フォルティス防衛戦Ⅴ
「盗賊達は素通りしていきましたね」
「情報収集はしていたらしいが」
宿屋の窓から様子を窺っていたが、シアンが上手く調停してのか、盗賊達は一切暴れる様子もなく出ていった。
しかし、アックアに入る前で決着を付けると見ていた事もあり、この不可解なドライブスルー化は解せない部分も多い。
シアンの事だから何かしらの意図があるとも思えるが、少なくともそれは俺に分かる事ではないのだ。
少し待つと、シアンは帰ってくる。
「ただいま戻りました」
「シアン、どうしてここを通したの?」
「えっと、作戦の為に必要だったから……ですかね。手前で戦う事になれば、被害が及ぶ可能性もあるので」
「なるほど。確かにそうだよね」
「まぁ、それだけじゃないですけど」
意味深な発言の後、シアンは閑話休題の意として咳払いをし、各部屋に分散していた兵士達を集めるように言った。
ブラストが全てを回りきった後、生活指導の先生が怒って再度防災訓練をやりなおさせたような、きびきびした動きで整列した兵士達が移動を開始する。
喫茶店らしきエリアに集まった俺達、盗賊撃撃部隊はシアンの行う作戦会議を、齧るように見ていた。
そう、まるで授業を受けているみたいに。
それからすぐに作戦の実行が決定され、シアン含めた十一人は先んじて出撃。俺は若干に残ってから、後方より不意打ちを掛ける手はずとなっている。
「さて、じゃあそろそろ行こうかな」
腕時計で三十分が経った頃、俺は出発した。
おおよそ一時間歩いた程度で盗賊の集団と思わしき巨大な隊列を発見し、俺は何の脈絡もなく狂魂槌の衝撃波を放つ。
まるでギャグ漫画や無双ゲームのように、盗賊達が十人単位で空中を舞っていき、次々と地面に叩きつけられていった。
シアンの作戦通り、俺の奇襲に気付きながらも、向ってくるのは十人と少し程度で、八十人規模で襲いかかってくる事はない。
ここまで見た時点で、俺はシアンの作戦が全て成功したのだと悟った。
盗賊達の怯えよう、前列側の盗賊達がシアン達の方を向いている事、それらはシアンが事前に説明してくれた作戦のままの展開となっている。
おおよそ半数を倒したと確認した辺りで、指抜き手袋を視界に収めながら、冒険者風に名乗りを上げた。
「俺は冒険者カイト。シアン姫からの依頼で、貴様らを抹殺しにきた」
狂魂槌を振り上げ、地面に強い衝撃波を放ち、場面演出を行う。
これはシアンの命令ではあるが、演出方法については異世界人である俺に任されていた。
一撃で砂煙が僅かに舞い、風の流れが羽織っている服をはためかせる。
よく強いキャラなどが戦闘形態になった時、オーラを出して周囲に風を起こす真似をやってきた。実際にやってみると、なんとなく満足気になってしまう。
迫ってくる盗賊達を見ながら、俺は会議での出来事を思い出していた。




