第三十二話
王城内では国王、それにバレンタイン公爵が厳しい表情で向かい合い座っていた。
現在カイルア王国国王であるロデッセウムは現在行方不明中。それだけならばクーデターが成功したのかと思う所だが、同時刻にバッセンとヴィオレッタも襲われ行方不明中である。
戻ってきた護衛らから話を聞き、どうやら仕組まれていた事や、明らかにこちらの情報がいいように利用されたという事が分かった。
「反乱を起こしている最中に、国崩しなど、本来考えるでしょうか?」
バレンタインの言葉に国王は唸り声をあげた時、情報収集のために動いていた宰相のアレッサンドロが焦った様子で入ってきた。
「お隣の国は本当にどうなっているのか。最新の情報が入りました。これを。」
差し出された資料を国王とバレンタインは読み進めていき、顔を歪めた。
「何故、ヴィオレッタがカイルア王国に光をもたらす聖女として崇め奉られているんだ。」
「ここまで来ると笑えてくるな。カイルア王国は本当に何がどうなっている?!」
国王とバレンタインの睨みつけるような視線に、自分のせいじゃないですよとアレッサンドロは大きくため息をつくと調べられた事実を放し始めた。
事の発端は、カイルア王国国王であるロデッセウムが言った一言であった。
ヴィオレッタを手に入れるために国の宰相を脅すつもりで言った一言。
「あれを手に入れなければ、この国は亡ぶぞ。」
それを陰で聞いていた王太子であり唯一の子であるオリバー王子が何をどう思ったのか、ヴィオレッタを手に入れればこの国は救われる、と解釈したことから始まった。
ロデッセウムが年々狂気に満ち狂っていく様子を間近で見ていたオリバーは父王に何度も苦言し、そしてその為についに幽閉されそうになったのである。
このままでは国が亡ぶとオリバーは逃げ、そしてクーデターを起こすために反乱軍を設立。そしてロデッセウムを倒し平和な国を築くことと、聖女であるヴィオレッタを自国へと連れて帰ることを反乱軍の目的に掲げたという。
バレンタインは大きくため息をつくと言った。
「蛙の子は蛙か。」
「そうだな。途中までは良かったが…まぁあの狂った父を持てば何かに救いを求めたくなる気持ちも分かるか。アレッサンドロ。バッセンとヴィオレッタの居場所はどうなった?」
「はい。先ほどバッセン辺境伯より手紙が届き、今身を隠しているとのことです。」
「ならば手紙を書く。バッセンへと届けよ。」
「はい。」
しばらく何かを考え込んでいたバレンタインは、国王へと視線を移すと言った。
「私も娘に手紙を書いてもよろしいか?」
「あぁ。・・・何をするつもりだ?」
「いえ、我が娘は賢いので。ね。」
国王はバレンタインの考えが分かり少しばかり顔を歪めるが、何も言わずに頷いた。
バッセンとヴィオレッタは森の中にある小屋へと身をひそめると、簡易の食事を口にしていた。
その時、ヴィオレッタの背筋に悪寒が走る。
「嫌な悪寒がします。」
「大丈夫か?まさか、風邪か!?」
バッセンは慌てて立ち上がり、小屋に用意されていたありったけの毛布でヴィオレッタを包み込み、そしてミノムシ状態のヴィオレッタの額にコツリと自分のおでこを当てると心配げに言った。
「まだ熱は出ていないな。いや…顔が真っ赤だ!医者へ行こう!」
ヴィオレッタはゆでだこ状態の顔を必死に横に振った。
「違います!その、これは、その、違います!とにかく、風邪の悪寒ではないです。」
「本当にか?無理しているんじゃ。」
心配げにヴィオレッタの頬に手を当てるバッセンに、ヴィオレッタは距離があまりに近すぎて、内心で悲鳴を上げた。
 






