参拾伍 一度振り返って話してみる
皆様おまたせしました、3章スタートです!
始まりはこのお話から。
では、どうぞお楽しみください。
カサカサカサ、パラパラパラパラっドっ、カチャカチャカチャ、パタン。
「んんーー!!終わったァーーー!!ってわっ」
思いきり伸びをするとそのまま椅子が後ろに倒れた。痛みは感じないが驚きはするため声が大きく出た。
「何かあったか!?……て、主、倒れたなら早く起き上がれよ」
「あ、アトラ。お帰り、随分早かったね」
「いや、ただ木に登ってただけだからお帰りも何もないだろ。かなり大きな声出してたから何かあったのかと思ったじゃないか。」
アトラには天風の大樹の剪定を頼んでいた。能力で作り出した木であり、風を送り出す補助も行なっているのこの木なのだが、植物であることに変わりはないので、定期的に手入れをしなければならないのだ。イーラやシーの岩漿や渦潮は自然物質と化しているため手入れは必要ないが、木や銅鐘は枝が生え過ぎたり錆びつく可能性があるため放置ができない。
私もやりたいけど溜めてたから……くっ。
「悔しがるのもいいが、とりあえず起き上がったらどうなんだ」
「あ、そうだね」
ごろりと椅子から降りて起き上がり、私は長時間のデスクワークで凝り固まったであろう体を伸ばす。腰を反らすとボキボキと音を立てるがまだ行けそうだと思った瞬間ゴキッと嫌な音がした。
「うげっ」
「ゴキッ?」
反らした体勢のまま私は硬直した。
…あれ、あれ?おか、おかか、おかしいなぁっ、あっれぇ??
「どど、どうしようアトラ。元に戻れない……」
「ええぇ…」
アトラの私を見る目に呆れと困惑が混じり、その後面倒臭そうに変わった。
「はぁ…。ちょっと触れるぞ」
「頼んだ…」
背中とお腹の辺りに手を置き、その手をクロスさせるように思いきり内側に押した。
「ぐうぇっ!」
「潰れたカエルか」
「主に対しての感想がひっどい」
「失礼な従者ですまないな」
「まあこのくらいが気楽だよ。ふぅ、治してくれてありがとう」
「まぁな。あの状態の主がずっとなんて恥ずかしくて他の原龍種の方々に顔向けができないからな」
「あーうん。サラッと酷い事言うようになったよね」
「そうか?」
おっと無自覚!
すると、風が少しざわつき始めた。風が私に、何かを伝えようとしている。
その瞬間に強く風が吹いて脳内に別の映像が流れた。
四人の人間族の男女 一人の長耳族の女 一人の矮人の男
装備は上物 歩く場所はフレミュー 港町 砂浜 海
人間族の内四人はこの世界には見ない顔立ち
映像が終わった。途切れ途切れに流れたそれに私は頭の中で思考を巡らせる。
これは〈風便り〉が届けてくれたものか。ちゃんと風は命令通り知らせてくれたのね、ありがとう。しっかしかなり途切れてるな、映像って言うよりこれは写真…スライドショーってのがしっくり来るでしょ。うーんこの感じ、顔立ちは日本人かな?幼さがあるから大体高校生くらいか。勇者っぽい子は優等生感があるねぇ。女子の片方は聖女かな。格好がそれっぽいわ。で、ここはフレミューの港町でこの海…シーの気配がするな。つまり……
「アトラ、勇者が遂に迷宮攻略に乗り出したよ」
「え、それ本当か!?……ん?乗り出すの少し早くないか?召喚されてからまだそんなに経ってないよな。…っていうかいつの間にそれ掴んだんだよ!」
「今さっき!」
「……ああ、主の能力か」
「うん。どうやら同郷っぽい」
懐かしいなあ。
時間軸どうなってんだろう。私が死んだより後かな、それとも前か、同じくらいか。話聞いてみたいけどそうはいかないよねえ。
「なあ主、前にも思ったが、同郷ってどういうことだ?主は魔物で嵐風龍だろ?同じ場所で生まれるってのは意味がわからないぞ」
「うん?あれ、言ってなかったっけ?」
「何も聞いていないな」
私は今までの会話を思い出してみる。すると、アトラの言う通り私の出自については一度も触れられたことはなかった。
教える必要がなかった事と、何も聞かれることがなかった事が重なって話す機会を得なかったのだ。
知らなくてもやっていけるし必要はないと思っていたからなあ。第一聞かれるとは思ってなかったし。まあこれを機に話しておくか。
「話が長くなるけど、それでも良い?」
「話が長くなるならやっぱ」
「まぁまずは私が生まれた時の話からかなぁ!」
「……ちっ」
「はーい舌打ち厳禁」
嫌そうにするアトラを椅子に座らせ、まあちょっと舌打ちされた仕返しも含めて長ったらしく私は話した。
◯
「なあ主、時空超えるにはどうすりゃいいかな」
「ん?何て?」
「だからその主殺した奴らのところに行けねえかなって」
「いやいや行かなくていいから、ていうか行かないで!?」
「何でだよ」
「いやまあ、だってもう捕まってる?だろうし、正直もうどうでもいいかなって思ってるからアトラがそこまで怒る理由はないというか……。それに…」
「それに?」
「それに、あいつらが私の事を殺さなかったらソレフィア様は私の事を見つけてくれなかっただろうし。この世界に来ることもなくって、アルベリアが私の事を嵐風龍に転生できなくって、人間だったら真っ先に死んでるだろうから。死んで嵐風龍になったからアトラに会う事ができた。だからこれでいいんだよ」
