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最高の美貌を封印した令嬢の物語  作者: 秋ヶ瀬胡桃


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第6話 結末

「――さらに、ディアナ嬢」

静寂に包まれた謁見の間で、国王陛下の重々しい声が再び響いた。

その視線は床に伏せる者たちから外れ、私へと向けられる。

「クラレンスから、お前の平素の行いについて聞いている。お前が長い間、身分を隠して続けてきた慈善活動。そして領民たちの窮状を救った数々の功績……。それらはまさに王家の家紋を戴く者にふさわしい慈悲と英知の証である」

国王陛下は深くうなずき、堂々と宣言した。

「これほど聡明で気高きディアナ嬢こそ、我が国の王太子妃にふさわしい。そして、誰の目にも留まらなかった彼女の真の価値を見出し、窮地から救い出したクラレンス。お前こそが、我がラースコア王国の次なる王たる器である」

その言葉が放たれた瞬間、周囲の貴族たちから地鳴りのような歓声と拍手が沸き起こった。

私は隣に立つクラレンス殿下を見上げた。

殿下は優しく微笑み、私の手をそっと力強く握り返してくれた。

その温もりに、胸の奥が熱くなるのを感じていた。




謁見の間での宣言から、事態は目まぐるしく動き出した。

私とクラレンス殿下の婚礼は、国を挙げて速やかに盛大に執り行われることとなった。

その裏で、私の実家であるパーシヴァル伯爵家は、自らの愚かさによって自滅の道を辿っていた。

私が伯爵家を出た直後、彼らは体面を取り繕うため、「ディアナが勝手に家を飛び出したため、親子の縁を切る」と内外へ触れ回っていたのだ。

しかし、私が王太子妃になることが決まった瞬間、その宣言は彼らの首を絞める荒縄へと変わった。

「すでに縁を切った」と公言してしまった以上、彼らは王太子妃の実家としての利権や権利を一切主張できなくなった。

高慢な家族が悔しさで歯噛みしている報せを聞き、私は複雑な思いで静かに息をついた。


新しく始まった王城での暮らしは、驚くほど温かいものに満ちていた。

私の専属メイドとして城に迎えられたニーナは、今日も慣れた手つきでお茶を淹れてくれている。

「ディアナお嬢様、いいえ、これからは王太子妃殿下ですね。お側でお仕えできて幸せです」

ニーナの笑顔に心が和む。そして、その足元では、私の大切な愛犬ジュリーが嬉しそうに尻尾を振り、絨毯じゅうたんの上を駆け回っていた。

この城が、私たちの新しい家になったのだと実感する。

そんな穏やかな日々の中心には、いつもクラレンス殿下の深い愛があった。

「ディアナ、今日も美しいね。無理はしていないかい?」

公務の合間を縫って私の部屋を訪れた殿下は、そう言って優しく私を抱き寄せ、額に愛おしげな口づけを落とす。

私の些細な体調の変化や表情のかげりも見逃さず、常に気遣ってくれるその眼差しには、溺れるほどの甘い情愛が宿っていた。

かつては外見でしか評価されなかった私を、殿下は内面までも見通して、まるで世界で最も価値のある宝物であるかのように、片時も離さず慈しみ、愛し続けてくれている。

彼に抱きしめられるたび、私は自分が心から愛されている幸せを噛み締めるのだった。


一方、あの場で醜態を晒したアルバート王子とブライアン王子の二人には、厳しい処分が下された。

二人は王位継承権を完全に剥奪され、中央から遥か遠く離れた、辺境の小さな土地の領主へと格下げされたのだ。

華やかな王都を追われ、寒村で王族らしからぬ暮らしを強いられることになった彼ら。

……彼らがその現実を受け入れられず、数年後に愚かにも謀叛むほんを企て、王軍によって完全に滅ぼされることになるのは、もう少し後の話である。

また、私に婚約破棄を突きつけたイサーク王国のエリオット王子の末路も悲惨だった。

その見る目のなさによって人望を失い、国王となってからは、国力を著しく衰退させ、愚昧王と渾名あだなされることになる。




「――すぐに、ディアナにこの世で最も恐ろしい呪いを与えて欲しいの」

薄暗く不気味な森の奥深く。

ファビアンは、どこからか人づてに聞いた魔女の庵を訪れていた。

ディアナに魔法をかけたあの魔女である。

王宮での大恥以来、彼女の心はディアナへの憎悪と復讐心だけで満たされていた。

乱れた髪のまま、かつての面影もない狂気的な眼差しで魔女を見つめる。

「王太子の妻などという分不相応な座に収まった、あの醜い豚を呪い殺したいの。あの女を跡形もなく破滅させるためなら、お金はいくらでも出すわ」

激情をこらえきれない様子で、ファビアンは言葉を絞り出す。

