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084 石橋職人の勧誘

ワーレンブルクに到着したヨネ子達はその足で領主の館へと向かった。


「ワーレス伯爵にマーガレットが来たと伝えなさい」


ヨネ子が門番に向けて言った、しかし門番は何も聞いていないしマーガレットという名前も知らないので拒否した。


「お前は何者だ?ここはご領主様のお屋敷だぞ、お前のような者が来て良い場所ではない」


「じゃあ言い方を変えましょう。ミルゲの商人の娘レーナが来たと伝えなさい」


門番達もレーナの名前は知っていた、数日前借金の回収のために向かった騎士達が借金の代わりに連れてくると聞いていのだ。

しかし騎士達はボロボロになりながら手ぶらで帰って来ていたと言うことも知っていた。


なので門番は騎士達の代わりに連れて来たのだろうと思いワーレス伯爵に取り次ぎに行った。


「よし、ご領主様の許可がおりたぞ。中に入れ」


門番にそう言われ屋敷の中に入ると執事らしき男が待っていた、そしてワーレス伯爵の元に連れて行ってくれた。


「よく来たな。レーナを連れてくる邪魔をしたと聞いたが、まあ結果的にはここまで連れて来てくれたんだ、今回は不問にしてやろう。それより騎士達はどうした?お前達を迎えに行っていただろう?」


