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千年物語~戦場に降りた舞姫と4人の後悔の果て~  作者: しょうじ
第1章:少女の章

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1/14

1-1 何も望まない少女

作者のしょうじと申します。

『千年物語~戦場の舞姫と4人の後悔の果て~』を始めます。

おそらく人生初にして、唯一の作品だと思います。


キーワードに「ダーク」と入れた瞬間、

【自分にとってダーク(黒歴史)になるのでは?】

と、思いました。不安でいっぱいです。


まずは、『第1章:少女の章』のスタートです。


約1か月ほどで完結(全話公開)します。

一日2話。朝夕に公開。

1話5~10分程度が多いです。


よろしくお願いします。

1-1

『君の心には、何も見えない……』

『――生きようとする意志すら』

『それでも、願いはあるはずだ……』

『教えなさい』

そんな夢を見た翌朝――

少女の手の中には、小さな袋があった。

中には、淡く光る粒。

――見たことのない、不思議な薬。

少女は、それをしばらく見つめていた。

(……願いなんて、分からない)

そう思いながら。

これは、名も残らぬ時代を生きた、ある五人の話。

人は、大切なものを失って、初めてその重さを知る。

それを、何度も繰り返してきた。

この話も、その一つ。


――――――


ある寒い朝――

少女は、まだ暗いうちに目を覚ます。

外は静かだった。

壁の隙間から入り込む夜気は冷たく、室内の空気も底から冷え切っている。

鳥の声も、まだない。

夜と朝の狭間――どちらにも属さぬ時間。

少女は、音を立てぬよう、ゆっくりと上体を起こした。

敷かれた布は薄く、身体の熱をほとんど残していない。

冷えた床に足を下ろした瞬間、全身が震える。

「――ッ……」

わずかに息を呑み、少女は黒髪を布で覆う。

髪が擦れる小さな音さえ気になる。

身につけた服は、何度も繕われた粗末なものだった。

袖口は継ぎ足しだらけで、布の色も場所ごとに違う。

固くなった縫い目が肌に当たる。

(早く動き出さないと……)

少女は寝床である小屋を出て、母屋へ向かった。

桶の水で顔を洗う。

刺すような冷たさに、一気に意識が冴えた。

そのまま大きな桶を持ち、井戸へ向かう。

乾いた木肌が、指先に引っかかる。

(今日も、先に済ませておかなければ……)

彼女たちが目を覚ます前に。

機嫌を損ねる前に。


外はさらに冷え込んでいた。

空はわずかに白み始めているが、朝の光はまだ弱い。

吐いた息が白くほどけ、すぐ消える。

井戸の縁に手をかけると、石は冷え切っていた。

少女は静かに桶を下ろす。

水面に触れる音が、小さく響いた。

少女は反射的に家の方を見る。

(……良かった)

特に変化はない。

安堵しながら、縄を引く。

荒れた指に、繊維が食い込む。

水の重みと共に、指先に痛みが走る。

冷えた縄は硬く、指先の感覚まで奪っていく。

それでも、少女は手を止めない。

音を立てぬよう、一定の速さで引き上げる。

細い腕が、わずかに震えた。

(落としたら……起きてしまう)

そう思うだけで、力が入る。

少女は何度も水を汲み、ようやく朝の仕事を終えた。

次は、かまどに火を入れる。

薪を選び、細い枝から組み上げる。

時折、ささくれや棘が指に刺さった。

火打ち石を打つ。

小さな火花が散る。

その音さえ抑えるように、慎重に打ち続ける。

やがて火が移った。

ぱちり、と小さな音。

頼りない炎が、ゆっくり広がっていく。

少女は、その小さな火を見つめた。

手をかざすと、わずかな熱が返ってくる。

冷え切った指先に、少しずつ感覚が戻った。

たったそれだけで、張り詰めていた心が微かに緩む。

「……暖かい」

かすれた声が漏れた。


その時だった。

家の奥で、床板が軋む音がする。

少女の身体が強張った。

指先に力が入り、動きが止まる。

(遅れてはいけない……)

(何もしていないと思われたら……)

足音が近づいてくる。

一定の間隔。

迷いのない足取り。

少女の喉が、小さく鳴った。

(先に言わなければ……!)

ためらえば、それだけで機嫌を損ねる。

少女は振り返り、深く頭を下げた。

「おはようございます、お義母さま……」

声が、わずかに震える。

義母は足を止め、少女を見下ろした。

床、桶、かまど、少女の身なり――粗探しをするように視線が動く。

わずかな沈黙。

少女は息を詰めたまま、頭を下げ続ける。

(何もありませんように……)

背中に、じわりと汗が滲んだ。

やがて義母が、小さく鼻を鳴らす。

「……ふん、今日は早いのね」

「何か企んでないかしら?」

咎める理由は見つからない。

それでも、何か言わずにはいられない――そんな声音だった。

(良かった……)

少女は、ほんの少しだけ力を抜く。

だが、まだ顔は上げない。

その時、奥の部屋から別の声がした。

「どうせ何をしても同じですよ、お母さま」

「お義姉さまのやることなんて」

軽やかな声。

明るい金髪が揺れ、朝の薄明かりを受けて淡く光る。

整えられた衣服は、少女のものとはまるで別世界だった。

少女は、一瞬だけ義妹へ目を向け、すぐに目を伏せる。

「それより、お義姉さま、今朝の支度は?」

「すぐに準備します」

少女は火加減を調整し、鍋の位置をずらした。

湯が静かに温まり始める。

朝が来る。

いつもと同じ一日が始まる。


少女は、特別なことを望まない。

(ただ今日が、静かに終わればいい……)

それだけだった。

(それ以上を望めば、失うだけ……)

その考えが、心に深く染みついていた。

だがある日、少女は手に入れる。

淡く光る、不思議な薬。

それが――

すべての始まりだった。

次回【1-2 白い夢の中で】は本日19時ごろの予定です。

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