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Chapter : 15 二十一グラムの弾丸

日付が変わるまでもう少し。俺とレイは、現世の二人の始まりの場所に来ていた。

その時計塔は、止まってしまっている。けれど、俺たち人間は止まるわけにはいかないのだ。

空と海と時計塔と、そして誰より傍にいた俺の相棒。静かに、綺麗に、笑っていた。

俺は、この世界の広崎零を観測した。レイと俺の関係は、完全に俺が主体なのが大前提だ。

だからこのレイがいなくなっても、この世界の広崎零は存続する。……のだが。

「無理して笑わなくても、いいんだよ。……だって、君の主観の消滅って、つまり」

『なーに言ってんの。今更、だよ。……それにね、一人さん。あの時に比べたら、わたし、もう全然怖くない。……一人さん。聞いて?』

レイは、鎌を置いて。その小さな背丈で、ぺこり、と礼儀正しくお辞儀した。

『色々、頑張らせて、ごめんね。辛かったよね。苦しかったよね。ごめんね。全部、わたしのせいなんだ。……ごめんなさい。沢山の、ごめんなさいを。……でも、それより、もっと』

『いっぱいいっぱい、ありがとう。大好きだよ、一人さん』

胸に熱さを。頭に記憶を。そして何より、君の勇気に心からの敬礼を。

「俺からも。……レイ、ありがとう。生まれて来てくれて、ありがとう。自分のせいなんて言うな。自分のおかげって、言ってくれ。俺は、君が生きてくれて良かった。君が降りて来てくれて良かった。君がいないと、俺は人になれなかった。感謝してる。……心、から」

「だから、ありがとう。大好きだ、レイ」

金の弾丸は、原作に出てこない。それだけは、レイが生み出したたった一つのイレギュラー。

無条件の奇跡が、あっていいと。そう願う彼女の想いが生み出した、月の敗着だ。

『……うん。うんっ。ありがと、一人さんっ。……じゃあ、行くね』

手袋を外す。その中には、彼女が秘めた、月型の想い。ばいばい、と手を振って。

俺はそれに向かって、震える手で、銃を構えた。……ためらう。涙が、零れる。

だから、時間稼ぎ。

「……レイ。最後の言葉、何か、カッコ、つけようよ」

「えぇー!? ……そうだなぁ。……よしっ」

微笑んだ。それもまた、特別として記憶する。

『さよなら、一人さん。……わたし、死んでもいいや――』

初めて、恋に落ちた瞬間だったから。



日付が変わる。時が満ちる。契約を横紙破りにされて、何も掴めなかった手が躍る。

二つの月の光が、俺に向かって落ちてくる。

問う。お前は誰だ。何者だ。一体、どんな魂だ?

「答えてやるっ! 俺は、人間だ! お前が欲した、物語の魂だ! ……欲しいか? 欲しいだろうな! だったらくれてやる! 俺の心を持っていけ!」

赤紫の光が、俺から満ちる。さあ、かかってこい! この魂は、ただの魂じゃない!

「ただで済むと思うなよ! この身は、弾丸だ! みんなの心を重ねた、二十一グラムの弾丸だ! 想いを喰らえ! 怒りを喰らえ! お前に心があるのなら、きっと無事ではいられない! 突き刺さって、いつまでも俺達のことを忘れるな! 人を冒涜した、罪に苦しめ!」

どうか、この戦いが。この世に迷う魂に、永遠の安息を与えてくれますように。

「さあ。――心を、撃たれろっ!」


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