第10話: 極楽風呂への大掃除作戦
カシアンを北の森へ送り出すことに成功した私は、この貴重な自由時間を使って、ある「重大プロジェクト」を完遂することに決めた。
(……この屋敷の給湯システム、設計図で見ると古すぎて効率が悪すぎるのよ)
貴族の屋敷らしく豪華な浴室ではあるけど、お湯が溜まるのは遅いし、温度調整は職人の勘。さらに、配管の詰まりという「物理的な不具合」まで潜んでいる。
「……アン、今日はお屋敷の『大掃除』をしましょうか。私も少しだけ、お手伝いしますわ」
「えっ、奥様が!? いけません、そんなお体に障るような重労働……!」
「いいえ、ただの『お祈り』ですから」 (※本音:魔力炉から浴室までの全配管を調整し、爆速でお湯が出る仕様に丸ごと作り変える)
私はフラフラと廊下を歩くフリをしながら、壁に手を当てて「世界の理」を操作した。
【緊急タスク:浴室環境のフルリプレース】 【分析:配管内に魔力のカスが蓄積。これが水の流れを悪くしています】 【解決策:高圧洗浄魔法による一括デバッグ】
「……えい(クリーンアップ!)」
私が小さく実行ボタンを叩いた瞬間、屋敷中の配管を光の波が駆け抜けた。ゴゴゴ……という地響きと共に、長年蓄積されていた汚れが一気に消滅していく。
「あら……? 急にキッチンの水の出が良くなりましたわ!」
「廊下の隅の埃まで、何かに吸い込まれるように消えていくぞ……!?」
現場の使用人たちが驚きの声を上げる中、私は真の目的地――浴室へと辿り着いた。
(よし、仕上げよ。お湯に『自動温度保持』の仕組みを組み込んで……ついでに、入浴剤代わりの『疲れが取れる魔法』をナノレベルでパッチ適用!)
【環境構築完了:極楽のバスタイム・サーバーが起動しました】
「奥様、お掃除は終わりましたか?」
いつの間にか背後にいたジャネットが、ピカピカに輝く床と、見たこともないほど澄み切ったお湯を見て、フッと口角を上げた。
「……素晴らしい『大掃除』でございますね。配管の汚れまで一掃するとは、並の清掃業者でも不可能ですわ」
「あら……お掃除は、隅々までやるのが基本でしょう?」
「左様でございますね。……では、旦那様が森で『見えない刺客』と戦っておられる間に、奥様にはこの『新装開店』したお風呂を一番乗りで楽しんでいただきましょう」
ジャネットは手際よく、最高級のタオルと着替えを用意してくれた。
(……ジャネット、最高。やっぱりあなた、仕事が早いわ!)
私は鼻歌を歌いながら、完璧に温度管理されたお湯に身を沈めた。
「はぁぁ……至福……。これが有給休暇の味……」
【現在の精神状態:リラックス度 120%】 【獲得効果:美肌効果、睡眠の質向上、ストレスの完全消去】
温かいお湯が、社畜時代にボロボロになった私の心を溶かしていきます。 ……しかし、私はまだ知らない。
カシアンが森から帰還し、ピカピカになった屋敷と、かつてないほど「聖なる光」を纏ってツヤツヤになった私を見て、
「……リゼットが、自らの命を削ってまで屋敷を清めたというのか。……私をこれほどまでに案じて、身を浄めて……!」
と、私の「生活改善(掃除)」を「命を懸けた献身」と履き違え、罪悪感と使命感で胸を一杯にしていることを。
「今のままではいけない。リゼットにこれ以上の無理をさせては、いつか本当に彼女が消えてしまう……!」
カシアンの瞳には、かつてないほど悲壮な決意が宿っていました。彼は、リゼットの負担を減らすためではなく、**「彼女が二度と無茶をせずに済むよう、自分が不眠不休で全ての仕事を背負う」**という、ブラック企業の鏡のような「過剰残業モード」に突入しようとしていたのだ。




