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記録:11

「遅せぇ!一体何処ほっつき歩いてたんだ!!」


 リユウが元気よく扉を開けた瞬間、鬼の形相の黒夜が出迎えてくれた。


まるで母親のように「今何時だと思ってるんだ」「心配したんだぞ」などと説教を始める。


 だがそれも少しの間で、リユウがお詫びにとポーションを取り出したことで収まった。


流石の黒夜も自分の為に買い物に出かけたとなると強くは言えないのだ。


「ったく。随分と散財したみたいだな」


 次々と出てくるポーションに呆れるしかない黒夜。

再び怒られそうな雰囲気を察したリユウは花瓶を貰いに行くと部屋を飛び出して行った。


 いつもの事ながら子供っぽいな、と黒夜は呆れる。

しかし変わらないリユウの様子に少しホッとした。


 黒夜はせめて整理だけでもしようととポーチの中身を確認する。


いつものキセルが見つからず底の方まで見ていると、何か光るものを見つけた。


 それはリユウが鍛冶屋で購入した太陽の石が付いた指輪だ。


黒夜はしばらく石を色んな角度で見た後、ため息を吐く。


ぼったくられたか。なんて、考えても仕方がないだろう。


「それがどうかしたのかい?」


 いつの間にか戻ってきていたリユウが黒夜のから指輪を掠めとった。

随分と気に入ったようで、早速指にはめてはしゃいでいる。


「…どこで買ったんだ、この指輪」


 指輪を見つめながら怪訝な顔をする黒夜。

何処か様子がおかしい気がするが、風邪の名残だろうとリユウは気にしない。


「立ち寄った鍛冶屋でね。とても綺麗だろう?」


 黒夜から見て赤色のそれは、リユウには黄金色に見える。

改めてその色を見ると、やはり黒夜の瞳と瓜二つだ。


「時間帯によって僕たちの瞳と同じ色に変わるのだよ」

 