その後ろには、同じく怨念を募らせたガーティーが影のように控えていた。

「頼むから、私たちに力を貸しなさい」

ファビアンは藁にもすがる思いで、だがその傲慢さを崩さぬまま、魔女を激しく睨みつけた。

薄暗い庵の奥、怪しく笑う魔女は、ファビアンの必死な願いを事もなげに了承した。

「ふん、王族への呪いとはね。いいだろう、小娘。お前のそのよどんだ濁った眼、嫌いじゃないよ」

魔女は面倒そうに顔をしかめ、背後の棚へと歩み寄る。

その様子を、ガーティーは恐怖に身を震わせながらも、ディアナへの憎悪を燃やす瞳で見つめていた。

魔女が引き出しから取り出したのは、禍々しい紫色の液体が不気味に揺れる、小さな硝子ガラス瓶だった。

「これをあの女の食べ物に混ぜるがいい。じわじわと肉体を蝕み、内側からすべてを崩壊させる極上の毒薬さ。苦しみ抜いて死んでいくその顔が、今から楽しみだねぇ」

魔女の言葉に、ファビアンは恍惚こうこつとした表情を浮かべた。

「ええ……これよ、これを求めていたの。あの成り上がりの泥棒女にふさわしい最期だわ」

ファビアンは、まるで至高の宝物を受け取るかのように、その小瓶を両手できつく握り締めた。

隣のガーティーも、その様子を見て満足げに薄汚い笑みを浮かべていた。


数日後。

王城の厨房の片隅で、二人の人影が息を潜めていた。

城のメイドの制服を盗み出し、完璧に変装したファビアンとガーティーである。

彼女たちは、ディアナへと運ばれる予定の、午後のおやつの美しい焼き菓子に目をつけた。

見張りの目を盗み、持参した小瓶の毒薬を、ディアナの皿に乗った焼き菓子に染みこませる。

「これで終わりよ、ディアナ……」

邪悪な笑みを浮かべ、二人は恭しく一礼しながら、その毒入りのお菓子をディアナの待つ部屋へと運び入れた。

だが、彼女たちは知らなかった。

ディアナの専属メイドであるニーナは、驚くほど鋭い観察眼を持っていた。

入ってきた見慣れぬメイド二人の不審な挙動、核心を突くように差し出されたお菓子から微かに漂う、異質な違和感。

ニーナは一瞬で、これが主人の命を狙う罠であることを見抜いた。

手際よく給仕の準備を進める振りをしながら、電光石火の速さでお菓子の皿を動かす。

ファビアンたちの目を盗み、こっそりと毒の入ったお菓子と、本物の安全なお菓子を完全に入れ替えたのだ。

何も気づかない変装中の二人に、ニーナは微笑みながら、毒の入った皿を差し出した。

「ディアナ様から新人のメイドさんたちへの、ささやかな歓迎のプレゼントです。ぜひ、今ここで召し上がってくださいな」

ニーナが差し出した皿を見て、ファビアンとガーティーは内心で嘲笑を浮かべた。

彼女たちはお菓子が入れ替えられたことに全く気づいていない。

(ふふ、間抜けなメイド。私たちが毒を入れたとも知らずに、呑気のんきに施しをくれるなんて。先にこれを食べて安心させておけば、この女は疑いもなく毒入りのお菓子を口にするわ!)

ファビアンは勝ち誇ったような笑みを必死に押し殺し、恭しく頭を下げた。

「お、お心のこもったご褒美、恐悦至極に存じます。ありがたく頂戴いたしますわ」

二人はなんの疑いも持たず、極上の笑みを浮かべながら、差し出されたお菓子を勢いよく口へと運んだ。

ディアナが苦しみ悶える最期を特等席で見届けられるという、邪悪な歓喜に胸を躍らせながら。

――しかし、神が彼女たちに微笑むことはなかった。

「がはっ……!? あ、熱い、身体が……!」

飲み込んだ瞬間、二人は喉をかき、激しくのたうち回りながらその場に崩れ落ちた。

内側から湧き上がるような魔力の奔流が、彼女たちの体を容赦なくむしばんでいく。

「な、なぜ……!? どうして私が……あああああ!」

絶叫とともに、二人の姿は見る間に変わり果てていった。

魔女の毒――それは肉体を滅ぼすだけでなく、心の醜さをそのまま外見へと引きずり出す呪いだったのだ。

滑らかだった肌は見る影もなく淀み、気高く整っていたはずの容貌は、怨念に歪んだ怪物のような姿へと変貌していった。

のたうち回る衝撃でファビアンのメイド服は乱れ、変装用のかつらが無惨に脱げ落ちる。

そこに現れたのは、もはや令嬢の面影など微塵もない、醜悪な本性を露わにした復讐者の正体だった。


私は、目の前で自業自得の結末を迎えた二人を、ただ無言で見つめていた。

かつては美しく着飾っていた令嬢たちが、憎悪に身を任せた結果、このような無惨で醜悪な姿にまで成り果ててしまった。

その愚かさと哀れさに、私の胸には、深い痛ましさと虚しさが去来していた。

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