フォルティス防衛戦Ⅵ
――それは会議での事。
「盗賊の数は八十七人、予想していたよりも大幅に少ないですが、それも計算通りです」
「何で数分かったの? 少ないのが予想通りだったの?」
挙手をして質問をすると、シアンは嫌な顔一つ見せずに説明してくれる。
「お店の一つで、食料の提供をしてもらったんですよ。当然毒も何も入っていない、純粋なお食事として」
「それって意味あるの?」
シアンは笑い、いつの間にか置かれていた十三個のサンドウイッチを指さした。
「最大量の三百個を全て私が買い取りました。そして、その内から配布された数が八十七個、これで怪しまれずに敵の数が数えられました。あっ、端数の十三個は食べましょうね」
「しかし、盗賊の――それも、大規模な集団に渡すなど、怪しまれるのではありませんか?」
これに関しては上下関係以上に気になっていたのか、ブラストも挙手をして質問を投げかける。
「そもそも、三百人という触れ込み自体が盗賊元なんですよ。噂を辿ってみましたが、貴族への待遇改善などを訴えかける、という名目で動いているそうですし」
「税の免除とか?」
「そうですね。それ以外にもいろいろありますが、平民が貴族を目の敵にしている事を利用して、盗賊側は一種のハリボテを作ったんですよ」
よくアニメで見る、『おまわりさん、こっちです』と声だけで言って不良や悪人達を逃亡させる手などを思い浮かべた。
「事実、水の国側は安全な防衛戦を選ぶわけですから、盗賊の一割くらいは城に潜り込めるでしょう。残り三割が城下町で盗みを働く余裕はありますね」
「なるほど、八人でも残れば交渉が出来るからね」
「いえ、違いますよ。盗賊達の目的は初めから金品。貴族との交渉は考慮外でしょうね。するにしても、五百人規模で、それも波状で別方向から攻めるなどしなければ効果はありませんし」
難しくて良く分からないが、少なくとも盗賊は嘘の触れ込みをしているという事だけは分かった。
「話を戻しますが、そうした盗賊達の主張に強調した人達が噂を広げ、三百人もの大群が動いているという認識の幻影を生んだわけですね。ですから、この村の人達が何をしても怪しまれるはずがありません」
ステルスマーケティングのような事だろうか。むしろ、本人達も嘘だと気づいていない以上、それとは少しまた違うような気もするのだが。
「こちらも事前にですが、アックアの人には冒険者が来ているという偽情報を流しています。自然な形で接触をすれば、そうした事情が相手にも通じるでしょう」
「ハッタリにしては不足な気がするけどなぁ。むしろ、軍が向ってるとか言った方が派手なんじゃない?」
「嘘の第一段階は嘘を本当と認識する事です。村の人達はこの情報を信じているので、気付かれる事はありません」
シアンは指を二本立て、続ける。
「二段階目は嘘に真実を含める事ですね。今回は一人のベテラン冒険者が来るように言っていますので、カイトさんが背後から襲いかかってくれば、間違いなく勘違いします」
嘘だと思えず、挙句やってきたのは単騎で、それもまた強ければ虚が真になるという事のようだ。今度は比較的分かりやすい。
「私達、陽動部隊は敢えて、盗賊側が撒いた情報を前提に交渉を行います」
「姫様、それはつまり……貴族側の体制変更を虚言とはいえ、宣言するという事でしょうか」
ブラストの表情は僅かばかりだが変化する。やはり、嘘をつくのは良くない、そう言おうとしているに違いないだろう。
「はい。貴族の体制を変えるという盗賊達の前提の元、金銭での交渉を行います。八人が城で強奪できる程の代金、その五倍程度を出せば呑んでくれるでしょう」
物怖じせず、シアンはきっぱりと断言する。
「ですが、そのような下賤な輩を調子づかせては……」
「渡す気はありませんから、問題はありませんよ。ほんの少し、カイトさんが敵軍を半壊させるまでの時間稼ぎが出来れば十分です」




