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『辺境伯夫人の安眠計画 〜二度寝を邪魔する「破滅フラグ」は、この手で叩き潰させていただきます〜』  作者: こもり詩


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第6話:至宝の安眠崩壊、あるいは過保護という名のバグ

モンスター襲来の翌朝。 私が期待していたのは、「敵を撃退したし、今日は一日中泥のように眠れる」という平和な二度寝タイムだった。


だが、現実は残酷である。


「奥様! 起きてください! 旦那様が……旦那様が大変なことに!」


メイドのアンの叫び声と共に、私の最高級シルクの布団が物理的に剥ぎ取られた。


「…………(殺意)」


【現在の精神状態:睡眠不足により凶暴化中】 【警告:血圧が急上昇。速やかなリラクゼーション(再入眠)が必要です】


殺気立った目で廊下へ出ると、そこには異様な光景が広がっていた。 旦那様――カシアンが、鎧姿のまま廊下に膝をついている。その背後には、昨日の戦闘から生還した騎士たちがずらりと並び、まるで聖地巡礼のような厳かさで頭を下げていた。


「リゼット……昨日の君の祈り、確かに届いた。君が命を削って我々に加護を与えてくれたおかげで、一人の犠牲者も出さずに済んだ」


(重い。朝一番から感謝のパワーが強すぎて胃がもたれるわ、社長)


カシアンの緋色の瞳は、かつてないほど潤み、強い「義務感」という名の不穏な光を秘めていた。


「確信した。君は……この領地を救う『至宝』だ。もはや、君をただの妻として安穏と屋敷に置いておくわけにはいかない」


(……は? 今、なんて? 窓際族から花形部署に強制異動ってこと?)


「君の身を狙う魔物や、その力を利用しようとする賊が増えるだろう。今日から君の部屋の前に、24時間体制で精鋭騎士を配備する。さらに、君の健康を領民全員で祈念して、朝夕の鐘を倍に増やすよう命じてきた」


【設計図からの通知:安眠環境の壊滅的悪化】 ・24時間警備:鎧の擦れる「ガシャガシャ音」による騒音ダメージ継続発生 ・鐘の増加:安眠妨害フラグの乱立 ・至宝扱い:公務(面会・接待)の発生確率 90%


「……ちょっと、待ってくださいませ」


私は、消え入りそうな声(※本気で絶望した声)で反論を試みた。


「私はただ……皆様の無事を祈っただけで……そんな大層なことは……」 (※本音:自動命中補正のパッチを当てただけ。これ以上タスク(鐘)を増やさないで!)


「その謙虚さこそが貴き魂の証……!」


騎士たちが一斉にガシャン!と地面に拳を突く。……ダメだ、この組織、末端の現場社員まで完全に『奇跡』という名のオカルトを信じ切ってるわ。


そんな中、壁際に控えていたジャネットが、冷めた紅茶のような声で口を開いた。


「旦那様、奥様は大変お疲れのようです。あまり大勢で押し寄せると、また『魔法の陣でも描いているかのような指の震え』が再発してしまうかもしれませんわ」


(ジャネット、それ助けてるようでトドメ刺してない!? 私が裏で指を動かして術式を組んでたの確信して言ってるでしょ!?)


カシアンはハッとした顔で立ち上がった。


「そうだった……リゼット、無理をさせてすまない。今はゆっくり休むといい。……ああ、食事も体に障らぬよう、特別に薄味の、滋養のみを考えた献立を用意させよう」


(待て。脂ぎったステーキが食べたいのよ。精進料理じゃ社畜のHPは回復しないの!)


嵐のような「感謝の押し売り」が去り、ようやく部屋に静寂が戻った……かに見えた。 だが、扉の外からは「ガシャン……ガシャン……」と、重武装した騎士が歩く足音が絶え間なく聞こえてくる。


「……アン、あれ、何?」


「近衛騎士の皆さまです! 奥様の一呼吸も逃さずお守りすると、交代制で張り切っておいでですよ!」


終わった。 私の「静かで怠惰なニート生活」が、私の「有能さ」のせいでセルフ破壊された。


私はベッドの上で「世界の理」をいじり、次なる防衛戦略を練る。


【優先タスク:警備のサイレント化】 【案:騎士の鎧にこっそり『消音』の術式を付与しますか?】 (やるわよ。あと、あの鐘の音を特定周波数に書き換えて、睡眠導入効果を付与してやるわ!)


「奥様」 ジャネットが、片付けをしながらボソリと呟いた。


「至宝というのも、裏側で『環境を整える』のがお忙しいようですわね」


「……ジャネット、あなた、さっきから何を……」


「いいえ。ただ、あまりに有能な方が上に立つと、下々の者は奇跡だと拝むだけで、その苦労に気づかないものですから。……お疲れ様です、奥様」


ジャネットはニヤリともせず、完璧な礼をして部屋を出ていった。


(……このメイド、絶対に私の『作業内容』に気づいてる。けど、あえて泳がせて、自分の仕事を楽にするつもりね……。有能すぎて怖いわ!)


私は、騎士の足音を消すための「消音パッチ」を編み上げながら、深くため息をついた。 働かないために、なぜ私はこんなに必死に「魔法のコーディング」をしているのだろうか。


――この時の私は、まだ気づいていなかった。 カシアンが「至宝リゼット」を絶対に失わないために、屋敷全体の防衛網をさらにガチガチに固め、私を一歩も外に出さない「完全隔離(ニート推奨のはずが、物理的な監禁状態)」を計画していることを。

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