記録:9
リユウが再び目を覚ましたのは大分日が昇ったころだった。
いつもなら黒夜が起こしてくれるはずなのだが。
「白露クン?起きているかい?」
隣にいる黒夜に声をかけてみると身じろぎをする。
ゆっくりと目を開けるが何処か虚ろだ。
「どうしたのだね、朝は強かっただろう」
様子がおかしいと近づいてみると、黒夜の顔がほんのり赤くなっていることに気づく。
額に触れてみると案の定、リユウの体温より高そうだ。
「すまんリユウ。少し調子が悪いみたいでな、今日は動けそうにない」
どうやら黒夜は熱があるらしく、浅い呼吸を繰り返している。
今まで黒夜が体調を崩した事など無い。
どうしたらいいか分からなくなったリユウはヒレシスに助けを求めることにした。
「疲れからくる風邪ですわ。熱を下げる薬がありますから、それを飲ませて安静にさせましょう」
ヒレシスに言われたフウライが薬を持ってきて飲ませてくれた。
三十分もしたら効果が出るだろうと言い残して二人は部屋を出る。
すやすやと寝ている黒夜を見つめるが何の変りもない。
何かしていないと落ち着かないリユウは黒夜へあげるお見舞いの品を買いに出かけることにした。
いつもの探偵道具と、黒夜から渡されたお小遣いをポーチに仕舞う。
意気揚々とドアを開けようとした。
「お、い、待てリユウ」
どうやって察知したのかゆっくりと起き上がった黒夜がリユウを止める。
「白露クン、寝ていないとダメだろう」
リユウが黒夜を寝かせている間に、黒夜は傍にあったリンゴを何個かリユウのポーチに入れた。
「いいか、腹が減ったらそのリンゴを食え。間違っても買い食いなんかすんじゃねーぞ」
安全が保障できねぇからな、と釘を刺す黒夜。
それをはいはいと流して再度ドアに手をかける。
「お見舞いを買うだけなのだよ、白露クン。だから安心して寝てい給え!」
そう言って今度こそ飛び出していったリユウ。
黒夜は言われた通りに寝転がる。
「不安で逆に寝れねぇ」
しかしその目はさっきよりも冴えてしまっていた。
一時間程歩くと城下町の中央の方に着いた。
はずれの方とは違い、多くの人で賑わっている。
「さて、お見舞いは何が良いかねぇ」
ポーション屋に魔道具屋。魔導書専門店に武器屋まで。
元の世界には無い店ばかりで興奮してしまう。
「えーと、ひとまずポーション屋にでも行ってみるのだよ」
ポーションと言えば傷の回復を手伝ってくれたり、体が軽くなったり。
そんなイメージが強かったが、当たりのようだ。
基本的に飲むとバフがかかるようで、黒夜に元気になってもらえそうだ。
「これと、これと、これなんて良いのだよ!」
目に付いた物を数点、ついでに興味をそそられた物も何本か購入。
しかし少しお金が足りず、綺麗な赤色のポーションは諦めざるを得なかった。
それはそうと、良い買い物ができたとリユウはウハウハだ。
「さて次は何処に行こうかな~!」
ルンルンで店から出ると、甲冑を着た男が目に付いた。
折れた剣を片手に店の前をウロウロしているのだ。
「どうかしたのかね?」
こういうのは話を聞いた方が早いと早速声をかける。
すると男の顔が一気に笑顔になった。
「キミ、今暇か!?」
ガシリと肩を掴まれる。
その勢いに押されつつも頷くと、男は更に笑顔になった。
「いやぁ、折れた剣を直そうと鍛冶屋に向かってたんだけどね、今妻が産気づいてるみたいで今すぐ向かいたいんだ」
確か鍛冶屋と病院は確か真逆にあったはずだ。
ここは丁度その中間地点。
さっさと病院に向かった方がいいのではとリユウは思ったが、口には出さないでおいた。
「その剣、すぐに直したいのかい?」
「あぁ。なんせ時間がかかるからね、今日中には渡しておきたかったんだよ」
リユウは鍛冶に詳しくないから分からないが、短時間じゃ出来ないのだろうという事は分かる。
それに今は時間が無いようだし、これ以上話している暇はないだろう。
リユウはポーチから契約書を取り出し、男に渡す。
一応書いてもらわないと何があるか分からない。
依頼料をすっぽかされてしまうかもしれないからと黒夜に散々言われているのだ。
「僕は一応探偵でね。依頼をするのならこの契約書にサインして欲しいのだよ」
報酬は貴方のお子様の笑顔。と笑えば男は嬉しそうにサインをした。