ワーレス伯爵は門番の勘違いもあって、ヨネ子達が自分の軍門に下りレーナを連れて来たと勘違いしているようだ。


「フル装備で殺気を込めて突撃して来る事を迎えと言うのなら来てたわよ」


ワーレス伯爵は不適なヨネ子の返答に少し嫌な予感がした。


「どう言う意味だ?騎士達はどうした?」


「心配しなくても全員連れて帰ったわよ」


その言葉で少し安心するワーレス伯爵、言葉の真意が掴めないとは言え悪党にしては詰めが甘いのだろう。


「では何処に居る?帰って来たなら真先に報告すべきだろうに」


「そうね、裏庭かしら?」


「何裏庭?良いだろう、こちらから出向いてやる。お前達も来い」


そう言って伯爵を先頭に全員で裏庭に向かった。


「ん?居ないじゃないか、本当に裏庭と言ったのか?」


「裏庭と言ったのは私よ。さあセラフィム」


「承知」


ヨネ子に名前を呼ばれたセラフィムは収納から騎士100人を出した、その途端に全員が呻き始める。


「な、何だこれは。何のつもりだ」


流石に100人もの騎士が瀕死とまではいかないが全員重症で呻いている様を見た伯爵は恐怖した。


「そうね、襲われたから正当防衛ね」


「な、何が正当防衛だ。お前、こんな事してただで済むと思っているのか?」


ワーレス伯爵は恐怖を必死で隠しながら強がって見せた、当然ヨネ子達には通用しないが。


「さあ、どうでしょうね。でも今まで散々少女を攫って好き勝手やっていた誰かさんの方がただじゃ済まないかもね」


「な、何?お前は何を言っている?何の話だ?」


これまでまったくバレていない事で油断していたのか明らかに動揺している、そこへヨネ子が追い討ちをかける質問をした。


「さて伯爵、この騎士達はなぜ生きているでしょう?」


「そ、そんなのは殺せなかったからに決まってるだろう。殺せば我が伯爵家が黙っておらん、事によってはこの国全てがお前達の敵になるぞ」


「正解よ、伯爵。確かに殺せば王国が私達の敵になったわね」


「そ、そらみろ」


「でもそれは伯爵の部下だからじゃ無いわよ」


「何?どう言う意味だ?」


「ディラルク陛下に殺すなと言われていたからよ」


ワーレス伯爵はここで耳を疑った、なぜここで国王の名前が出て来るのか想像もつかないので仕方ないのだが。


「な、なぜここで陛下の名前が出て来る?そうか、ハッタリだな、陛下の名前を出せば全て許されるとでも思っているのか?だとしたら甘かったな」


「そう思いたければ思いなさい、でも現実はシッカリと見なさいよ」


ヨネ子がそう言うとセラフィムがゲートを使ってどこかへ行った、そしてすぐに戻ってきた。


その後にそのゲートから騎士達が出てきた、その数40人、一個小隊分だ、そしてその後に宰相、最後に国王がやって来た。


騎士達はディラルク王国の近衛騎士だった、そしてその近衛騎士にまだ生きている3人の少女の居場所を告げた。


近衛騎士達はすぐさまヨネ子に言われた場所を探しに行く、そして3人の少女を救出して戻ってきた。


「ワーレスよ、これはどう言う事じゃ?この少女達はなぜお前の屋敷にいたのじゃ?」


国王は低く怒りを抑えた口調でワーレス伯爵に聞いた。


「陛下、こ、これはその、何かの間違いです。そうそこの者達の陰謀です」


「そうか、ではそこの少女達にも聞いてみようかの」


「それだけは、それだけは・・・申し訳ありません」


ワーレス伯爵は諦めて謝罪を口にしながら地面に泣き崩れた。


結局伯爵は秘密裏に処刑し世間には病死と発表する事にした、そして伯爵家は長男が継ぐ事になった。

これは犯罪を隠すためではあったが伯爵領では善政を敷いていたおかげだ、表向きは良い領主をアピールしていたので、少女誘拐、監禁、殺人等多数の事件の犯人とした場合混乱が起こると予想されたからだ。


解放された少女達はすでに親を殺されていたので3人ともヨネ子が引き取る事にした。


全ての事後処理が終わるとセラフィムが国王一行を王都サレンダーに連れて行き、ヨネ子がハンナと少女3人をアルケオンに連れて行った。


レーナはこれからヨネ子達と行動を共にする、ヨネ子が直々に訓練する事になったからだ。


セラフィムとヨネ子が戻って来ると一旦宿をとってから商業ギルドに向かった、石橋職人を紹介してもらうためだ。


石橋職人には翌日会いに行くがレーナの訓練はこの日から始められた、まずは全ての基本となる体づくりから。

と言っても最初にさせるのはランニングだ、そして夜は魔法の練習から、とりあえず魔法が使えるようにならないと魔力量を上げる魔力枯渇が出来ない、翌日からは座学も始める予定だ。


翌日、早速石橋作りの職人を訪ねていくため町を出た、仕事ぶりの観察を兼ねて架橋現場に出向いたのだ。


現場は幅15メートル、高さ10メートルくらいの谷だった、ここには元々簡単な吊り橋があったのだが、危険な事と細くてあまり使い勝手が良くなかった事から石橋へと架け替えている途中である。


この工事費用の6割は領主である伯爵家が出している、こう言うところが善政として評価されたのでワーレス伯爵家は廃爵を免れたのだ。


工事の進捗状況は完成間近、橋の土台はシッカリとしている、柱は洪水時に流れてきた流木が橋に引っかからないように水流をコントロールする形ができている、石組みも丁寧に組まれていて綺麗だ、全体のバランスも申し分ない、流石専門職と言うべきだろう。


お昼の休憩の時を使ってヨネ子は勧誘を始めた。


「チョット話しがしたいんだけど良いかしら?」


「ん?あんたら見ねえ顔だな。何だ?石橋の注文か?」


職人は全部で27人、その中で頭領と思われる男が返事した、残りは全員弁当を食べ始める。

まあ弁当と言っても日本風のものではなく商人やハンターが移動中に食べる干し肉と水だ、汗をかく仕事なので塩分補給に干し肉が最適だと言う理由もあるだろうが。


「まあそんなところよ。ただ私達の国ドラゴニア帝国に移住して作って欲しいの」


「はあ?ドラゴニア帝国?聞いた事のねえ名前だな。それより移住ってな何だ?そんなに何日もかかる大物を作らせてえのか?」


「いいえ、文字通りの移住よ。私達の国の職人になって欲しいのよ」


「何だそりゃ?そんな事出来るわけ無えだろ。冷やかしならさっさと帰りな」


頭領は常識人だ、なのでこの世界においての移住がどれほど難しいか知っている。

この世界では平民は貴族領に縛られる、なので領内の移住はさほど問題は無いが領を超えた国内の移住は貴族同士の合意が必要になる、それが国を超えてとなるとさらに難しくなるのは言うまでも無い、現実的にはほぼ不可能なのだ。

