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稲荷神専用の特別空間
朱色の鳥居が天空に繋がる様に並びたち、稲穂が風に揺れている。大小様々な社が自由に存在し、淡い狐火が揺らめく。
子狐が駆け回り、大人たちは稲荷揚げをつまみに、酒を酌み交わす。
会話の内容からは、自分の社は参拝が少ないだの、狛犬ならぬ狛狐に悪戯されたので、ちょっと懲らしめただの、たわいのない会話だ。
そんな空間の端、二神の狐が人の姿で茶席を催していた。
1人は手紙によって呼び出された白狐。もう1人は、白狐の先輩にあたる……
「久しぶりやなぁ、白狐。元気にしといでやったか?」
「先輩も、相変わらずお元気そうで。突飛な用件を投げてきはるんは、相変わらずどすなぁ」
お互いのぐい呑みに酒を満たし、静かに乾杯を交わす。
「で、あの手紙はなんですの。定期購入やなんて、日本にいはるんやったら自由に買わはれるでしょ?」
「まあ日本に居ればそうかもしれん。今ウチが居るんは、別世界やさかいな」
「は?」
目の前の相手の発言に、口に運ばれていたいなり寿司を箸から落とす。
「なにしといやす。そんなに驚かはることかいな?」
「いやいや、そりゃ驚きますやろ。さらっと爆弾発言しはるんは堪忍してほしいわぁ」
小皿に落ちたいなり寿司を改めて口にする。
「先輩は今、どこに籍を置いてはるんどす?」
「住処か? 多次元にある惑星なんやけどな、愉快な仲間と暮らしとるんえ」
(先輩が考えてはる『愉快な』なんて、周りから言わせてもろたら、厄介事でしかないんと違いますやろか)
「それでな、その惑星に住んでみたんやけど、文明が未成熟でなぁ。そうなってくると、色々と不便なことが起きてしもて」
「あぁ、なんとなく分かりましたわ。日本に住んではったんやったら、衣食住がきっちりしてますもんねぇ。まあ、今のウチの職場は物流の中心どすよって、何の問題もあらしまへんけど」
にっこりと笑う白狐に、そうやろなぁという視線を向けながら、白狐の先輩にあたる人物が口を開く。
「でな、ここからが相談なんやけど、ウチらの惑星の商会に品物を卸してほしいんや。もちろん、白狐から買い取るっていう形でな」
「もしかせんでも、ここの流儀をご存知どすの?」
「当たり前や。契約を結ばなあかんやろ。そんな手間かけるより、白狐に手数料払うた方が、幾分ましやさかい」
先輩の考えに同意しながら、話を詰める。
「で、どの品物がどれくらい入用どす?」
「必要なもんの詳細は、別の者に通信させるわ。稲荷通信でな」
「分かりました……って、先輩以外の稲荷族もいてはるんですか?」
「そうや。そのうち、日本の風土性が確立されたら、地球から色々と持ち込むつもりなんや」
にっこりと笑う先輩こと、カザミは、酒を呑み干すのだった。




