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085 漁師と船乗りの勧誘

移住が決定した日から3日後、石橋の建設が終了した。


その間ヨネ子達は石橋職人の近くでレーナの訓練に勤しんでいた、他にする事が無かったという事もあるが。


石橋の建設が終わり職人全員がワーレンブルクに帰ると早速それぞれの家族に報告がなされた、家族も全員移住に賛成したようだ。

尤も宰相が頭領達の目の前で認めた事を拒否するという選択肢は普通の平民には無いので当たり前だが。


それからさらに4日後、石橋職人とその家族をアルケオンに連れて行った後、またディラルク王国のサレンダーに向かった。

今度はここから川沿いに南下して港町に向かう、ヨネ子は次に漁師をスカウトする事にしたのだ。


今アルケオンには良い漁場が有るにも関わらず漁師がいない、そのため魚食文化が無い。

なので出来れば早めにスカウトして建国記念式典には魚料理も出せるようにしたいと考えていた。


因みに川沿いなのは海だけでは無く川の漁師も雇えればと考えているからだ。


サレンダーから徒歩半日、最初の漁村に着いた、ここは王族直轄領なので獲物は全て王国に納めている。

さらに賃金は給料制なので安定生活が出来ているし人数も定員がある、つまりスカウトは出来ないという事だ。

にもかかわらずここに来たのは情報収集のためだ、ここはその制度上国内でも腕の良い漁師達が集まっている、なので川の漁師の情報が入りやすいからだ。


この世界の川漁はバリエーションが少ない、ほぼ釣りと追い込み漁だけと思って良い、日本では当たり前の罠漁は一部あるが投網や梁漁などは無い。

因みに追い込み漁とは地球のような網を使ったものでは無い、大人数で木の枝や棒を使い浅瀬に追い立てて弓や槍で捕まえる漁法だ。


ヨネ子は釣りも重視しているが追い込み漁はさらに重視している、蜘蛛の魔物の糸で魚網を作らせているからだ。

地球風の魚網で追い込み漁をすれば弓や槍を使うより効率よく捕まえられる。

さらに、効率よく追い込むためには魚の習性を知っておく必要がある、その知識が罠漁や梁漁を教えた時に役に立つし、なにより養殖に最も役立つ、ヨネ子はすでに川魚の養殖を見据えているのだ。


そして情報によると川下に2日ほど歩いた所にあるビンド村という漁村の漁師が追い込み漁が得意だという。


ビンド村は漁村にしては規模が大きく人口は330人ほどらしい、そして追い込み漁のチームも9チームあり1つのチームには10人前後の漁師がいるという事だ。


これなら1チームか2チーム引き抜いても問題無いと思われる、なのでさっそくビンド村に行く事にした。


ビンド村に着いたヨネ子達は先ず村で唯一の食堂で腹ごしらえと情報収集を行った、そしてその情報に基付き最も人数の多いチームに声をかける事にした、9チームの実力は拮抗しているようなので腕ではなく人数で決めたのだ。


追い込み漁は基本的に定員2名の船3艘で浅瀬に追い込みその他の漁師が弓や槍で捕まえる、なのでチームリーダーは船団の長という事で船団長、船を操作する担当を船長、その他を団員と呼ぶ。


なのでヨネ子達は早速船団長の元に交渉に向かった、向かった先はエルドン船団の船団長エルドンの家だ。


交渉結果はもちろん成功、人間の心理にも精通しているヨネ子はネゴシエーターとしても一流なので失敗に終わる事など考えにくいとも言えるが。


ビンド村には宿が無いのでヨネ子達は村の外で野営する、そして翌日昼過ぎ、漁から帰ってきたエルドン船団の船長と共に団員の勧誘を始める、既にある程度は船団長のエルドンから聞いているようだがヨネ子も直接話をするのだ。


この交渉ももちろん成功、斯くしてエルドン船団総計13人とその家族、合計40人がドラゴニアに来てくれる事になった。

交渉から3日後、全員をアルケオンに連れて行きディーンに委ねると再びビンド村に戻った、ここから次はさらに南下して海を目指す。


1番近い海の漁師町までは10日、その間3つの川漁師の村に寄りさらに6人の漁師を勧誘して家族共々アルケオンに連れて行っていた。


最初の海漁師の町はディラール、ここは漁師の町であると共にエムロード大王国、ブーストン王国へと向かう定期船の始発終着の町でもある、そのため物流の拠点ともなっており人口は3万を超える。


