参拾陸 勇者一行
お久しぶりです。
今回から勇者回です。
海水でベトベトになった肌を拭きながら、勇者キイチ――本名正木貴一は苛立っていた。
こんなはずでは無い、思っていたものと違う、と。
本来ならばこんな所に戻っているのではなく、問題無く海中を進み、番人を倒し、幽海龍という龍から加護を貰ってこの港町を跡にしているはずだというのに。
「………っクソ!」
「ひっ、ご、ごめんなさいっ」
キイチの零した言葉に、一人の女が身を怯ませて反応した。それを見たもう一人の男が小さく息を吐き肩を下げてキイチに言った。
「はあ……そう苛立つなよ。始めっから成功するなんて、そう上手いこといくわけ無いだろ。ユウリ、お前も一回失敗したくらいでそう気負うんじゃねえ」
「は、はい。ありがとうございます、ケンゾウ君」
ユウリと呼ばれた女はケンゾウと呼んだ男にペコペコとお辞儀をした。
それを見たキイチはまるで自分が悪者のように見えてさらに機嫌を悪くした。
「ねぇキイチく〜ん、びちょびちょだよぉ〜」
そんな空気を読まない、甘い声を出してキイチを呼んだのは白い服に身を包んだ女だった。
四人の内ただ一人聖属性魔法の適性を持った、そして勇者と同様に特別な力を持つ聖女のアイリである。
キイチは彼女に近寄ると、優しく頭を撫でた。
「ああ、ごめんねアイリ、すぐに宿に戻ろっか。…………おいそこの喪女、明日までにさっさと魔法を完成させとけ。お前のせいで俺は死ぬところだったんだからな」
「……っ、ごめんなさい!」
「謝ってる暇あんならさっさとしろ!……行こうか、アイリ」
「うん!」
二人はユウリやケンゾウに目もくれずにクリムの町に入っていった。
キイチとアイリの姿が見えなくなったところで、ユウリとケンゾウ、そしてもう二人分の四人分の溜息が砂浜に広がった。
「ルルーア、ジェンバ。キイチがすまない、そしてアイリも」
「気にする事は無いわ。初対面以降キイチにそんなもの期待してないもの」
「そうだぞ。諦めてる。何度も聞いて悪いが、本当にてめぇら幼馴染なのか?」
ルルーアと呼ばれた長耳族は「フン」と嫌そうに言うと、ジェンバと呼ばれた矮人は同意した後怪訝そうに四人の関係性を問うた。
ルルーアとジェンバは勇者として魔王討伐する為に出発する際、現地のサポートをする為に選ばれた冒険者だった。どちらもAランクで、ルルーアが魔弓士、ジェンバが戦鎚士という、片や弓士、片や戦士の上位職である。レベルも五百前後で、Sランクの冒険者となるには十分な実力はあるのだが、まだそこまで大した実力は無いというのを建前に指名依頼や王命徴兵は面倒だからとランク昇格試験を蹴り続けている二人である。
ケンゾウはそんな二人の問いかけに、苦虫を噛み潰したような表情をしながら答えた。
「あんなんでも、俺達はチビの頃から一緒にいたんだ。もう十年以上経ってる。今更「はいさようなら」なんて言えねぇっつーの」
「そうかい。難儀なもん抱えてんな」
「そうでもないさ」
「でも、小さい時は、その……あんな横暴ではなかったんですよ?三年くらい前………あ、アイリさんとお付き合いを始めた頃くらいから、急に過剰になったというか、短期になった、と言いますか」
「それまではただの女好きのナルシストだったんだけどなぁ」
「どちらにしろ碌でもねぇな」
ジェンバは「うげぇ」と眉を顰めて言った。
ユウリとケンゾウが苦笑いしていると、話を区切らせるためにルルーアは手を叩いた。
「とりあえず今はそこまでね。とても癪だけど、あのクソ勇者の言う通りあなたの水魔法が今回の鍵よ。あなたのたった一つの失敗が皆を危険に晒す……それはもう今回ので学んだわね?」
「うっ、はい……」
「これからまた魔力操作の訓練をするから、手早く身支度を整えましょう。二人もそれでいいわね?」
「「おう」」
「よろしくお願いします!」
「本当は私も手伝えればよかったんだけど、生憎私には水属性の魔法の適性が無いから魔力操作くらいしか教える事ができないけどビシバシいくわよ」
「はい!」
「男二人は今回ので失った物資の調達を頼むわ。どうせあの勇者も聖女も何もしないでしょうから、ケンゾウとジェンバが買い足しておいて。ただし酒はダメよ。だからお財布もケンゾウに渡してとくわ。……わかってるわねジェンバ、個人的なお金で買うのもダメよ?」
「ははっ……おうよ」
「…………ケンゾウ」
「わかった、見張っておくさ」
「なんだと!?」
乾いた笑いをしたジェンバを信用できないルルーアはケンゾウに監視を任せた。名前を呼ばれただけでそれをわかってしまったケンゾウもだが、そう言われる程に酒を爆買いしようとするのを見破られるジェンバもジェンバである。
