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千年物語~戦場に降りた舞姫と4人の後悔の果て~  作者: しょうじ
第2章:義妹の章

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9/15

2-2 贖罪の始まり

今回は、義妹の「ささやかな変化」のお話です。

2-2

冬祭りが終わり、家へ帰る。

そこには、いつも通りの少女がいた。

粗末な服。

布を巻いた頭。

伏せられた視線。

顔色も悪い。

舞台の上にいた少女とは、あまりにも違っていた。

一瞬、本当に見間違いだったのではないかと思うほどだった。

だが――

化粧道具が少し減っている。

受け取った荷物の中には、少女が着ていた衣装も混ざっていた。

(……間違いない)

そう確信する。

だが同時に、強い恐怖も湧き上がった。

(もし母に知られたら……)

折檻程度では済まない。

そう思い、義妹は誰にも話さなかった。


数日後。

母が、いつものように少女を叱りつけていた。

「役立たずが!」

その言葉が、胸に刺さる。

以前なら、聞き流していた。

何も感じないようにしていたはずだった。

だが、その日は違った。

胸の奥が、強く軋む。

(これが……今までの私だったんだわ……)

その認識が、はっきり浮かぶ。

気づけば、口が動いていた。

「……お母さま、そこまで言わなくても」

自分でも驚くほど小さな声だった。

唇が震えている。

母の視線が、ゆっくりこちらを向く。

空気が、一瞬で張り詰めた。

(言ってしまった……)

十年以上続いた、この家の空気。

その暗黙の流れを、自分は壊してしまった。

即座に理解する。

(――それでも、もう……)

母が口を開きかける。

その瞬間――別の使用人が声をかけた。

母の意識が、そちらへ向く。

張り詰めていた空気が、わずかに解ける。

義妹は、その場を離れた。

少女も、何事もなかったように仕事へ戻った。

ただ、一瞬だけ。

少女が、義妹を見た。

視線が交わる。

だが、すぐ逸らされた。

その目が何を意味していたのか、義妹には分からない。

それでも――

胸の奥では、はっきり決まっていた。

(もう、同じことは繰り返したくない……)

(たとえ、今さらだとしても……)

それが、義妹の贖罪の始まりだった。


それから義妹は、少しずつ少女へ話しかけるようになった。

母の目を盗みながら。

母がいない時。

仕事の合間。

ほんの短い隙を見つけて、少しずつ言葉を差し込む。

一気に距離を縮めようとはしなかった。

そんなことをしても、逆に警戒されるだけだと分かっていた。

「……いつも、ありがとう」

最初は、それだけ。

少女は、わずかに視線を揺らした。

「いえ……」

肯定とも否定ともつかない、小さな返事。

警戒が滲んでいる。

ある日、重い水桶を運ぶ少女へ声をかけた。

「……それ、手伝おうか」

少女は、一瞬だけ目を見開き、すぐ視線を逸らす。

「いえ……結構です……」

微かな声。

だが、はっきりした拒絶だった。

身体も、わずかに後ろへ引いている。

無意識に距離を取ろうとしているのが分かった。

そのたびに胸が痛んだ。

鈍い痛みが、奥に広がる。

(……当然よね)

(今まで、あれだけ傷つけてきたのだから……)

少女の反応そのものが、自分の罪を突きつけてくる。

何度も思った。

(今さら、やり直せるわけがないわよね……)

だが、そのたびに考え直す。

(違う……)

(できるかどうかじゃない――)

(私が、やるって決めたんだ)

だから諦めなかった。

急がず、変に踏み込まず、同じ距離感を保つ。

必要以上のことは言わない。

ただ、少しずつ声をかけ続ける。


やがて――

少女の返事が、少しだけ変わり始めた。

「はい」

「大丈夫です」

短い返答。

それでも、最初の頃より柔らかい。

声の硬さが、少しずつ薄れている。

目を合わせる時間も、ほんの少しだけ増えた。

その小さな変化が、義妹には嬉しかった。

胸の奥が、静かに温かくなる。

(もしかしたら……)

(いつか、昔みたいに……)

そんな希望が、少しだけ芽生え始めていた。

次回【2-3 初めての反抗】は、本日19時に公開予定です。

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