……大人が身を持ち崩して路上生活になるのはある程度仕方がないことだと理解はしています。でも、幼い子供達が物心ついた時点から路上生活を強要されるのは違うと思います。子供は大人からの保護を受けるのが望ましいと思いますし、それが受けられないのであれば原因は大人側にあるのでしょう。であれば、大人であり貴族でもある私達には何かしらの形で彼らの力になってあげるべきだと思ったんです」
「うん、お人よしだね」
「お人よしですね」
「でもそこがいい」
うう……分かってるよ!でもあの孤児達をなんとかしてあげたいって思っちゃったんだから仕方ないじゃない!
一度決めたらきちんとやれって言ったのは私自身だからね。人に言ったことは自分もやらないといけないと思うんだ。




