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第二話 ナスカ

画面の中の“それ”は、まだ動いていた。


ゆっくりと。

確実に。


「……止まってない」


トシノリは、スマホを握りしめる。


ニュース映像。


上空から映された巨大な地上絵。


だがそれは、既に知られているものじゃない。


線が、増えている。


書き換わっている。


「リアルタイムで……変化してる?」


ルルが、静かに頷く。


「うん」


「しかも、これ――」


一瞬、言葉を選ぶ。


「誰かが“描いてる”」


トシノリの背中に、冷たいものが走る。


「……誰が」


ルルは、首を振った。


「まだ分からない」


ただ、と続ける。


「一つだけ確かなことがある」


画面を指差す。


「これはただの地上絵じゃない」


「ナスカの地上絵の“使い方”が変わってる」


トシノリは目を細める。


「使い方……?」


ルルは、小さく息を吸った。


「本来、あれは“上から見るためのもの”」


「つまり――」


一拍。


「“見せるためのもの”」


その言葉に、トシノリはハッとする。


脳裏に浮かぶのは、あの“目”。


見ていた。


確かに、こちらを。


「……じゃあ、今のこれは」


ルルの声が、わずかに低くなる。


「逆だよ」


「これは――」


「“見せられてる”」


空気が、凍る。


その瞬間。


画面の中の線が、大きく歪んだ。


一気に、形を変える。


「っ……!」


トシノリの指が、わずかに震える。


完成しつつある“それ”。


規則的で。

意図的で。


意味がある。


「これ……文字か?」


ルルは、すぐには答えなかった。


ただ、じっと見つめる。


そして――


「文字に見えるように作られてる」


「でも違う」


「これは……」


言葉が止まる。


「何なんだよ」


トシノリの声が、少し荒くなる。


ルルは、ゆっくりと答えた。


「“座標”」


一瞬、意味が理解できない。


「は?」


「場所を示してる」


「どこかを指してる」


トシノリの心臓が、大きく鳴る。


「……どこだよ」


ルルは、静かに首を振る。


「それは――」


その時だった。


画面が、一瞬だけ乱れる。


ノイズ。


映像の歪み。


そして――


別の映像が、差し込まれた。


海。


どこまでも広がる、深い青。


その中央に――


何もない空間。


だが次の瞬間。


船が、一瞬で消えた。


「……今の」


トシノリが息を呑む。


ルルが、低く呟く。


「バミューダトライアングル……」


「やっぱり繋がってる」


トシノリの中で、何かが繋がる。


ナスカ。

海。

消失。


「……誘導されてるのか」


ルルが、こちらを見る。


「誰に?」


答えは、分かっている。


だが、口にするのが怖い。


それでも――


トシノリは、言った。


「観測者だ」


静寂。


その瞬間。


また、あの声が響く。


「――理解、開始」


まるで、試されているように。


トシノリは、ゆっくりと立ち上がる。


「ルル」


「うん」


「行くぞ」


迷いは、なかった。


「どこへ?」


トシノリは、画面を見る。


書き換わり続ける地上絵。


その中心。


「決まってる」


「あそこだ」


画面の中で、“座標”が完成する。


それは――


ナスカを指していた。

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