 しかもこれ、なんと半額!と満面の笑みで言うと、黒夜は困ったように笑った。


「あぁ。どんな色か楽しみだな」





 黒夜の体調もすっかり良くなったようで、リユウは安心した。

今なんて元気にカメラで写真を撮っている。


 リユウが出かけた後、ヒレシスにお願いして譲ってもらったものだ。


この世界のカメラの性能は現代程良くはないが、悪くもない。


 シャッターを切って少し待つと現像されるもの。所謂ポラロイドカメラだ。

白黒でしか撮れないが、魔力を使う為フィルムを追加する必要がないらしく、便利な面もある。


 先程リユウが記念にと皆で撮った写真をいたく気に入ったのだろう。


写真に関してあまり乗り気じゃないのかもと思っていたが、杞憂だったようだ。


「そうだ、せっかく写真を撮ったんだし、宣伝ポスターとか作ってみないかい?」


 リユウが名案とばかりに紙を用意し始める。

そこに『お困りなら藍本探偵事務所まで』とお世辞にも綺麗とは言えない字で書く。


そして先程撮った二人の写真を切り抜いて貼り付ける。


「じゃじゃーん!どうだい、中々いい出来なのだよ!」


 ふふん、と胸を張ってポスターを広げるリユウ。

しかし黒夜の表情は暗い。


「お前、それを何処に張るんだよ」

「あ」


 黒夜の表情が暗いのはそれだけではない。

小学生でももう少しマシな物を作るであろうそのポスターの完成度が不満なのだ。


 黒夜の全否定にリユウがガチりと固まった気がした。


渾身の出来のポスターが日の目を見ないのが悲しいのか、手に握りしめて泣きまねを始める始末だ。


「いいじゃないか、その辺に張っておけば!」


 リユウの適当な考えに黒夜は失笑する。


「それで依頼が来たら苦労しねーよ!」


 今度こそ撃沈したリユウ。

今回は大人しく諦めるようだ。


 リユウはポスターを再び見つめる。


リユウと黒夜がお互い好きなポースを取っていて、とても楽しそうに写っている。


白黒なのが惜しい程に楽しそうに笑っているのだ。


 決してナルシストというワケではないが、楽しそうなのは事実。


捨てるのはもったいないとコッソリポーチに仕舞っておくことにした。





 次の日。黒夜がキセルの事を知ると、お礼がしたいからと一緒に鍛冶屋まで行くことになった。


昨日と同じ道を歩きながら、ここで何があったか嬉しそうに話すリユウ。


まるでわらしべ長者だな、と黒夜は苦笑してしまった。


そんな運命染みたことを難なく受け入れてしまう所が如何にもリユウらしい。


「うむ、お腹が空いたのだよ」


 今は丁度お昼時。

昨日見た串焼きが目に入ったリユウはあれが食べたいと強請った。


「しょうがねぇなぁ。ちょっと待ってろ」


 黒夜はリユウをベンチに座らせ、串焼きを買いに行った。


待っている間にポーチからカメラを取り出し、一枚撮る。


 異世界らしくてとても良い写真だ。

社会の教科書に載っていそうだなと眺めていると、いつの間にか黒夜が戻ってきていた。


「ほれ、早く食わねぇと冷めるぞ」

「ありがとう白露クン」


 何の肉だろうねぇと一口かじってみる。

少し獣臭いが、ジューシーな味わいだ。

固すぎないうえに中々食べ応えもある。


「旨いな、これ」


 黒夜もお気に召したのかすでに半分近く食べている。

やはりどの世界でも肉は旨いものだ。


 残った串は炎で灰も残らぬように燃やしてしまう。

街にごみ箱が無いのはこういった部分も関係しているのだろうか。


「そろそろ行くぞ。日が暮れないうちに宿も取っておかねぇと」


 そう言って黒夜が歩き出す。

リユウもはぐれない様にと慌てて立ち上がった。


 その拍子にポスターが落ちてしまった事に気づかずに歩き出すリユウ。



「あら…?」


 それを拾ったのは、少し不気味な雰囲気の女。


リユウ達の後姿を見るなり満面の笑みを浮かべた。


「やっと見つけたわ。私の王子様!」






「今回はうちのリユウがお世話になった」

「いやいやこちらこそ貴重なもんを打たせてもらってよ!」


 手土産を持ってオヤジに挨拶をする黒夜。

そのまま話し込んでしまったようで、リユウは蚊帳の外だ。


 店内を見るにしても昨日観察したばかりでなんだか味気ない。

せっかくだし、と外の景色を見ることにした。


 鍛冶屋は騒音対策の為か他の建物とは少し離れた場所にある。

そのため人も少なくのんびりできるのだ。


 近くにあった薪を割るための切り株に腰を掛け、一息吐く。


ぼんやりと空を眺めるリユウだったが、妙な視線を感じ慌てて辺りを見渡した。


犯人は人が少ないおかげですぐに見つかった。

木の陰に女が一人、こちらを凝視しているのだ。


「キミ、何か用かね」


 思い切って声をかけると、女は慌てる様子もなく優雅にリユウの傍まで歩いてくる。


「貴方、このポスターの人の知り合いなんでしょう?」


 そう言って女が取り出したのはリユウお手製のポスター。


リユウは少し驚いたが、ひとまず女の要件を聞くことにした。


「僕は確かに白露クンと知り合いだけど、それがどうしたのだね」

「あら?この方はそんな変な名前なの?」


 まぁいいわ、と女は恍惚に笑う。

精神が正常とは思えないその笑顔にリユウは寒気が止まらない。


「この方と会わせて欲しいのだけれど。今何処にいるの?」


 見たところ黒夜の知り合いのようだが、本当に大丈夫だろうか


知らないと嘘を吐いてもいずれバレるだろう。

しかし合わせるのはまずそうだとリユウの勘が告げている。


「何故会わせないといけないんだい?依頼なら僕が聞くのだよ」


 リユウは何かと言い訳をして帰ってもらうことにした。

だがこの女にそんな事通用しなかった。


「一目惚れなの!最近姿が見えなかったのに、やっと見つけたから…やっぱり私たち運命なのよ!」


 以前もかなりのイケメンだとチヤホヤされていた黒夜。


何をどうしたらこんな短期間で女性を虜にできるのだ、とリユウは頬が引き攣った。


「あ、あ~!今ここに彼はいないのだよー!!どこ行ったのかなって、僕も探してたのだ!」


 とてもわざとらしいが、何を言っても帰ってくれないだろうと諦め、知らぬ存ぜぬを突き通す事にしたリユウ。


なんだか言動がストーカーのようで不気味なのだ。

リユウの判断は間違っていないだろう。


「あ?なにやってんだリユウ」

「おバカー!!!!」


 騒ぎを聞きつけたのか黒夜が出てきてしまったのだ。


慌てふためくリユウを他所に黒夜は何が何だか分かっていない様子だ。


 恐る恐る女の方を見てみると、目をハートにして、という表現が適切なほどに蕩けていた。


 もはや不気味を通り越して恐怖を感じる。

どうしたら一目惚れでそこまでなるのだろうか。


「いやぁ~ん!やっと会えたわ!私の愛しのダーリン!!」


 女は猛烈な勢いで黒夜に飛びかかる。

しかし異様な雰囲気を察した黒夜は咄嗟に女を避けた。


 顔面から床にダイブした女。

しかしケロッとした様子で起き上がると、真横にいる黒夜に目を輝かせた。


「どうして避けるのよ~!もしかして恥ずかしがってるの?」


 ヤバい奴だと本能的に察知した黒夜は今までにない速さでリユウに駆け寄る。

いざという時はぶっ飛ばせという意味だ。


「てめぇ誰だよ。キモい事すんじゃねぇ!」


 初対面でこれほどまでに警戒している黒夜は稀に見ない。


リユウでさえもここまで警戒されなかった。

状況が状況だけに仕方がないが。


「あら、はしたない言葉遣いは嫌いなのよ。直してもらわないと」


 女は機嫌が悪くなったように黒夜を見る。

だがそれも一瞬の事ですぐに怖い笑顔に戻った。


「さぁ私についてきて!悪いようにはしないわ、白露くん!」


 その瞬間、黒夜の表情が一変する。

先程までの警戒するような表情は一気に怒りへと変わったのだ。


「てめぇがその呼び方すんじゃねぇよ!!誰が許可した!!」


 急に怒り出した黒夜にキョトンとするも、違うの?と首を傾げる女。


どうやら名前すら知らなかったようで、リユウの呼んだ名前を呼んだだけのようだ。


「お気に召さないなら別の呼び方教えてよ」


 語尾にハートが付くのではと言う程甘ったるい猫撫で声で話す女。

しかし怒り心頭に発する黒夜は答える気が無いのかそっぽを向いた。


「あら?いいのかしら、そんな態度で」


 女は意味深な事を呟くと、黒夜に向かって投げキッスをした。


「何やってんだお前。セクハラだぞ」


 そんなことをしても振り向くことはない、と言いたげな黒夜。

しかし女は自信満々に黒夜に問いかけた。


「貴方のお名前は?」



「シャロク。けど俺には黒夜白露っていう立派な名前が」


 そこまで言った後、黒夜は驚いたように口を押えた。

自分が何を口走ったのか理解した黒夜は青ざめる。


よりにもよってリユウに聞かれてしまった。




本当の名前を

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