ここディラールの漁師は町の人口に比例してかなり多い、しかし川魚漁師のようにチームを組んでいるわけではないので面倒だが1人づつ個別に勧誘するしか無い。


ここでのメインは釣り師と潜水士、いわゆる海女だ、漢字だと海女だが人数は女より男の方が多い。


ディラールの町に入ると最初は市場へ、この世界では卸売り制は無いので市場で魚を売っているのはほとんどが漁師かその家族だからだ。


市場では各店舗の品揃えを確認していく、そしていくらか購入しながら情報収集をする。


その中で漁師の数は1000人以上いて、釣り師と海女の割合はほぼ半々だと言うことがわかった。


ヨネ子達は一旦ディラールに宿を取ると翌日から漁師の家へ勧誘に向かった。


約10日かけて釣り師と海女を40人づつ、合計80人の勧誘に成功した、この中には夫婦で釣り師と海女として活躍している者が16組いる。


漁師達の移住準備の間にヨネ子達は造船所へと顔を出した、しかし漁船では無く海上輸送用の大型船のドックだ。


この世界では海にも魔物領域があり外洋航海がほとんど出来ない、唯一ディラルク王国、エムロード大王国、ブーストン王国を結ぶ沿岸航路だけが大型船の就航が可能なので定期船が就航している。

しかし大型船の造船所はここディラルク王国しかない、なので将来的に大型船を自国生産出来るよう職人をスカウトしに来たのだ。


ただヨネ子が作る予定なのはこの世界で主流の木造船では無く鉄船だ、なので暫くは造船は船大工と鍛治師の共同作業なる事になる、とまれ今はその内の船大工をスカウトするのだ。


しかし大型船の造船業はその需要が少ない事から職人も少なかった、なので必要数を確保する事ができない。


そこでヨネ子は船大工の棟梁に1つの提案をする事にした。


「棟梁、30ヤーグの船1隻作るのに何日かかるの?」


ヤーグとはこの船大工の使う長さの単位で1ヤーグ約1.7メートルくらいだ、したがって30ヤーグの船とは全長約50メートルの船と言う事になる。


「そうだな、30なら5ヶ月くらいだ」


「そう、では新人に作り方を教えながらでは?」


「新人の数にもよるが、早くても6ヶ月、半数が新人だと8ヶ月はかかると思った方がいいな」


棟梁は話の流れから新人を育ててほしいと言うのがわかった、なので普通ではありえない半数が新人という状況を想定して答えた。


「そうなの?それで、2隻も作れば基本的なことは覚えられる?」


「まあ、基本的な事で良ければ十分だが、それくらいじゃまだ使い物にはならんぞ」


ヨネ子としては船大工に覚えてほしいのは本当に基本的な事だけで良いと思っている、作らせる予定が鉄船なので本格的に覚えるのは鍛治師との共同作業に入ってからでも十分だからだ。

将来的には船大工も鍛治師もそれぞれの技術を吸収してまとめて鉄船の船大工として活躍するようにするつもりだ。


「基本だけで十分よ。それじゃあ2隻注文するから新人を育ててくれる?2隻目が出来上がった時は職人の半数も付けて欲しいんだけど」


「まあそれで良いってんなら引き受けよう。で、どんな船を作って欲しいんだ?」


「客船と輸送船を1隻ずつよ」


「わかった、客船の艤装はどうする?」


艤装とは船の場合船体以外の装置や設備の総称だが、この場合の艤装とは客室の内装とイコールだ、要するに割安な客室にするか高級な客室にするか聞いてきたのだ。


「高級志向で、後は任せるわ」


「だったら客船180万マニ、輸送船100万マニ、前金は7割、引き渡し時3割だ」


「良いわ、支払いはここで良いの?」


「いや、商業ギルドで頼む」


「じゃあ今日中に支払いを済ませるわ。それから船員も雇いたいんだけど、誰か知らない?」


「そうだな、港の近くに「海の男達」って飲み屋があるから行ってみな。俺よりは情報を持ってるだろう」


「なるほどね、礼を言うわ」


ヨネ子はその足で商業ギルドに行き支払いを済ませた。


夜になりヨネ子達は「海の男達」に向かった、まだお子様のレーナを連れていくような場所では無いが1人にする訳にもいかない。


「おいおい、ここは子供の来るところじゃないぞ」


案の定絡まれた、ただ喋り方が海の男らしく乱暴なだけで悪気があるようには見えない。


「気にしなくても良いわ」


ヨネ子も悪気が無いのはわかっているので普通に答えた、しかし悪気は無くても酔った男達だ、悪ノリでは無いがレーナに質問する。


「お嬢ちゃん、ここがどんなところか知ってるか?」


それに対しレーナは臆する事なく普通に答える、ヨネ子とセラフィムは訓練の時少しづつ殺気を纏いながら訓練していた、その成果もあり大人の男達に囲まれても怖く無くなっている。