それに反論しようとするジェンバに、ユウリはポンと肩に手を置いて哀れみの目を向けながら首を横に振った。言外に「諦めろ」と言われてるようで、ジェンバは涙目になりながら握り締めていた手を力無くダラりと下ろした。
「じゃあ、頼んだわよー!」
「お願いしますー!」
ユウリとルルーアは町から差程遠くはない、広い砂浜に向かって歩いて行った。
それを見送った二人は顔を見合わせると、どちらが口にすることも無く「行くか」と町の中へと入っていった。
◯
町の活気は変わらず、交易品から地元品まで露店で溢れ返っている。
ケンゾウとジェンバがいる所はそれが最も栄えている通りであり、物資の大半が手に入る場所でもあった。
「まずは食品以外のもんからだな。マジックバックに入れるとはいえ、持ってりゃ傷むだろうから後回し後回し!」
「買うのは欠けて打てなくなった火打石とボロボロになった毛布とランタン用の油と蝋燭か」
「刃こぼれしたナイフや切れたロープの替えもな。つーか、火打石いるか?」
紙に書いたメモを確認しながら、二人は人混みの中を歩いていく。
街に着かず野営を余儀なくされた時に必要な道具は、まだ数は残っているものの残りは少ない。
「魔力節約の為だから必要なんだろう。そういう判断は魔法を使う彼女らに仰ぐのが一番で、その彼女らが必要としているのだから買い足すだけだ。そう言えば、テントは穴が空いていなかったか?」
「ユウリとルルーアが補修したっつってたぜ?魔物の皮使ったらしいから強度も上がってるってよ。ひん曲がった杭は俺が真っ直ぐに直しておいたぜ」
「それは良かった。ありがとう」
「良いってことよ!んじゃあ二手に分かれっか」
「ああ、終わったらまたこの店の前で」
「おうよ!」
早速二手に分かれて露店を回る。
ジェンバに頼んだのは道具の一式。ケンゾウは日用品の類を担当した。
道具に関してケンゾウは素人であり、冒険者として活躍してきたジェンバの方が詳しいからだ。適材適所というやつである。
ちなみに、渡したお金は道具は買えるがお酒は絶対に買えないギリギリの金額。どんなに安いものを買っても買うことはできない。そもそもだが、命を懸ける旅をしているというのに安物で粗悪なものを選ぶということは論外だ。
ルルーア曰く、銅貨で買えるような粗悪な酒は絶対に買わない主義だそうで、元々舌が肥えているジェンバにとってそれらは泥水と同等と言うらしい。
つまり、ジェンバに酒を買うという道はない。
そうとはいうものの、ケンゾウはやや不安を残しながら店を覗き店内を物色した。
「おやじさん、厚手だが持ち運びやすい毛布はあるか?できるだけ良質なものがいいんだが」
「お、丁度いい時に来たな!昨日入荷したばっかのもんがあるぜ?」
「ぜひ見せていただこう」
睡眠時に使う毛布は良質なものを選ばなければならない。
本来ならばそれは偏に女性に対する気遣いからくるものなのだが、約一名だけゴワゴワした布など断固拒否、却下、と受け付けないからである。
時代も価値観も、世界すらも違う場所に来たというのに、我儘を通そうとするのはこれ如何に。
しかしそれを放置するというのも迷惑な話。口喧しく文句を言い、挙句その体調を崩されては困るというもの。
姦しい人を好まないルルーアとジェンバは早々に不機嫌になり、見るに堪えないとユウリが折れ、ケンゾウも渋々承諾したのだ。
蛇足だがキイチは最初から賛成派であった。
「まいど!」
新しい毛布を手に入れ、他の日用品も買い足していく。
全部買い足し終わったケンゾウはジェンバとの集合場所まで歩いて戻った。
その途中、とある露店の装飾品に目がいき立ち止まった。近づきまじまじとアクセサリーを見ていく。
その内の一つに青い石が埋め込まれた髪飾りがあった。青い鉱石を銀の金具で囲い、淡い青の布が付けられたものだ。
じっとそれを見ていると、見かねた店主がケンゾウに話しかけた。
「その髪飾りが気になるのかい?」
「ん?あ、ああ。その、まあ他と比べると随分と凝った作りをしているなと思って……」
ケンゾウの言っていることは正しく、目に止まった髪飾り以外の作りはいかにも手作りというのがわかる程のものだった。
「ああ〜……まあそうだな。この髪飾りはこの町にとって特別なんだ。なんせ、かの幽海龍様とほぼ同じ作りのものだからな!」
「幽海龍と、同じ……?」
「そうさ!幽海龍様はこの町にとって守り神も同然。彼の龍がいるからこそ、この町は魔物による被害が少なく済んでいる。だからお守りとしても彼女の髪飾りを模した髪飾りは人気なのさ」
「ほう……ん?彼女??幽海龍に性別があるのか?」
「むぅ、お前さん知らんのか?」
突如、隣に居た男から言葉が発せられた。
話に入ってくるとは思っていなかったケンゾウは、ピクリと肩を上げた。
「有名な話ぞ。神代から幽海龍は変わぬその姿は、藍き海を体現せし巨龍。海を統べ水を司る原龍種の一体だ」
老齢の男は髪飾りを手にしながら言う。
