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第三十四章 不思議な旅人

 しばらく森の中を進んでいると、小川が流れる開けた場所に出た。透き通った水がきらきらと光り、周囲には色とりどりの花が咲き乱れている。

「わあ、綺麗……」

 ユキが目を輝かせながら駆け寄る。

「この辺り、水も飲めそうだな」

 ハヤテも慎重に水をすくい、匂いを嗅いでから口をつけた。

「ねえ、せっかくだからここでひと休みしようよ!」

 モコがふわふわと跳ねながら提案すると、みんなも賛成して小休憩を取ることにした。

 レオンは持っていた食糧を広げ、簡単な朝食を準備する。ユキとハヤテも手伝い、あっという間にみんなで食べられるようになった。

「いただきまーす!」

 もふもふたちも一緒に食事をし、和やかな雰囲気が広がる。

「……こうしてると、なんだか家族みたいだな」

 ハヤテがぽつりと呟く。

「うん、ほんとにそうだね!」

 レオンが嬉しそうに頷くと、ユキもにっこりと微笑んだ。

 そんな穏やかな時間が流れていたが、突然、フェンリルがぴくりと耳を動かした。

「……誰かが近づいてくる」

 一瞬で場の空気が張り詰める。レオンたちは身構え、音のする方へ目を向けた。

 茂みの向こうから現れたのは、一人の旅人だった。ボロボロのマントを羽織り、背には大きな荷物を背負っている。険しい表情をしており、明らかにただの通行人ではなさそうだった。

「……お前たち、こんなところで何をしている?」

 旅人の言葉に、レオンたちは顔を見合わせる。

 こうして、新たな出会いが始まろうとしていた——。


 夜が更け、焚き火の炎がゆらめく中、レオンたちは謎の旅人を囲んでいた。彼は落ち着いた様子で、時折優しい笑みを浮かべながら話す。

「俺はライゼル。ただの旅人さ。お前たちと同じように、気ままに旅をしているだけだよ」

 彼はそう言うと、手にした木の枝で火をかき回した。

「ライゼルさんはどこへ向かっているんですか?」

 レオンが尋ねると、ライゼルは肩をすくめた。

「特に決めちゃいないさ。面白そうな場所を見つけたら、ふらりと立ち寄るだけだ」

 その言葉に、ユキとハヤテは少し警戒を緩めたようだった。もふもふたちも直感的に危険はなさそうだと感じたのか、焚き火のそばでくつろぎ始めていた。

「お兄ちゃん、もふもふたちも安心してるみたい」

 ユキが小声でハヤテに話しかけると、ハヤテもわずかに頷いた。

「まあ、悪い人じゃなさそうだな」

 レオンは少し考えた後、おずおずと切り出した。

「ライゼルさんも、もしよかったら僕たちと一緒に旅しませんか?」

 その申し出に、ライゼルは少し驚いたような表情を見せたが、すぐに笑った。

「ありがたい申し出だけど、俺は一人旅が性に合ってるんだ。だけど、またどこかで会うことがあったら、その時はよろしく頼むよ」

 そう言うと、ライゼルは立ち上がった。

「そろそろ行くよ。お前たちも気をつけてな」

 旅人は軽やかな足取りで夜の森へと消えていった。その後ろ姿を見送るレオンたち。

「なんだか不思議な人だったね」

 レオンがつぶやくと、もふもふたちも一斉に鳴き声を上げた。

「クゥン!でも悪い感じじゃなかったな」

「にゃあ、また会いそうな気がする」

 ライゼルとの出会いは短いものだったが、どこか心に残るものがあった。

 翌朝、レオンたちは新たな目的地へと向かい、再び旅を続けるのだった。

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