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Chapter : 13 一蓮托生

夕暮れの中、墓を見下ろす時計塔を見つめる。そいつは、時を刻んでいる。

「待たせたな、とは言わないぜ。待ったのはオレの方なんだからな」

後ろから、友の声。振り返った。蓮の髪は、ほとんど真っ黒になっていた。

「……お前がマイナスなんて、夢にも思わなかったよ。俺と違って、上手だった」

どうりで、たまに記憶力が良すぎたり、女に冷めてたりするわけだ。

「オレは後天性だからな。資料は、自分の中にあった。……けど、そんなのただの偽物さ」

蓮は、右手の甲の痣を剥がした。タトゥーシール。固定概念が、疑いを逸らしていた。

レイの想いは強すぎて、この島のマイナス全員にまで力が及んでいた。だから蓮の下にも銃は降りて、時間を繰り返す現象が起きていた。……けれど、俺だけは、みんなと違う。

俺の下にだけ、運命で結ばれたレイが現れた。だから、時空の管理権は、俺にある。

俺がアゲインをした後、つまり主観が跳んだ後も、世界は続いている。そう聞いた。

主観が切れた俺は、他のマイナスのように、魂が切れたようになるのだという。

そんな俺を、蓮は助けようとした。けれど駄目だったらしい。たとえどんな手立てを取ろうとも、俺は星海祭かその翌日に死んでしまうのだ。マイナスの運命の悪戯で。

俺が死ぬと、蓮の意識はまた二月十一日の朝に戻る。どれだけ心を取り戻しても元通り。

やがて、蓮は気付いたのだ。この世界をどうにかできる主役は、自分ではないのだと。

「待つって、決めた。お前との約束だ。悔いはねぇよ。ぶっちゃければ、オレには世界が滅びようが何回繰り返そうが、そんなのはどうでも良かった。そういう生き物だからな。……けどな。どうしても、どうしても諦めらんねぇことがある。わかんだろ?」

ああ、と応える。空っぽのはずの俺に、唯一それが宿っていた理由。空っぽのはずの蓮に唯一宿った、月に抗い普通を演じる理由。二人だけが、世界を変えようとした理由。それは。

「どんな理由があっても、オレはお前だけは諦めねぇ! わかんだろ!? お前の憧憬は元々オレのもんで! オレの怒りはお前のもんだったんだ! お前だけは、唯一オレの対等なんだ! 得難いもんなんだよ! 大事なんだよっ! それまで失くしたら、人としておしまいだろうが! じゃあオレは何の為に生まれてきた!? 月を楽しませるために、生まれたってのかっ!?」

蓮は、激昂し泣いている。こいつももう、人に戻った。

「けど、オレが泣くのは、そんなことじゃない。一番悔しいのは、お前に、ダチに、こんな運命を押し付ける野郎を……ぶん殴る役目が、オレに、ないってことだ。……悔しい。悔しい!どうしてお前なんだ!? どうしてオレじゃないんだよ! オレに主役をくれよ! オレに、やらせてくれよ……。なんで、友達一人、救えないんだ、オレは……」

「違うっ! お前は役立たずなんかじゃない! 俺は覚えてる! お前の怒りを!」

あの日貰った、拳の意味。この世で唯一の、対等な怒り。

「お前だけが、俺を嫌えた! 本気で俺を殴れた! あの瞬間、俺たちは自由だったんだ! 平等なお前がいるからこそ、初めて俺は人になれるんじゃないか! 気付けよ! お前は主役だ! 俺に欠かせない、たった一人の親友だ! ……気持ちをくれ。お前が抱いた、心をくれ!俺は、怒りたい! 模倣じゃない! 心からあの月に、怒ってみたい! そんで、それを最後にぶつけてやる! 月が触手を伸ばすその時に、お前の怒りを届けてやるっ!」

来る。絶対に、月は来る。多重に心を取り込んだ今の俺は、心の怪物。

全てをぶち壊した時、欲しがりのあいつが、俺に手を伸ばさない訳がない!

「……そう、か。そういうのも、悪くねぇか」

蓮は、ゆっくりと天を見上げた。やがて顔を出す、二つの瞳を射抜くみたいに。

その顔にはもう、涙はない。

「お互い、ちっとは血が通ったみたいだな」

「まあね。少しだけ歳をとって、若くなった」

二人揃って、静かに笑った。

ああ、これなんだな、と思えた。

あのとき、最期に六花が見せたもの。ようやく、辿り着くことができて。

「なあ。……魂は、あると思うか?」

左胸を握りしめて、応えた。

「あるさ。もう、何があってもなくならない」

「そうか。……満足だ。諦めなかった、甲斐はあったよ」

蓮は右の親指で自分の心臓をとんとんと叩き、片目を瞑って微笑んだ。

「持ってけ。……じゃ、またな」

「……ああ。またな」

握手を交わすみたいに、引き金を引いた。

人差し指に、かかった重み。

親友の二十一グラムは、確かに人の重さだった。


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