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15話4日目発芽3

 スマホのメッセージアプリに様々なアイコンとメッセージが飛び交う。


<やべーよ。女の子みたいな声になっちゃったんだけど>

<なにそれ>

<ウケる>

<病院行ったほうがいいんじゃない?>

<声聞かせて!>


 どうやら、このメッセージはクラスメートたちのメッセージのようだ。


 2018年9月28日8時22分。


 乙守楽人(おともりらくと)は自宅のリビングでソファに座りながらスマホのメッセージを追っていた。洗濯物いっぱいの洗濯籠がリビングを横切る。母親の乙守陽莉(おともりあかり)である。


楽人(らくと)、学校に行きなさい」

「待って」


 陽莉(あかり)はそれ以上注意せず、リビングの先のバルコニーへ洗濯物を干しに行った。この時間帯、母親は忙しいのだ。食器の片づけ、洗濯、掃除と続く。リビングのソファーで、レア度☆1の息子が口を開けてスマホを眺めていても、いちいち構う時間はないのだ。そのようなことを解説している間もスマホのメッセージは流れ続ける。そして、気になるメッセージが目に留まった。


<俺も同じ。病院行ったけど先生もわからないって>


 メッセージを見て思わず楽人が呟く。


「これって……」


 会話に参加しようと楽人がスマホに指を近づけた時、ちょうどスマホの画面が切り替わった。


「着信? 早馬(はやま)から――」


 ピッ♪


「もしもし――」


 * * *


 朝の美毛の森公園は相変わらず騒々しい。ウワサ好きの小鳥たちが「また、ススキみたいなアイツが来たぞ」だの「誰だっけ? 影薄すぎて忘れちまったぜ!」だの話しているのだろうか。いや、いちいち地上をノソノソ歩く生き物など相手にしていないのかもしれない。


 乙守楽人はあまり人目を気にしない。もちろん、鳥の目など気にもしてない。2日前に公園にやってきた時に老夫婦や会社員にヘンな誤解をされた可能性はあるが「2日前、そんなことあったなぁ~」くらいにしか感じてないのである。


 早馬との待ち合わせ場所にここを選んだのは、この待ち合わせ場所が好きだから、という訳でもなく、ただ単にわかりやすい場所だし、喫茶店などと違ってお金を使う必要もないからであった。


 早馬はというと……まだその姿は見えない。

 ジョギングをしている男性、忙しく歩くスーツ姿の女性、ベンチで寝ている会社員。そこに早馬が"いるとは思えない"。


 楽人はスマホを覗き込む。早馬から特に連絡はきてない。


「乙守……」


 楽人の背後からボソリと語り掛ける女性の声が聞こえる。


「早馬!?」


 楽人が後ろを振り向くと、そこには力強さと美しさを兼ねそろえた、木のような……木があった。


「……」


 木である。


「早馬?」


 返事がない。ただの木――と、木の影からひょっこりと黒い帽子が出てきた。不安そうな少女と目が合う。


「早馬!?」


 さっと帽子がひっこみ、少女は再びただの木になった。否、木の影に隠れた。


「早馬!」


 楽人は木に近づき、くるっと、木の裏に回りこんだ。すると灰色のパーカーが舞う姿が見えた。どうやら彼女は木の表へ回り込んだようだ。


「乙守、恥ずかしいよぉ!」

「見せて!」

「ダメだよ!」


 木の周りをぐるぐるぐるぐる制服とパーカーが舞う。特にバターになったりはしないようだ……何を言っているのかよくわからないが。やがて疲れたのか、馬鹿馬鹿しくなったのか帽子の主は観念した。


「はぁはぁ、ははっ、くっだらねぇー」


 爽やかな笑顔を見せた彼女からキラリと汗が舞った。女性の面立ちではあるが、どこかしら早馬駿(はやましゅん)の面影がある。あるいは爽やかな振る舞いによって早馬駿補正でもかかっているのだろうか? 彼女は間違いなく早馬駿であった。


 もっとも『藍鬼(らんき)が女性になったという前例があった』『待ち合わせをしていた』『乙守と声をかけてきた』『服が早馬駿の私服だった』という要素があるからこそ早馬駿と特定できるのであって、街中ですれ違っても早馬駿っぽい女性だな、くらいにしか思わないであろう。


 彼女は黒の帽子、白のシャツ、その上から灰色のジップパーカー、濃紺のジーンズといった服装であった。そして、これは駿の私服でもある。

 背の高さは帽子をかぶっているので推定になるが、160cmくらいであろうか。男性版早馬駿(?)より10cm程度低くなってしまっている。代わりに胸はパーカーの上からも膨らみがわかる程度には膨らんでいた。


「はぁはぁ、ははっ、そうだね」


 楽人も駿の意見に同意し、笑い返す。朝日が駿の笑顔を照らしている。白い歯、ピンと張った健康的な肌。帽子をかぶっているが彼女から決して暗い印象は受けない。


 楽人は心の中で彼女のことを「可愛い!」と思ったが口には出さなかった。

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