尤もこれは普通の平民ならだ、盗賊や流民に孤児やスラムの住人など戸籍で管理出来ない者には当てはまらない、それでも国内なら街に入れないだけだが国境は身分証が無ければ超えられない。


こう言う理由で頭領は冷やかしと判断したのだ。


「冷やかしでは無いわよ。既に王国とも話は付いているわ」


「はん、それを信じろと?お前さん達は確かに着ている服は良さそうだがどう見ても俺たちと同じ平民だろう?それがどうやったらお貴族様と話しが出来るってんだ?」


「普通に王宮に行けば出来るわよ」


「そんなわけがあるか!俺を馬鹿にしてるのか?」


「馬鹿にしてはいないわ。でもそうね急にそんな事言っても信じられないでしょうから証明して見せましょうか?」


「おう、出来るならやってもらおうじゃ無えか」


話の流れはヨネ子の計画通り進行した、元々信じてもらえないのはわかっていた、そして直ぐに移住を承諾するとも思っていない。

そこで頭領他数人を宰相の前に実際に連れて行ってその場で宰相に移住の許可をもらう事にしたのだ、宰相自らが許可を出せば今更まだ迷っているなど言いにくいだろうとの計算の元に。

因みに宰相にするのは国王で無くても事足りるからだ、何よりこのような些細な事で国王を煩わせるのは宰相としても気が引けるだろうから。


「では今日の作業が終わったら連れていくから代表を何人か選んでおいて」


「何言ってやがる、作業は明日もあるんだ、王都まで行けるわけ無えだろうが」


「行けるのよ、明日の作業に支障は無いわ」


「そんなわけあるか!」


「どうしたの?証明して欲しいんでしょ?」


「クッ、良いだろう、その代わり嘘だったときはただじゃ置かねえぞ」


「その時は御自由に」


話が終わると頭領は不機嫌な顔を隠そうともせず干し肉を齧りだした、周りの職人達は遠巻きに話を聞いていたが特に何かを言ってくると言うことは無かった。


職人達が作業に戻るとヨネ子達も食事にする、その後は作業が終わるまでレーナの訓練を行った、魔法による疲労回復を謀りながらなので効率が良い。


職人達の作業が終わると頭領がヨネ子達の元にやって来た。


「おう、終わったぜ。さあ連れて行ってもらおうか」


頭領は王宮に行くのは不可能だと思っているので何も考えずに言った、それをヨネ子に嗜められる。


「本気で言ってるの?貴方はそんな格好で貴族と会うつもり?不敬罪で打ち首になるわよ」


当然ヨネ子達が一緒に居ればそんな事にはならないのだが、だからと言って常識外れな行動をさせたりはしない、自分のことは棚に上げてではあるが。


「う、そ、そうだな。良いだろう一旦帰って準備をしてくる」


流石の頭領も正論で返されては反論のしようがない、なので素直に従う事にした。


ただし帰ってと言っても家にでは無い、共同生活をする作業小屋にだ、石橋職人はほとんどの場合建設中は現場の近くに作業小屋を建て、建設が終了するまでそこで生活するのが普通なのだ。


これは基本的に現場が自宅のあるワーレンブルクから離れている事が多いからだ、ヨネ子達はこの現場まで来るのに2時間近くかけたが、それはレーナをセラフィムが抱いて運んだからであり、普通に歩いていたら3時間以上かかる距離に有るからだ。


