志条と本庄
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名前を呼び止められて振り向く。
彼とは余り接点が無い。
強いて言えば、名字の響きが似ているという事だろうか。
ここ最近、本庄から話し掛けられる事が多くなった。
行き帰りの挨拶は必ずだし、美術の課題について話し合ったりもした。
どうしてそうなったのかは解らないが、別に嫌でも迷惑でもなく、むしろ嬉しい事なので会話は弾む。
本庄は、どちらかと言えば目立つ奴だった。
意見はハッキリ口にし、かといって他人の考えをないがしろにしたりはしない。
中心に立つのが巧い印象がある。
大抵は口を大きく開けて笑っていて、楽しそうだった。
明るく朗らかな性格からはほど遠い自分からしてみれば、どうしたらそうなれるのかと不思議でならない。
物心ついた時から両親は不仲で、俺は小さな頃から人の顔色ばかりを伺って生きてきた。
だからだろう。
他人が、どういう言葉を欲しがっているのか、どうすれば物事が円滑に進むのか、いつもそればかり考えていた。
嫌な性格をしている。
本庄が何故俺に構うのか、解らなかった。
「新崎先生、俺、人の顔色は伺えるけど、感情までは汲み取れないみたい」
放課後、美術室には俺と先生しか居なかった。
美術部員は他に5人いるのだが、皆それほど熱心では無い。
キャンバス越しに彫刻を見ながら、陰影の付け方に悩む。
少し離れた作業台で、先生は生徒から集めた課題に目を通していた。
この学校は選択式で、美術・書道・音楽に分かれている。
今回の美術の課題は、影絵だった。
細く切られた黒紙を、白い紙に重ねていく作業をする先生の動きはロボットのようだった。
「どうして」
目線も動かさず、先生は口を開く。
「最近、本庄に話し掛けられるけど、それがなんでだか解らないんです」
「……気の毒に」
「気の毒?」
「仲良くなりたいんだろ。志条から話し掛ければきっと喜んでくれるよ」
「そういえば、俺から話し掛けた事ってあんまり無いかも」
「……気の毒に」
同じ台詞を繰り返した。
「なんだよ、もう」
「青春だな、と思ってさ」
「どこが」
「どこもかしこもさ」
ニヤニヤと唇の端を歪める先生は性格が宜しくない。
いつでも余裕ぶっているから、それが時々どうにも出来なくて腹が立つ時がある。
一線を引いて、外側から俺達を眺めるのだ。完璧な外野を気取っているからズルい。
「先生」
「なんだ」
「なんでもないよ」
「あっそう」
「先生」
「なんだよ」
「俺と本庄が仲良くなったらどう思う?」
先生は顔を上げ、俺と目線を交わしたかと思うと、数度瞬きをした。
「良いんじゃないか?」
「良いの?」
「……良いよ」
先生が目を伏せる。
言外にガキだと言っている。
そんな事は解っているのだ。
俺は本当に子供で、そんな事は、よく知っているのだ。
サブタイの割に本庄が全く出てこなかった




