倒すべき相手と守るべき者Ⅶ
「って、そんな感じになったわけだから、ニオは何の心配しなくていいよ」
ニオは驚いた顔のまま、俺の方を見ていた。
「本当ですか?」
「ああ、ニオの身分は俺がなんとしてでも守るからさ。安心してくれていいよ」
「カイトさんっ!」
何の脈等もなく俺に抱きついてきたニオは、感涙しながら胸に顔を埋めてくる。
「ニオ」
「カイトさん、どうしてそんなに優しいんですか?」
「そうでもないよ。女の子の為なら、男はこうして頑張るって相場が決まっているからね」
涙を流したままのニオは顔を上げ、真っ赤になった鼻を震わせながら、潤んだ瞳で俺を見つめてきた。
「カイトさんは、赤の他人である私を女の子として扱ってくれるんですか?」
「当然だよ」
「私、カイトさんの事が好きです」
「俺もだよ。いつもニオには助けてもらっているからさ」
黙り込んだニオを見て、俺は間違った事を言ってしまったのではないか、と思ってしまう。
「カイトさんの好きは、私の好きなんですか?」
「えっ?」
「私は、カイトさんの事を異性として好きなんですよ。助けてもらったあの日からずっと」
思わぬニオの告白に、俺は息を呑む。
「最初は敬意と尊敬と、感謝だけでしたが、あなたの傍にいて私は本当の気持ちに気付いたんですよ」
「本当の気持ち……」
「どんな時でも助けてくれて、強いのに助けてくれて、貴族様にも劣らぬ地位を持っていてでも、ただの平民でしかない私を救ってくれたんですから」
「……それは少し違うかな。僕はシアンのおかでげ強気に出られているけど、所詮はただの平民だよ」
「それでもですよ。だって、あんな田舎の村の私を拾ってくれたんですから」
俺としても、ニオに対しては好意を抱いていた。
守りたいと思えるし、料理も出来るし、気立てもいいし、何より胸がでかい、大きい。
年齢はほとんど同じで、俺自体ももう二十歳手前だ。
日本の感覚のせいで時間の流れがおかしいが、結婚していてもおかしくないはない年齢になっている。
少なくとも、恋人や彼女はいて然るべきだろう。
「それでですね……」
「俺、甲斐性なしだし無職だよ?」
「えっ……でもカイトさんは」
「今はシアンに気に入ってもらっているから――まぁ、フォルティス王にもだけど、そうじゃなかったら俺は無職だからね」
無職、それだけで日本ならば最上級の大失点だ。
「仕事なんていくらでもありますよ。カイトさんくらい動ければ、農業もできますよ、きっと」
「農業か、まぁ定年後にでも考えてみようかな」
そんな年まで俺がこの世界で生きている保証はないが、戦争が終わって平和になったならば、その時は農民になってもいいかもしれない。
「じゃ、付き合おっか」
「えっ、えっ? あっ、すみません……何度も驚いちゃって」
「どうする? 駄目かな?」
「い、いえ! 付き合わせてください!」
「うんうん、じゃ明日から頼むね」
そんな風に、あっさりと俺はニオと恋人同士になった。
当時は俺側が告白していた節があったので、相手の気持ちはいまいち分かっていなかったが、相手から告白されて決して嫌な気はしない。
これはニオに言っていないが、俺からすればこの告白は途轍もなく嬉しいのだ。
ニオが平民である自分を助けてくれた人、と言ったのと同じように、俺としてもニオは特別な人である。
俺は所詮、異世界人でしかないのだ。この世界ではない、別の世界から来た別の人間。
そんな、国籍なしの身分不詳男を愛してくれるなど、これほどまでに嬉しい事はない。
誰かを倒し、誰かを守れ、とダーインに言われているが、俺としては自分を求め、欲してくれる誰かが必要だったのだろう。