「チョット待ちなさい、作業小屋の脇に風呂を作っておいたからシッカリ身体を洗って来なさい」


「な、何だって?そんな事・・・」


頭領はヨネ子の言葉に驚きながらも作業小屋に戻ると、本当に風呂があった事でさらに驚いた。

しかし、とりあえず代表の3人が先に風呂に入って準備する事にした。


3人は頭領と建設現場監督と採石・運搬現場監督だ、この3人は責任者として施工主や領官が視察に来た時用に対応出来るようそれに相応しい服を持ってきている、後の作業員はチームリーダー的立場の者でも作業着しか持っていない。


「さあ、準備は出来たぞ。それじゃあ連れて行ってもらおうか」


頭領は一応言われた通りに準備はしたがまだヨネ子の事を信用していない、なので口調は怒ったままだ。


ヨネ子はその怒りを無視してゲートを王都サレンダーに繋げた、もちろんいきなり王宮内に入ったりせずその前にだ。


「な、ここはどこだ?」


驚いて聞く頭領にヨネ子が冷静に答える。


「何を言ってるの?王宮に連れて行くって言ったんだから王宮の前よ」


頭領と現場監督2人の前には王宮が聳えている、3人は王都の仕事を請け負った事もあるので王宮には来たことがあった、なのでここが本当に王宮だと直ぐに理解した。


「ほ、本当に王宮に来ちまった」

「夢でも見てるんじゃ無いのか?」

「ど、どうやって・・・」


驚きの表情を隠さず固まっている3人にヨネ子が声をかけた。


「さあ、行くわよ」


そう言って歩き始めるヨネ子達について行く3人、少し足取りが重い。


「ドラゴニアのマーガレットよ。宰相様に会いに来たわ」


「はい、お待ちしておりました」


今回も昼間に連絡を入れていたので簡単に通してくれた、頭領達3人はもう何も言えなくなっている。


「お待ちしておりましたマーガレット様、それで、こちらの3人が例の職人ですかな?」


メイドの案内で応接室に入ると宰相から先に声をかけられた。

頭領達3人はその扱いにも驚きを隠せなかった、普通はこれほど素直に王宮には入れないしメイドに案内される事もない、普通なら文官のような官僚が案内してくれる。

さらに通されるのも普通は会議室であり応接室では無い、極め付けは格上の宰相から先に声をかけるなどあり得ないからだ。


「そうよ、待たせて悪かったわね」


「何の、これくらいのことはなんでもありません。では先ずはおくつろぎ下さい」


宰相にそう言われてソファーに腰を下ろすと紅茶が運ばれてきた、しかし頭領達3人はどうして良いか分からず立ったままだ。


「どうしたの?貴方達も座りなさい」


「し、しかし」


「良いから座りなさい」


「わ、わかりました。それでは失礼致します」


ヨネ子に強く勧められ、頭領達3人は宰相に向かい丁寧にお辞儀をしてからソファーに座った。


ここでも最初に宰相が口を開いた。


「それで、この者たちの腕はマーガレット様のおメガネに適ったと言うことですかな?」


「その通りよ、良いかしら?」


「もちろんで御座います。ところで全員で何人ほどいるのですか?」


これには頭領が答えた。


「私、頭領のアルギオと申します。私の組は私を含めて27人おります。内訳は頭領が私、建設の現場監督がここに居るベッセン、採石と運搬の現場監督がこちらのノートン、他には正規の作業員が19人、見習いが5人です」


「ほう、そうですか。それで、移住するのは何人ですか?」


これにはヨネ子が答えた。


「それはまだ決まってないの。まだこの者達の家族には言ってないから決まったら後で伝えるわ」


「そうですか。ワーレス伯爵には伝えますか?それともこちらで伝えた方が宜しいですか?」


「そうね、今は代替わりでゴタついてるでしょうから任せるわ」


「確かにそうですな。では後でこちらから伝える事に致しましょう」


会議はヨネ子の計画通り頭領が迷う暇なく移住する事で決定した、そして作業小屋に戻ると作業員達に結果が伝えられた。


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