第三十一話
バッセンとヴィオレッタが首の後ろのホックに手間取っていた頃。
砦を指揮していたロアムは異様な静けさと、風がない事に眉間にシワを寄せた。
おかしい。
静かすぎるのだ。
いつもは空高く飛ぶ鳥の姿が見えない。
そればかりか、風の音すらしない。
ロアムは、大きく息を吐くとバッセンに向けた伝令を内密に鷲の足につけて飛ばす。そして自らは赤土色の甲冑を身につけた。
「久しぶりにロアム副隊長の甲冑姿を見るな。」
「あぁ。おい、新人良かったな。」
「え?何でですか?」
「ロアム副隊長はバッセン隊長がいる時には目立たなくなるからなぁ。今日は赤獅子の姿を見れる貴重な機会だぞ。」
「あ!やっぱり赤獅子ってロアム副隊長のことなんですか?」
「そうだよ。綺麗な顔をしてるくせに、甲冑を着けると別人だからな。都会じゃ美しすぎる守護者とか言われているらしいが、俺らからすると赤獅子の悪魔って感じだな。」
「へぇ。わぁ。楽しみです。」
「ははっ!あの恐ろしさは実際に見ないと分からんか。」
緊急の戦闘準備中だというのに余裕だなとロアムは回りの部下を見回した。
いつもの騎士服ではなく、戦場用の甲冑を皆身に付けている。
それなのにどこか遠足のような雰囲気なのは、彼らが勇猛果敢な猛者だからである。
この砦にいるものは皆、決して弱くない。
弱ければこの砦にはいない。
ロアムは皆の前にたつと声をあげた。
「さぁ、敵さんは我らがバッセン辺境伯がいない好機を逃すつもりはないようだ。お前ら、敵さんをどう思う?」
『馬鹿。』
「その通りだ。この砦はバッセン辺境伯がいるから難攻不落なのか?否。我らがいるから難攻不落なのだ!さぁ、自分のケツに火をつけろ!」
『おおおおおおおおおお!!!!!!、』
久しぶりの戦闘に皆の顔色が変わる。
それを知ってか知らずか、カイルア王国側に動きがあり、警笛が鳴らされた。
「さぁ、バッセンの方はどうなっているのか。」
ニヤリと笑みを浮かべたロアムは他の者らに指揮をしながらも、友人の恋の行方も気にしているのであった。
手紙を運ぶ鷲は、大きな翼を勢いよく羽ばたかせ、風のなかを切るようにして飛んでいく。
太陽の位置が変わろうとも休むとこなく飛び続け、そして届け先を見つけると急降下を始める。
「ここだ。」
腕に降りた鷲の足から手紙を取り、目を通したバッセンは、少年の姿に変装したヴィオレッタに言った。
「どうやら、カイルア王国は馬鹿らしい。」
「え?どういうことです?」
「俺が砦にいないとの情報から、今砦に攻めているようだ。」
ヴィオレッタは目を丸くした。
「大変ではないですか?!急いで砦へと帰りましょう!」
バッセンはその言葉に苦笑を浮かべると、ヴィオレッタの頭をポンと撫でた。
「俺がいなくても、砦は落ちない。」
内心頭ポンが嬉しくて思わずにやけそうになるのをヴィオレッタはどうにか堪えた。
「え?でも・・・。」
「俺が日頃砦を離れないのは、俺がいて砦が落せないから、ではない。俺がいないことで、落とせるのでは、と、愚行を考える者が出ないように、いらぬ争いを生まないようにできるだけ砦にいるんだ。」
「そう、なのですか?」
「あぁ。砦の皆を信じろ。あそこにいるのは、騎士ではない。戦士だ。」
「戦士ですか?」
「あぁ。まぁ、俺達は現状の把握をするぞ。」
「はい。」
ヴィオレッタが本当だろうかと思っているまさにその時、戦士達の雄叫びが砦には響いていた。