嘘じゃない。本当の事。
そりゃ私だって最初は「何クソこの野郎!!」って思ってたけど、今は結構どうでも良くなった。アトラに言った通り、あいつらに押されて死ななかったらここに来れなかったし、こんなに変わる事もなかっただろうし、アトラ達と会う事もなかったんだもん。
「もう、そんな顔しないでよ」
少し泣きそうな顔をするアトラの頭を撫でながら私は笑ってみる。
それでも治りそうになかったから、ガシガシと髪の毛を乱す勢いで頭を撫で回した。
「いった、痛っ!ちょ、禿げる!」
「禿げない禿げない!禿げても治したげるって」
「いやそういう問題じゃなくてだなあ!」
涙目が治ったので私はアトラの頭から手を離した。
「まあとりあえず私達はこれから来るであろう勇者に向けて、監視という名の傍観といきましょうか!」
「言い換えるなら傍観じゃなくて観察だろ」
「あーそれそれ」
まあ流石に水の中は見られないから見るのは当分先になりそうだけどね〜。
シーのとこどうなってんのかな〜。
のんきにそんな事を思いながら、私は勇者が挑むシーのジュエラシー深海底神殿がある方を見つめた。
あ、確か魔導具に映像石っていう遠隔地の光景を見られるやつあったよな。
あれの原理を少々取り込み…ちょっと弄って…私の能力と合わせて……。
「それっ!」
ブオォンと何も無い空中に、どこかの町の海岸が映った巨大なスクリーンのようなものが浮かび上がった。
私はうんうんと満足気に頷いた。
私の実験は大成功だ。
「え、え??何だコレ??」
「ふっふっふ……よくぞ聞いてくれたなアトラくんや。これは映像石の原理を応用し新たに作り上げた、名付けて投映魔法!映像石を用いないから場所も取らない。そして〈風便り〉で私が見られる光景をリアルタイムで映し出したものだよ!」
「投映魔法?それに新たに作り上げたって…」
「これならアトラも一緒に見られるでしょ?」
「たしかにそうだが……え、主本当??」
「ホントホント……お?」
{投映魔法が世界に登録されました}
{光属性に分類されることとなります}
{光属性投映魔法を獲得しました}
{適性検査中}
{保持適性に適合しないため効果が二割ダウンします}
{却下されました}
{第一発見者であるため効果はそのまま反映されます}
お、おおお……。
一気に来たな。というか久し振りに聞いたなこのアナウンス!
そういえば〈能力創造〉とか〈魔法創造〉とか、必要そうなものは一番最初に取ってたから今まで聞く機会無かったんだよね。ほんと久し振りだわ。ちょっと恋しかったよ。
「主、どうかしたか?」
「投映魔法がどうやら世界に登録されたっぽい。これからちょっと面倒だよ、作った魔法名の登録とかしなくちゃいけないんだから」
距離ごとに分ける感じで初級中級上級を作ろう。
えーっと?初級の1㎞未満は『ショートプロジェクション』、中級の10㎞未満は『ミドルプロジェクション』、上級は100㎞以上で『プロジェクションムービー』と夜でも鮮明に映し出す『ナイトムービー』も作ろっと。闇魔法の『ナイトビジョン』と差がつくようにしないとね。あれは夜の中でもハッキリとした視界にするためのだけど、こっちのは夜中でも映像を鮮明に映し出すためのものだからね。差詰暗視カメラといったところかな。
そうだ、位置替えと角度替えができるように初級に『アングルチェンジ』と中級に『ポジションチェンジ』を追加しよう。移動する点も入れたら上級は『プロジェクション・トゥ・ムーブ』かな。
あと詠唱もちょいちょいっとやってっと。
{投映魔法の初級、中級、上級の魔法が登録されました}
{効果内容が鑑定に反映されます}
{完了しました}
「終わった!」
「はっや!」
「いや、色々すっ飛ばしてやってるからここまで早くできてんの。普通はもっとかかるよ。そもそも魔法の開発なんて通常やるならば数ヶ月、或いは数年、数十年はかかるようなものだもの。私の場合は元から構図を立ててたのと、私自身が神様だからだね。あと、同じ陽系統なのもそうかな、ちょっとした相性とかもあるんだよ」
「ああ、陰と陽の相性系統か」
この世界の属性は思ったよりもややこしいことになっている。
魔法を大雑把に分けられたのが属性で、さらに属性内で陰と陽の種類の系統に分かれる。
陰が火属性、水属性、闇属性、魔属性、無属性。
陽が風属性、雷属性、土属性、光属性、聖属性。
龍属性はどちらにも属さない。龍は龍だ、ということらしい。
ここで重要なのは、同じ系統であれば相克の相性の良し悪しが無くとも、適正に殆ど準ずる効果を得られるという事だ。
ここで私達原龍種の話になるのだが、原龍種の複数ある属性もこれに準じている。
陰は黒、陽は白と分けられている。
だから、原龍種の鱗とかの色が白系統と黒系統で分かれてたり、以前アトラに「火属性との相性も良い」と言ったのはこれが理由だったりする。
私?三属性で陰陽どちらも持ってますけど?使おうと思えば全属性いける。あーでも魔属性はえげつないの多いからあまり使いたくはないな。
まあつまり、私特別なの。凄いでしょ!