「知ってる。お酒を飲むところでしょ。後あっちは赤ちゃんが出来る事する所」


後半は二階を指差しながら言った。


「ガッハハハハハ、こりゃ驚いた、もうそんな事まで知ってるとはな」


「ハハハハハ、おい童貞、お前よりこっちの嬢ちゃんの方がよっぽど大人じゃ無えか」


レーナの答えを聞いた店中の男達が笑い出した、中には仲間を揶揄う者もいる。

その中で最初に声をかけて来た男が聞いてきた。


「それで、お前さん達何か用事があって来たんだろ?ここらじゃ見ない顔だしな」


「そうよ、私達は船乗りを探してるの。全長30ヤーグの客船と輸送船を動かすのに必要なだけね」


ヨネ子はまだまだ笑っている男達を無視して答えた。


「なるほど、だがここに居るのはもう雇われてる奴らばかりだぞ、よほど良い給料でも出さなけりゃ雇えないぜ」


「そうね、でもフリーの船員もいるでしょ」


フリーの船員とは船会社に所属せず航海ごとに契約して船に乗る船員の事だ、給料は雇われ船員より高いが、いわゆる福利厚生の費用がかからないので船会社としては結果的に安上がりになる。


「ああ、だがフリーの奴は給料が良いからフリーでやってんだ、雇われになる気は無えと思うぜ」


「私達は給料制では無くて出来高制にするつもりよ。つまり真面目に働けば給料は多くなるしサボれば減る」


「ほう、面白いな、働かざる者食うべからずって事か?」


「その通りよ、どう?それなら雇われだフリーだって気にする必要はないでしょ」


「なるほどな、それでその話を俺にするって事は勧誘してるのか?」


「その通りよ、あなたもフリーの口でしょ。それに結構顔も聞きそうだし」


「何故そう思う?」


「雰囲気よ、酔ってるフリして私達の値踏みをしてたでしょ。ただの船員は酒の席でそんな事しないわ」


「お前さんただ者じゃねえな。何者だ?」


「私はドラゴニア帝国の代表よ」


「何、ドラゴニア帝国だって?ほう、面白い、それなら普通に船員を雇うってわけでも無さそうだ」


男はドラゴニア帝国を知っていた、船乗りとしてブーストン王国に行った時に話を聞いたからだ。

さらにエムロード大王国の港でも変わった物を作ると言う噂を聞いていた、だからこそ直感した。


「頭の良い男は好きよ。私達は雇った船員に帆船教育をするつもりなの、そして近い将来外洋航海に乗り出すつもりよ」


「外洋航海?そりゃ無茶だ、あんたも知ってるだろう、沖に出た途端に魔物に襲われて船を沈められるぞ」


「そうはならない船を作るのよ」


「出来るのか?」


「出来ない事に大金をかけると思う?」


「確かにな。だがもう一つ、帆船ってななんだ?」


「名前の通り帆を張り風の力だけで動かす船よ」


「風の力だけで?そんな事出来るのか?そもそもそれだと風下にしか行けねえじゃねえか」


「そんな事はないわよ、風上にも走れるわ。それを教えて訓練するのが帆船教育よ」


男はしばらく考え込んだ、ヨネ子の言っている事が荒唐無稽に思えたからだ、しかし嘘を付いているようにも見えない、そして結論を出した。


「良いだろう、あんたに雇われよう。俺の名前はカンタスだ、よろしくな」


「じゃあカンタス、私の名前はマーガレット、こっちはセラフィム、この子はレーナよ。早速だけどあなたの伝手で何人集められる?」


「そうだな、帆船教育期間はいくら出す?」


「1人月3000でどう?」


「それだけ出すなら20人は集めてみせるぜ」


「エムロードとブーストンにも伝手はある?後見習いの初心者も入れて良いわ。ただし見習いは月2000よ」


「わかった、それなら50人いや60人は集められる、しかしそんなに要るのか?」


「ええ、必要よ。じゃああなたにはこれを渡すわ。当面の活動費として1万マニ、それからこれは通信の魔道具よ」


ヨネ子はそう言ってお金と通信の魔道具をカンタスに渡した、そして使い方を教えた。


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