「人の身は女。豊満且つ靱やかなソレは食の豊富な海、荒く激しい自然の海を彷彿とさせるという。この髪飾りは昔にこの町に住み着いた人の子が感謝と祈りを込めて作り始めたものが最初。それが今やお守りやら祈願やらと、その在り方は変わっているがの」
「爺さんよく知ってるなぁ。ここらで見た事ない顔してるって事は、旅人か冒険者かい?」
「まあそのようなものだ。さて、キミはどうするかね?見たところ、水の属性石を使ってる故に水属性の魔法を補助する機能を保持しているが」
「そこまでお見通しかい!?すげえな爺さん!」
「なぁに、年寄りの為せる技よ」
「そうかい。……で、お兄さんどうするよ。買うかい?買わないのかい?」
「是非購入させて頂こう。俺の仲間が今水属性の魔法の修練をしていてな。その助けになればいいんだが」
「タイミングいいなぁ!600LDだ……毎度あり!」
お金を出して髪飾りを購入し、ケンゾウは露店から離れて集合場所に向かった。
勿論その代金はケンゾウの自費である。
歩く傍らには先程の男も何故か居た。
行く道筋が同じなのだ、と。少しだが共に歩かないか、と。男は言った。
「しかし、キミも良い男だ。わらがしのクソガキと大違いじゃて。クソガキにも見習わせたいのぉ」
「は、ははっ…」
この男、露店では猫を被っていたのか口が悪かった。
「好感の持てる男というのは世を渡り歩くのならば良い事よ。仲間内に馬鹿げた阿呆が居ろうと多少なりとも手を差し伸べる者が現れる。わらがしもその一人と思えば良い」
「はぁ…なるほど……?」
「さて、わらがしゃここまで。待ち人が居るのだろう?疾く行くがよい」
「あ、ああ。ありがとう。俺はケンゾウ、あんたは…えっと……?」
「ケッヒヒヒッ」
「?」
「そう簡単に真名を明かすでない。悪用されてしまうぞ?」
「っ!?」
雰囲気がガラリと変わり、体が言い様のないプレッシャーに包まれ、ケンゾウは指一つ動かせなかった。
「まぁ良いわ。わらがしゃそんなまどろっこしいことはせん」
男はケンゾウに背を向けると振り返ることなく歩き出した。
「いずれ馬鹿弟子に会う運命。ある程度の便宜くらいは図っておこう。精々有効に使うが良い」
そう言った男は、ケンゾウが瞬きをした後には跡形もなく居なくなっていた。
「……は?……は!?」
周囲を見渡しても男はいない。あるのは不審な者を見るような冷ややかな視線だけである。
それに気付いたケンゾウはぐっと身を引き大きく溜め息ついた。
「なんだ、何してんだ」
「……ジェンバ」
声がした方に振り向くと、水袋片手に胡乱げな目で見ているジェンバがいた。怪しかったのは間違ってはいないが、この男にだけはそのような目で見られたくないと思うケンゾウだった。
「買えるもん買えたのか?」
「それは勿論だ」
「なら行こうぜ、もうすぐ日が暮れる。ルルーア達も宿の方に向かってんだろ。馬鹿共はずっと居てそうだがよ」
「……だな」
若干赤みがかった空を背に二人はこの町で取った宿に向かって歩いた。
だから、彼は無視した状態でいた。
現実逃避したに等しいが、未だ異世界の事象に慣れきれていないケンゾウにとって、目の前から突然人が消えるというのは刺激が強かったのだ。
{技能『◯◯◯◯◯◯◯』を獲得しました}
{技能『◯◯◯◯◯◯◯』は秘匿情報に当たる為、取得者にも表示されません}
{技能〈◯◯◯◯◯◯◯〉の解放条件は不明です}
内容からして面倒事でしかないだろ……。と、ケンゾウはストンと抜け落ちた表情で天を仰いだ。
今回から勇者の一行を第三者視点からの話になるのですが、いやぁ〜勇者がもう書きにくい!もう既に心が折れそうです。まあ頑張って溜めてるのですがっががががががggggggsdfsrhjmsfdjrんfごぶいwjんっゔぁdきんvんdbvbfゔぇyrbkcjdhxbcゔぇhbfwくぉいうygfvbchんksじゃdしfじぇおwmd
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ケッヒヒヒッ、乗っ取るなど造作もないわ。
おうおう、わらがしの事は気にする必要はないぞ?ただ乗っ取ってるだけだからのう!
しかし勇者は性格最悪じゃなぁ。周りの奴らが可愛そうじゃて。
作者よ、とっとと回を終わらせよ!
そして更新するのじゃ!!
ではな!
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頑張って、書いて、更新します………。
とりあえず、今回が今年最後になります!
メリークリスマス!
良いお年を!!
追記
魔物のみのスキルなのに、ケンゾウの新たなアビリティがスキルになっていました。
人はアビリティだと言うのに、魔物化してしまってたのです。
すみません。




