嘘つきは泥棒のはじまり
今日は……初めてのデートだった……彼との初めてのデート……まさか私に彼氏が出来るなんて。
弱くて儚くて、そして奇跡の……私の理想の人。
私はお風呂に入りながら、小さい頃、嘘が嫌いになった時の事を思い出していた。
私は嘘が嫌い、小さい頃ママは言った、嘘つきは泥棒の始まりだからと、閻魔様に舌を抜かれると。
私は怖かった、自分が泥棒になってしまう、閻魔様に舌を抜かれるのが。
いい子にしようって、嘘はつかないって。
でも周りの人は嘘ばかり、すぐに嘘をつく。そして一番の嘘つきは妹だった……
妹は一つ下の女の子、ママの再婚相手の連れ子だった。始め私の事が嫌いだったらしい。
妹は初めて会った時から嘘ばかり、いつもいつも嘘をついていた。今日はおやつが無いと言って私の分を食べたり、「パパはあなたが嫌いだ」ってママと喋ってたのを聞いたとか。
私の金色の髪も病気だから切った方がいいとか。
私は小さい頃は嘘をついたら皆閻魔様に舌を抜かれる、それを皆信じていると思っていた。
閻魔様に舌を抜かれるなんて嫌だし怖いに決まってる。だから嘘をつく人なんていないって思ってた。
だから信じた、妹の言う事を全部信じた。私はおやつを我慢し、パパに嫌われていると思い込み、髪の毛も自ら……切った。
でも……全部嘘だった……
私は妹に嘘は止めてと言った。髪を切る行為までしてしまった私にびっくりしたのか、その場では謝り素直に止めると言ってくれた。でも……嘘は時々言われた。嘘が巧みになった。
私は妹の嘘とほんとを見分ける為に、色々な本を読み漁った。そして色々な人を観察した。
目線、仕草、言葉、イントネーション、顔の表情、身体の動き。
嘘を見破る一番簡単な方法は、会話の記憶と言う事を知った。
嘘というのは、無い物を作り出す行為。実際やってもいない、見てもいない物を見たように、やったように言う事。
つまりその場で取り繕って言った言葉、それが嘘。
嘘は記憶が曖昧になる。その場で作った物なのでどんどん綻びが出る。
前に言った事と後に言った事に差が生まれる。
私はそこを突いた「それ、前と言ってる事と違うんだけど」
相手は慌てる、そして再び嘘をつく。私は呆れた、どうして謝らないのか? どうしてまた嘘をつくのか?
一度嘘をつくと、さらに嘘を重ねる。どんどんエスカレートしていく、そしてどんどん感覚が麻痺していく。
嘘は泥棒の始まりとはよく言ったものだ。
それから私は嘘を見破れるようになる。目線や仕草で表情で分かるようになる。
やがて、なんでそんな嘘をつくか考えるようになる。
「君可愛いね、僕と付き合ってよ」
「私のどこが可愛いの?」
「え? そりゃ全部だよ、全部可愛いよ」
嘘だ、ほんと……簡単な嘘、目線も言葉のイントネーションも、特に最初のえ?って言うのが嘘、聞こえて無いわけがない、何かを考える時のえ?である。
今まではここで断り終わっていた。でも私は嘘が嫌い、だから嘘をついた相手はとことん追い込んだ。
「全部ってあなたの視線は私の胸ばかり見てる。私の胸しか興味ないの? そもそも好きなんてこれっぽっちも思ってないでしょ? 多分私の髪ね、これは染めてるわけじゃないの、金髪がみんなビッチだと思ってるの? バカなの? あとその喋り方、誰かに言わされてる言い方ね、あなた自分の意思でここに来てないわよね? 多分「俺が落としてやるから見とけって」とでもお友達に言ってきたのね。おあいにく様、私はあなたみたいな男大嫌いなの、あなたと付き合う事は一生ないわ」
「そ!」
「私の言った事、何か間違えてる?」
「く……」
嘘は嫌い、私に嘘をつく人は完膚なきまでに叩き潰してやる。
でも……そのせいで私は孤立した。嘘をつかない人なんていない……みんな嘘をつく、つまらない嘘を……
どこかにいないの? 私みたいな人は、嘘が嫌いな人、嘘をつかない人、心の底から信用できるような人。
そして私は見つけた、奇跡の様な人を……私の理想の人。
彼はトラウマを抱えている、嘘がつけない人、彼は自分の心の底を全部晒してしまう。
私の理想の人とは、そういう人だと分かった。
守らなければ、私が守らなければ、彼は壊れてしまう。
自分の全てをさらけ出してしまう、自分の意思に逆らって。
そんなの……そんなのって……
彼と話していると、楽しい、嘘が全くないからだ、飾らない彼、一緒にいて楽しい。
彼にどんどん惹かれて行く、彼の事がどんどん好きになって行く。
可愛い彼、嘘をつかない彼、純真な子供の様に、昔の私の様に……
でも……もし彼のトラウマが、彼の呪いが解けたら……
私は彼を愛せるのだろうか?
もし、私が彼のトラウマを解消できるとしたら、私はそれをするのだろうか?
私の理想の彼、彼はいつか変わってしまうかもしれない。
私はその時……彼を……
私はその彼を……愛せるのだろうか……




