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オーバーフロー 〜レベル0のままだと思ったらカンスト超え65536でした〜  作者: 月影光貴


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第2話 守る理由

 校庭の真ん中に鎮座した黒い裂け目は空間を喰らう様に広がり続ける。皆は恐怖に怯えて声を上げた。


 零も心の中で困惑している。

 空間がヒビ割れているんだ理解が追いつくはずもない。それにヒビの中から何かがこっちに走ってきている。

 

 クラスの教師ですら窓から見て絶句、圧倒的な非日常に息を飲み言葉を失って何も出来ない。


 そうしていると再度、警告音が鳴り響く。


——

【VOID発生】


発生地点:星ヶ原高校


脅威レベル:F


推奨レベル:11~50


レベル11以上の方は避難支援を推奨します。

——


 またこの表示だ。慌てふためく生徒たちは教師の方を見て言う。


「先生!」


 北川も額に汗を浮かべながら叫ぶ。


「全員落ち着け! 廊下に出なさい、体育館に避難するぞ!」


 


 教室は一瞬で混乱に包まれた。

 椅子が薙ぎ倒され、机にぶつかり、教室の2つの出入り口に殺到する。

 その間に零は念の為木刀をケースから出して握り覚悟を決めると異変が起きた。


——

条件を達成しました。

努力を確認。

適性を確認。

パッシブスキルを獲得します。

【装備強化(耐久)Lv1】

——


 なんだこれは……? 木刀が真紅に染まった……? スマホから勝手にホログラムの様に空中に表示された。

 だが、みんなは出ようと必死にするあまりこちらに気づいていない。

 聞こえてくるのは怒声だけだ。

 

「押すんじゃねえ!」 「いてぇ!」 「早く!」


 教師が落ち着けと言おうとする時だった。


 ガシャァァアン!!


 一階の窓ガラスが次々と割れる音が校舎に響く、投石されている様だと零は判断し身をかがめた。

 校舎のあちこちから悲鳴が上がる。零は背中に冷たい汗が流れる。


「……遂に来た」


 零は唾を飲み込む。先生や生徒はスマホが圏外な事に慌てふためく。


「圏外だ!」 「なによこれ!」


 そうしていると奥の方から女子生徒が泣きながら走ってくる。


「誰かぁー!! ば、化け物が〜!!!」


 その背後には、身長1メートルほどの緑色の子鬼が短剣と盾を握り追いかけていた。


「ゴブリン……? 先生! 早く避難を!」


 ゲーム好きの零はすぐに判断出来た、その化け物が醜いゴブリンだと。

 だが画面越しの綺麗な見た目とは違った。

 血走った黄色い瞳。

 錆びた刃。

 生臭そうな涎に息。

 紛れもなく現実にいる本物だった。


「きゃああ!!」


 一年生の子が転んでしまった。そこに追いついたゴブリンはニタニタと剣を振り上げた。

 誰もが唖然とし助けに行けなかったその中で、零だけは真紅に染まった木刀を握りしめ、踏み込み飛び出す姿勢を取った。


 俺はレベル0でも剣道日本一のフィジカルなんだっ! 俺が守らなければ誰が動く?


 零はいつも弱者を守るのに命をかけてきた、自身が弱者だった時誰も助けてくれなかったからだ。

 だからレベルが0で守られるべき立場としか思えない状況でも誰よりも先に動いた。


 パァンッ!!


 鋭い打突音が響く。ゴブリンの手からは短剣が弾き飛ぶ。


「ギギッ!??」


 ゴブリンは盾で零の一撃を耐えると、木刀を押し返してきた。

 そこに集中した奴の足を払い、転ばす事に彼は成功した。


「そこだァア!!!」


 そのままの勢いで喉元に突きをし、仰け反ったところを脳天をカチ割る様に木刀を振り下ろした、こんな乱雑に扱えば壊れる筈なのにと零は疑問に思うとスマホが鳴った。


——

初討伐を確認。

経験値取得。

レベルアップ……

ERROR

ERROR

表示異常。

レベル計測不能。

取得処理を中断します。

——


「はぁ、なんだよ。マジでレベル0のままかよ」


 本人は不貞腐れているが遠目に見ていた周りは唖然としていた。

 何せさっきまでバカにしていたレベル0が強かった事に。

 零はそんな事に気づかず彼女を立たせた。


「大丈夫?」


「あ、ありがとう……ございます」


 小柄な少女は零の手を借りて立つ。

 茶髪で腰までのロングヘアにタレ目気味の可愛らしい子だった。


 身長約60センチの差、まるで兄妹だ。


「怪我は?」


「ありません……」


「よかったぁ」


 零は自分の事の様に安堵し胸を撫で下ろす。


「上履きの色的に一年生かな?」


「……はい」


「ちなみに名前は?」


 彼女は目を擦り答えた。


黒瀬初音(くろせはつね)……です」


「俺は梶原零だ。一旦は話は後だ、早く俺らもさっさと避難だ!」


 人の命を救えたことにまた胸をなで下ろし、零の顔に笑みがこぼれた。そしてスマホからまたエラーのホログラムが出てきた。

 そこには0レベルの記載もあった。それに初音は理解できなかった。


 レベル0? あの動きで? あの一撃の威力で?

 あり得ない……この梶原零という男は何なんだ?


 その目は先ほどの恐怖に震えた目と違い、零を研究対象として興味津々との目になった。


 そんな事に気づきもせず複雑な目でゴブリンの遺体を見る、彼はどんな生き物でも殺したくはなかった。


 そしてスマホはエラーをまた連発し頭を抱えていると校庭の方からは十数体のゴブリンの咆哮が響いた。

 零は再度静かに木刀を握り直した。


「……そりゃあ一体な訳ねぇもんな」

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