僕らの夏休み・命からの手紙
いよいよ最終回ですが
番外編を書く予定なのでもう少しお付き合いいただけたらと思っています。
「うう・・・」
「あ!悠ちゃん起きた!」
「命・・・?」
僕は体を起こそうとするが起き上がれない。
「悠太郎!大丈夫なの?」
母さんが心配そうな顔で僕の顔を見る。
「うん、大丈夫」
命と母さんはほっとした顔をした後、すぐに怖い顔になった。僕は驚いて「えっ」と声を上げてしまった。
「あんた心配したんだからね!本当に、熱中症になって」
「僕、熱中症になったの?」
「そうだよ、心配したよ」
僕は思った。昨日寝てないからだ。
おばあちゃんがタオルを水で濡らしたのを僕の首の後ろにかけてくれた。ひんやりしていてとても気持ち良かった。
「ありがとう」
「いいえ、もう顔色がよくなってきたわね」
「そう?」
僕はそこではっと思いだした、そうだ何で母さんが来ているんだろうか。理由を聞かなくちゃ。
「母さん、迎えに来るの明日じゃないの?」
「うん、明後日大事な仕事が入ってさ、今日ここに泊まって、そんで明日の夕方に帰ることにしたの」
「そうなんだ」
また仕事か、僕は心の中で毒を吐いた。いつだって母さんは仕事が第一だ。
でも僕だってわかっている、僕を育てるために一生懸命働いているってこと。それでもまだまだ子供の僕は頭では分かっていているけれど、納得いかないところもあった。
「僕、帰りたくない、明後日までここに居たい」
「・・・悠太郎」
母さんが複雑そうな顔をしている。こんなこと言ったって母さんを困らすだけなのに。
「だめよ」
母さんは鋭い、威厳のある声で言った。
「わがままを言っちゃだめよ悠太郎、おばあちゃんや命ちゃんも困るでしょう?」
「・・・・」
僕は何も言い返せなかった。母さんの言うことは正しいと思う、けれど・・・
「わがままを言ってるのは母さんのほうだ!」
母さんは僕の言葉に一瞬驚いたような顔をしたけれど、すぐに怒った顔に変わった。
「悠太郎!母さんは仕事があるの、わがままを言っているのはあなたよ!」
「母さんは僕より仕事のほうが大事なんだろ!」
バシッと僕の頬に強い衝撃がきた、それは母さんが僕の頬を叩いたからだった。
「馬鹿言わないで!」
母さんはそういうとどこかに行ってしまった。
「悠ちゃん」
「命・・・」
命は「大丈夫」と僕を慰めてくれた。
「謝ったら、きっと許してくれるよ」
「うん・・・」
そうは言ったけれど僕はまだ少し怒っていた。僕は悪くないのになんでたたかれなくちゃならないんだ。そんなことをぐるぐる考えていた。
もう夕方になるのに母さんは帰ってこない。もう僕の怒りは完全にどこかに行ってしまい、今は罪悪感と激しい後悔の念だけが頭を埋め尽くしていた。
「母さん、どこ行ったんだろう」
「心配してるの?」
おばあちゃんがいつの間にか僕のそばに来ていた。僕の隣に座ったおばあちゃんはこういった。
「子供より仕事のほうが大切なんだなんてもう言ってはだめよ」
「・・・・」
僕は何も言えなかった、おばあちゃんは構わず続ける。
「子供が一番に決まってるわ」
「そうかな?」
「そうよ」
僕は立ち上がると玄関に駆け出して行った。母さんを探さなきゃ、そして謝ろう。
僕は靴を履き家を飛び出した。
母さんは河川敷に座っていた。僕はどう声をかけようか迷ったけど勇気を振り絞って「母さん」と声をかけた。背中を向けていた母さんは僕に気づいて立ち上がった。
「悠太郎・・・」
「母さん、ごめんなさい」
僕は思いっきり頭を下げた。どうか、許してくれますように。そう祈って。
「謝るのは、こっちのほうよ」
「えっ・・・」
「私が仕事を第一にしてきたのは、事実だし、もちろん悠太郎を育てるためだけど・・・図星を突かれてついカッとなっちゃって、ごめんね」
「ううん、ありがとう」
僕は母さんに精一杯の感謝をこめて言った。
「帰ろう」
「うん」
僕は帰り道心の中でもう一度言った。
ありがとう、母さん、そしてわがまま言ってごめんなさい。
仲直りした僕らを見ておばあちゃんと命は笑顔で「おかえり」と迎えてくれた、それに僕ら親子は「ただいま!」と元気に返した。
それから僕らは母さんに今年の夏休みにあったことをたくさん話した。
森に命と遊びに行ったこと、天体観測したこと、夏祭りに行ったこと、喧嘩したこと、全部話した。
「来年は私も夏休みとって悠太郎と二人でここに帰ろうかなー」
「ぜひ、いらっしゃい」
ただ、楽しかった時間はすぐに終わり夜はあっとゆうまに過ぎて行った。
明日の夜はもうここにはいないのかと思うと目頭が熱くなった、涙が出ないように僕は精一杯こらえた。
昨日寝てないこともあって僕は布団に入るとすぐに眠れた。
その日の朝ご飯は豪華だった。
卵焼き、ソーセージ、味噌汁、煮物、ご飯、食卓には色とりどりのおかずが並んでいた。
昼はみんなでそうめん流しをした、命がなかなかとれなくてすねていた、僕らはそれを見て笑った。
夕方-
とうとう帰る時がやってきた、荷物を持って外に出て改めておばあちゃんの家を見る。
また来年これるかな、僕は物思いにふけっていた
「そろそろ名残惜しいけど出発するよ」
「うん」
「悠ちゃんまたおいでね」
おばあちゃんがさみしそうな笑顔を浮かべて言った。
「悠ちゃん、手紙書くね」
「うん、待ってるよ」
「バイバイ、また夏休みね」
「うん、バイバイまた夏休み来るよ」
「絶対?」
「うん、約束!」
僕はいつかの日のように命に向かって小指を出した。僕らは指切りげんまんをした。
さみしいけど、また来年の夏休みに来れるから大丈夫。
「バイバイ!」
僕は命とおばあちゃんが見えなくなるまで手を振り続けた。
「また、夏休みに・・・」
僕は小声でぼそりといった。
僕が6年生になった夏休みの少し前に命から手紙が来た。
悠ちゃんへ
お元気ですか?私は元気です、おばあちゃんも元気です。
もうそろそろ夏休みです、今年も会えるのを楽しみにしています。
今度、悠ちゃんの住んでいる都会におばあちゃんと二人で行ってみたいと思っています。
案外近いんだよ。
では、お返事待ってます。
安西 命より
僕は命に返事を書くために便箋とペンを持った。
最初はなんて書こうかな。
これが初の投稿でした
こんな至らない私の文章を読んでくださってありがとうございました
心から感謝です!