第1話:異世界
全52話で完結予定です。よろしくお願いします。
俺は大学4年生になり就職活動で忙しい日々を送っていた。偏差値のあまり高くない大学だからなのか、なかなか内定がとれなく、この日も夜遅くまで大学で対策を検討していたのだった。高校時代の知り合いと少し話をする機会があったのだが、偏差値の高い大学に行った奴は、教授推薦で一部上場企業の内定が取れたらしい。俺ももっと高校のときに勉強しておけば良かった。でも今はそんな過去を悔やんでいても仕方がない。この就職活動をなんとかしなければ。
帰宅するために夜の人気のない大学キャンパス内を歩いていると、足元に魔法陣のようなものが輝きだした。何が起きたんだ?と思う間もなく目を開けていられないぐらいの光に包まれた俺は、気がつくと真っ白な世界にいた。
「最上夏樹さん、神の世界へようこそ」
「えーと、これは一体?私は死んでしまったのでしょうか?」
「いいえ、私の管理する世界で異世界召喚が行われたのです。異世界召喚では特別な職業に就くのがならわしとなっているので、異世界に転移する前にこの神の世界に来てもらいました」
「その前に、私は元の世界に戻れないのでしょうか?」
「残念ながら、すでに召喚されてしまったため、今すぐには戻れません。そのかわり平和を取り戻してもらえれば、元の世界の元の時間に戻すことを約束します。」
「平和を取り戻すといっても、普通の大学生にそんな大層なことはできないと思いますが」
「そのために特別な職業をあなたに授けます。最高の剣術を持つ剣聖、最強の魔法を持つ賢者、万能の治癒力を持つ治癒師など、望み通りの職業が可能です」
「それでは、最高の交渉力を持つ交渉人でお願いします」
「交渉人ですか?」
「力で平和を取り戻すのではなく、交渉によって取り戻した方が無駄な血を流さなくて良いですよね?」
「なるほど、それも一理ありますね。それではあなたには交渉人になってもらいましょう。それでは私の世界をよろしくお願いします」
俺は再び光に包まれた。
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気がつくと俺は石でできた床の上に寝ていた。どうやら神の言っていた異世界に転移したらしい。起き上がって周りを見てみると、石造りの大きな部屋で天井もかなりの高さがある。部屋の壁や天井にはいろいろな装飾が施されていて、特別な大広間と言った感じだ。自分は十人ぐらいのローブを被った人に囲まれていて、後方には玉座のようなものがある。その玉座には大柄な男が座っている。おそらく王様なのだろう。
「異世界召喚が成功したぞ!」
「よくやった。早速鑑定をするのだ」
「職業は交渉人のようです」
「交渉人?。なにか強力な攻撃が可能なのか?」
「いえ、攻撃力は0です。相手との話し合いが得意のようです」
召喚が成功して嬉々とした表情をしていた王様だったが、とたんにがっかりとした表情に変わった。
「魔族国を討伐するための召喚人だったのに、交渉人とは」
「しかし討伐パーティに召喚人を加えるのは神託で決まっています」
王様の表情が苦虫を噛み潰したようなものに変わる。
「仕方ない、討伐パーティに加えるとしても、そのままというわけには行くまい。2年間の特訓を受けてもらったあとに討伐に向かってもらおう」
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それから2年間は基礎体力の向上から体術の訓練、剣の特訓、魔法の特訓と地獄のような日々が続くこととなった。なにしろ回復魔法があるので限界を越えて訓練できるのだ。なんでそんな訓練を?と思うかもしれないが、元の世界に戻るためには交渉を成功させるのはもちろん、その交渉の場に辿り着く必要がある。その前に死んでしまっては何にもならないので、この特訓を耐え抜く以外の選択肢はなかったのだ。
「ドレイク教官、2年間の特訓ありがとうございました」
「ナツキ、よく耐えたな」
ドレイク教官の訓練はとても厳しかったが、元の世界に戻るためと思って必死に頑張ってきた。ただ自分でもなぜ元の世界に戻りたかったのかはよくわからなかった。戻るといっても、大学四年生の就活に戻るだけだ。恋人がいたわけでもない。ただ、もしかして元の世界にはもう戻れないかも?と思ったときに、ふと頭の中に浮かんだのは幼馴染のことだった。幼馴染といっても仲が良かったのは小学校ぐらいまでで、中学、高校とだんだんと疎遠になって大学では離れ離れになっていたが。
「特訓は終えたが、ここからが本番だな」
「はい教官。これから魔族国に向かわなければならないですから」
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2年間の特訓のあと、俺は王国の王城から討伐パーティのメンバーとして魔族国に向かって出発した。しかし魔族国に入る前の王国内での旅程中ですらトラブルだらけだった。討伐パーティに取り入ろうとする者、反対勢力がしかける罠、討伐パーティの持つ装備などを盗もうとする者、とにかくありとあらゆるトラブルが発生した。討伐パーティのリーダーは王子だったが、トラブルへの対応力は皆無で、他のメンバーも全くサポートする気がなく、俺がすべてのトラブルの対応をするはめになった。対魔族として特訓した体術、剣や魔法だったが、王国内の敵のために必要だったのでは?と思うぐらいだった。
魔族国に入ってからも大変だった。討伐パーティのメンバーは魔族を討伐することしか考えていなかったのだ。しかし俺はなんとかして交渉によって平和を取り戻したかった。メンバーをなんとか説得し、相手の魔族とも何度も交渉しながら魔族国の首都までたどり着き、そこから長い時間をかけて魔族側と交渉を続け、なんとか相互不可侵条約を締結することができたのだった。
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相互不可侵条約を締結したことにより、王国と魔族国の戦争が終了し双方の国には平和が戻った。しかし俺の王国における評価はとても低かった。王国は元々は魔族国を討伐したかったのだが、俺が何度も交渉して条約締結での幕引きで決着させたのだ。勝利したわけではないので、条約締結のためには王国側に不利な条項についても認める必要があった。このため王国内部には俺を快く思っていない人が多くいた。それでも、国民には勝利したように振る舞わなければならない。戦勝パレードが行われ、祝勝会も大々的に開催された。俺も祝勝会には形式上は主賓として招待されたが、最初に紹介の場があっただけで、あとは戦勝のメンバーとしては扱われなかった。
祝勝会の途中で、俺は会場となった宮殿の庭に出て少し歩いた。するとそこには、小さな魔法陣が芝生の上で光っていた。
「ナツキ、行くのか?」
振り返るとドレイク教官だった。
「はい、任務は達成しましたから」
「神に望めば、この世界に住み続けられるんじゃないのか?」
神からは元の世界に戻らずにこの世界で住み続けることもできるとは説明を受けていた。
「はい。望めばずっとこの世界で住むこともできます」
「それなら、なぜ元の世界に戻るんだ?お前だって討伐パーティの一員なんだから英雄として扱われるはずだろ。」
討伐パーティの一員ということで英雄扱いしようとする動きもあり、快く思っていない人達と衝突する可能性もあった。
「俺がこの世にいると、いずれ厄災の種となるかもしれません。苦労してこの世界に平和が戻ったのに、また失われてしまっては意味がないですから」
「そうか、もう何も言うまい。俺はナツキのおかげでこの国に平和が戻ったと思っている。ありがとうな。」
「教官もお元気で」
俺が魔法陣の上に乗ると、魔法陣の輝きが増し、周囲を光で埋め尽くした後に消滅した。
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神 Side:
最上夏樹さん、あなたのおかげでこの世界に平和が戻りました。褒美としてあなたの願いを叶えてあげましょう。今度は離れ離れにならないようにしてくださいね。
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