倒すべき相手と守るべき者Ⅷ
「って感じで、ニオと付き合う事になったんだ」
「ニオさんと、ですか?」
裸のままで寝床に入っているシアンへと、俺は特になにを気にすることもなく話す。
正しくは、巨乳の彼女が出来た自慢がしたかっただけだが。
「いいんですか? カイトさん」
「いいって何が?」
「ニオさんは一般人ですけど、それに巻き込んでしまうんじゃないかと……」
言われてみればそうだが、付き合う付き合わないにしても狙われるだろう、そして俺はどちらにしても助ける。
ならば、彼女持ちになった方がいいに決まっているのだ。少なくとも、日本ならばそれで間違いない。
「俺はニオを守るって決めたからさ。それに、フォルティス王にも納得させたし、これくらいはやってもいいでしょ」
「お父様を?」
「うん。俺がこの国に絶対必要な人間だ、って言ったら納得してくれたよ」
シアンが唖然とした顔をしていたので、俺はすぐにフォローを入れた。
「彼女持ちになって、ちゃんとこうやってくるからさ」
「不誠実などと思われませんかね」
「多分大丈夫でしょ、ニオだし。それに、シアンも眠れないと困っちゃうでしょ?」
長い沈黙が続いたかと思うと、シアンは毛布の中に顔をつっこむ。照明がついていて眩しかったのだろうか。
それから一時間程待った後、俺は照明を消してから部屋を後にする。
長い廊下を歩きながら俺は漠然と考え事を行い、一つの事実に気付いた。
一度は離れたシアンの部屋の扉を開け、毛布を引きはがしてシアンと向かい合おうとする。
「シアン、まさか……」
「お父様……それでは民が……」
それらしい事を呟いて入るが、シアンの目は閉じ、寝息が静かな部屋の音として聞こえた。
「まさかシアンも俺に告白しようとしていて、ニオに嫉妬してあんな態度を取ったのかも、と思ったけど」
それはおそらくあり得ない、という結論に至る。
そもそも、俺としてはシアンに敬意や尊敬、さらには感謝の念も抱いてはいるが、ロリと付き合うのは法律的によくないのだ。
明日起きて、もう一度会えたら丁寧に断ろう。
覚悟を決めた俺はまっすぐに、自室へと戻る。
恋人同士になっただけに、戻ればニオが迎え入れてくれるはずだ。まるで同棲生活のように。
有頂天になりながら扉を開けると、ニオは眠っていた。
それも、机などに突っ伏しているわけでも、椅子に座っているでもなく、ベッドに寝ていた。
なんと言うべきか、ニオらしい対応ではある。
それにしても、出迎えを期待していた俺からすると、少しがっかりだった。
寝ているニオを起こす程ではないので、俺はそのままニオの横には入り、目を閉じる。
揺さぶられ、俺はすぐに目を覚ました。
腕時計のライトスイッチを入れると、部屋に到着してから一時間が経過しているとすぐに分かる。
「カイトさん、おかえりなさいっ!」
「……寝かせて」
「そんなぁ、出迎えと一緒に料理かお風呂か私か、どれが欲しいのかを聞く予定でしたのにぃ……」
特につっこむ気力もなく、俺はそのまま毛布に潜り、そのまま意識を睡眠の世界へと返却した。
『宝石屋に良い品がある。買うとよい』
どこからともなく聞こえてきたが、誰の気配もしない。魔力察知が出来ないので断定は出来ないが、おそらくいないと言い切れた。
それでもやはり眠い俺は意識を沈ませようとするが、空耳の言った宝石店、という場所の記憶だけはその場に止め、明日には調べようと覚悟をする。
そこまでの順序を含めて、ようやく睡眠が再開された。
幸いか、これらについて不満などは一切述べられず、眠りの世界は笑顔と真心で再入店を快く許してくれる。
頭の中の思考が揺らぎ、ふっと全てが消滅した。