内心ドヤってると、投映魔法で映し出される映像に動きがあった。
「あ、何か上がってきた。うーん、どうやら失敗したようだね」
「入ってからそんな経ってないよな。前途多難だな」
「あそこの海域は大変だからね。海魔法か高度な水魔法を使えないと、あっという間に海の藻屑になっちゃうから、五体満足で帰れてるってことはレベル的な面では多少は実力はあるんでしょ。あれだ、技術に体がついていっていないって感じ?」
「どちらにしろ、あそこ突破しないと幽海龍様のいる所には行けないだろ。番人のファムフェットさんもあんな面倒臭い性格してるけど凄く強いし」
「シーに求婚しまくってるんだっけ?会ってみたいな、その海龍。絶対面白いじゃん」
談笑している間にも、海から上がってきた勇者達は肩を上下させて呼吸をし、当の勇者はその状況に全く納得していない。むしろ、怒りすら湧くような、そんな顔をしている事に、私達は露程も気が付かなかった。
◯
海水で濡れた装備が、体に鉛のように押しかかって動きを阻害する。
溺れかけて荒くなった呼吸は皆、未だ整えることができない。
「ゼェゼェ……っ、無理ゲー過ぎんだろぉぉおおおおおお!!!!!」
フレミューの港町――クリムに、勇者の叫びが木霊した。
時を同じくして、フレミューの中心部
とある魔法研究開発室にて
「な、何故だ……何故だ!!理論は確立した、魔法とて失敗はしておらん!なのに何故、天の声が響かんのだ!」
己に向かい、鑑定石を使う。
するとどうだろうか。自身が確立した魔法理論をもって出した魔法とは別の名称の魔法が、自身のステータスに現れていた。
「投映、魔法……だと?この私よりも先に理論を確立したというのか!?一体どこのどいつだ!」
一体どれ程の経費と年月をかけたと思っているんだ!
映像石や通信宝珠でさえ理論を確立させ成り立たせるのに十年以上かかったんだぞ!?機器を介さず魔法一つでは不可能と断念していたものを、異世界の勇者という異常点を得て、ここに来てようやく確立させて魔法として昇華させるはずだったというのに!
この私が、魔法史に名を刻むはずだったのに!
それを阻んだのは…誰だと言うのだ!!
男は顔も名前も知らない誰かに憎悪を抱いた。
だが、それだけではないのが研究者の性というもの。
同時に興味も湧いていた。
くっ、本当に誰だと言うのだ。この私よりも先に魔法を作り出すだなんて、余程の天才か、秀才か……。
どちらにしてもどうやって辿り着いたのだ?
「イーファン!イーファンはおるか!」
「はい、ここに」
男は名前を呼ぶと「イーファン」と呼ばれた者が姿を現した。
声は中性的で肉体も中肉中背と、男か女なのかどちらかの区別もつかない者だった。
「連中共に伝えておけ、私よりも先にこの魔法を完成させたものがいる、とな」
「教授、では完成したのですか?」
「ああ、何処の馬の骨とも知らん奴に先を越されてしまったがな」
「おめでとうございます。それでは、学院及び元老院に報告に行って参ります」
「急ぎで行ってこい。頼みたいことができたからな」
「わかりました」
そう言うと、イーファンは一瞬で姿を消した。
部屋に一人残った男は椅子に凭れ掛かると、薄く笑みを浮かべてこれからの事を考え始めた。
お読みくださりありがとうございました。
話し合い大事。
何かとスルーしてきたアトラもよく言った。
かくいう私も若干忘れてたからね。
3章は1、2章と少し変わります。
ブクマ、感想お待ちしております。
次話もぜひ待っていてください。
追記
五人と書いていましたが、正しくは四人でした。
知らない内に幽霊が一人増えていたことに私も驚きです。