お金を取らないと黒夜に怒られてしまうかもしれないが、生憎彼はいない。
別にバレはしないだろうとリユウは男から契約書を受け取った。
「はい、確かに承ったのだよ。じゃあ剣をくれるかい?」
男から剣を受け取り、待ち合わせの場所と日時を決めてから分かれる。
それをしっかりとメモしたリユウは胸を張って歩き出した。
何せ完全に一人で依頼を受けるのは一年ぶりなのだ。
黒夜のいない不安感もあるが、何とかなるだろうの精神で鍛冶屋を目指す。
しばらく歩いていると小腹が減ってくる。
出店で売られているお肉に目が行くが、何とか我慢した。
こうなる事が分かっていたのか今回もしっかりと対策されてあるのだ。
リユウは大人しくポーチに入っていたリンゴを食べることにした。
木陰にあったベンチに座ってからリンゴをかじる。
あのおじさんからもらったリンゴは未だみずみずしさが失われていない。
この世界のリンゴはたくましいな、と芯の近くまで残さず食べきる。
もう一つ食べようか、と取り出した所で何処からか視線を感じた。
辺りを見渡すと足元に小さなウサギが。
初日に遭遇した角を持つウサギだ。
何処から入り込んだのかとウサギを撫でる。
ウサギの目線の先には真っ赤なリンゴが。
「おや、お腹が空いているのかい?」
ウサギの目の前にリンゴをやると、勢いよく噛り付き始めた。
実によい食べっぷりだ。
「ゆっくり食べるのだよ」
リンゴ丸々一個を食べきったウサギは満足そうに跳ねて行ってしまった。
もう少し撫でていたかったなとボーっとするリユウ。
そろそろ行こうかなと立ち上がろうとした時。
先程のウサギが花束を咥えて戻って来た。
「わぁ、綺麗な花束だね。くれるのかい?」
ウサギから花束を受け取るとウサギは嬉しそうに跳ねだす。
その姿はとても愛おしく、リユウは再びふわふわを堪能した。
思う存分堪能したらやる気に満ち溢れてきたリユウ。
早いとこ終わらせてしまおうとルンルンで歩き出した。
ウサギがくれた花束には結構な種類の花があり、見ていてとても癒される。
よくもまぁこんな短時間で集められたものだと少し関心してしまう程だ。
「あ、あんた!ちょっと待ってくれ!!」
ふと声を掛けられ振り向くと、そこには汗だくの男が一人。
「どうかしたのかい?」
可愛らしく首を傾げるリユウには目もくれず、リユウが持つ花束を凝視している。
「その花、やっぱり!!」
花束の中にある青みがかった花を指さし叫ぶ男。
リユウが青い花だけ取り出すと、男がリユウの手を握り懇願してきた。
「お願いだ!急な発注が入っちまってポーションを作る材料があと少し足りねぇんだ!」
なんでもお偉いさんからの注文らしく、間に合わなければ店が危ういのだとか。
納期は明日までだと言うが、いくら何でも無茶苦茶だ。
材料を取りに行く暇など無いだろう。
人からもらった物をあげるのは少し気が引ける。
しかし困っている人の元に渡った方がウサギも喜ぶだろう。
「もちろん良いのだよ。困ったときはお互い様というからね」
「ありがとう!!恩に着るよ!」
男は涙を浮かべながら花を受け取る。
すると男はちょっと待ってろ、と店から大量のポーションを取り出してリユウに差し出した。
「お礼と言っちゃなんだが、好きなポーション持ってってくれ!いいもんそろってるぜ!」
この世界の住人は色で効果が分かるようだが、生憎リユウは全く分からない。
そのためさっきのポーション屋では店員に効果を聞いたし、それ以外は直感で買ったのだ。
今回もそうしようかとポーションを眺める。
そこでふと目に付いたのは先程高くて買い損ねた赤くて綺麗なポーションだった。
「じゃあこれを貰うのだよ」
赤いポーションを手に取ると、お目が高いね!と男は嬉しそうに笑う。
割れないように丁寧にポーチに仕舞うと男は満足したようだ。
「ホントに助かったよ。また機会があれば来てくれよな。安くしとくぜ!」
そう言うと、こうしちゃいられないとばかりに走って店の中に入っていった。
何だか慌ただしい人だな、とおかしくて少し笑ってしまう。
花は少し減ってしまったが、それでも花束は綺麗なままだ。
手土産に丁度いい、とリユウは再び歩き出した。
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