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第54話:信じられる?

春休み前の平日の夜に、久しぶりに美桜みおの家に行くことにした。


「あら、夏樹君。久しぶりね。ここのところは美桜みおとの勉強会も中止になっていたみたいで心配していたのよ」


玄関では美桜みおの母親が対応してくれた。


「すいません、いろいろとありまして。また再開したいなと思っています」

「そうなの?良かったわ。どうぞ上がって」

「はい、おじゃまします」


靴を脱いで、家に上がったところで母親が振り返って聞いてきた。


「せっかく久しぶりにまた来てくれたんだし、今日は泊まっていく?」

「そうですね。話が長くなったらよろしくお願いします」

「まぁまぁ。遠慮しなくてもいいからね」


母親は美桜みおの部屋まで案内してくれた。


美桜みお~。友達が尋ねてきたわよ」

「えー。誰?」


と言いながら美桜みおは部屋の扉を開けた。


「よう、美桜みお。待たせたな」

「なー!」


扉が急に閉まってしまった。


「あれ?閉められてしまいました」

「どうしちゃったのかしらねぇ。ずっと待っていたはずなんだけど」

「いきなりすぎ!事前に連絡してよ!準備があるの!」

「そうか。じゃぁ明日に出直すか」

「待って待って。すぐに準備するから」


ドタドタと音がしたあと、部屋の扉が開いた。


「お待たせ」

「じゃぁお母さん、美桜みおと話をさせてもらいますね」

「ごゆっくり~」


□▲□


「宮沢さんが最近はずっと学年1位をとっているという噂を聞いたわ」

「そうか」

「あれって、夏樹が手伝ったんでしょ。一時期噂になっていたし」

「そうだな。俺なりに向き合った結果ということになるな」

「もういいの?」

「手伝ったのは二学期の期末までだよ。あとは宮沢さん自身で達成しているよ」

「料理部の後輩も、もういいの?」

「あぁ、4月からは先輩として指導できるようになったよ」

「宮沢さんも後輩も、とても可愛い子だったのに、いいの?」

「小学校のときにとても仲の良かった幼馴染がいたんだよ。中学になって、その子はすっかり可愛くなったのに俺はモブだったから話かけれなくなったんだよね。でもちょっとした出来事があって、もう二度と会えなくなるかもしれない状態になってしまって。そのときに頭の中に浮かんできたのは、その幼馴染だったんだ」

「まるで恋愛映画みたいね」


でも好きという感情に気づいたのは体育館で応援したときだった。俺はモブだから、そして幼馴染としての関係を優先するためという理由でその時はその感情を否定した。でも本当は不安だったから否定したのかもしれない。美桜みおと恋人になれる可能性を信じきれなかったから。


美桜みおから好意を寄せられているのでは?という期待というか願いはあった。それでも信じきれなかったのは、おそらく一回目の記憶があるからだと思う。二回目だからこそ過去の失敗をやり直せたけど、一回目のモブとしての高校時代、そして大学時代でも彼女ができなかったという経験が、確かに俺のなかに存在する。その経験は俺の心の中で「しょせんは俺はモブなんだ。そんな可愛い子とつきあえるわけないだろ」と今もささやいている。でも、今は可能性を信じて、意を決して告白をした。


「俺は美桜みおのことが好きなんだ。幼馴染としてではなく恋人として一緒にいさせてほしい」


あとは祈るだけだ。


「うん」


美桜みおはとても嬉しそうな笑顔でOKしてくれた。その嬉しそうな笑顔を見ただけで、本当に好意を持ってくれていることを信じることができた。


「よかった~」

「どうしたの?私がOKすることなんてわかっていたんじゃないの?あれだけアピールしていたんだから」

「それでも俺はモブだからさ。返事をもらうまでは信じられなくて」

「夏樹がモブ?そもそもそこから勘違いしてない?いずれにしてもモブかどうかとOKかどうかは関係ないでしょ」

「そうだな。OKがもらえたんだ。モブかどうかはもうどうでもいいや」

「うん。これからもずっと一緒にいようね」


美桜みおは俺の方に寄りかかってきてくれた。しかし、俺にはもう一つ話をしておかなければならないことがあった。


ドサッ


「なにかな?この紙の束は?」

「小テストだな」

「今、この話の流れで、これを出す必要あるの?」

「これもとても重要なんだよ」

「なんでよ」

「このままだと同じ大学に行けないだろ」

「えっ、別に同じ大学に行けなくても...」

「今、ずっと一緒にいるって言ったよね」

「うっ」

「だからはい。今日から勉強会を復活させるよ」

「えー。夏樹が私に合わせて大学を変えれれば良くない?」

「あのなぁ。前に見た映画忘れたの?主人公は仕事が忙しくなって、相手と疎遠になったよね。俺がブラック企業に入ったら同じようになるかもしれないだろ。偏差値高い大学に行ってホワイト企業に入るの」

「そんなぁ。いくらなんでも夏樹の成績まで上げるのは無理だよ」

「同じ大学でも学部によって差はあるから、そこまで上げなくても大丈夫。それに俺と一緒に勉強したあの宮沢さんは一位を取ったんだよ。美桜みおも同じようにアップできるよ」

「でも噂では、凄いスパルタだったらしいじゃない」

「つべこべ言わないの。今日は泊まっていくから、ずっと勉強できるよ?前に泊まっていくって聞いてくれただろ?」

「そういう理由で言ったんじゃないから!鬼!」


今の俺は、美桜みおとの将来を、ハッピーエンドになる未来を信じることができるようになっていた。

この話で完結となります。ここまでお読みいただきありがとうございます。よろしければ評価、感想などを頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
 とても楽しく拝読させて頂きました。素敵な物語をありがとう御座いました。  映画の件では『花束みたいな恋をした』と言う作品を思い出して当時のモヤッと感を追体験し、その上でそれをキッチリ乗り越えた、綺麗…
最高だったけどこれからは夏樹たちを見れないのがひたすらに悲しい
過去作が失敗だなんてとんでもない。 どれも楽しい作品でしたよ。 途中で投げ出さないで、きちんと最後まで書けるところはとても偉いと思います。それが出来ない作家がどれだけ多いことか。 これからも頑張ってく…
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